γ線(読み)ガンマセン

デジタル大辞泉 「γ線」の意味・読み・例文・類語

ガンマ‐せん【γ線/ガンマ線】

放射線の一。放射性元素のγ崩壊で放出される、波長が10-11メートル以下の電磁波X線より透過力が大きく、電離作用は小さい。がんの治療や材質検査など広く利用される。
[類語]放射線放射能宇宙線赤外線熱線遠赤外線紫外線可視光線アルファ線ベータ線エックス線レントゲン線

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百科事典マイペディア 「γ線」の意味・わかりやすい解説

γ線【ガンマせん】

放射性原子核から発せられる短波長(10(-/)1(0/)〜10(-/)12cm)の電磁波。最近では人工的に作られる,特に短波長(10(-/)13cm程度)のX線もγ線という。α崩壊β崩壊核反応に伴い,原子核が励起状態から基底状態に落ちるとき余分なエネルギーをγ線として放出する。α・β・Χ線に比べ電離作用ははるかに弱いが,透過力はきわめて強い。素粒子の生成や消滅の過程でも吸収や放出がおこる。医療(癌の治療など)や工業などに広く利用されている。
→関連項目ガイガー=ミュラー計数管K中間子原子力電池電磁波β線粒子線治療

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「γ線」の意味・わかりやすい解説

γ線
がんません

波長が0.01オングストローム(Å)よりも短い、すなわち光量子のエネルギー(hν)でいえば数百キロ電子ボルト(keV)以上の電磁波をγ線とよんでいる。波長の大きさの順に、電波、赤外線、可視光線、紫外線、X線、γ線と、同じ光であっても波長によって名前が異なっているが、それは物理学の歴史に現れたときの出所や由来によるものである。

 1896年にベクレルキュリーによって、放射性物質から出てくる放射線には三つの成分があることが発見され、それぞれα(アルファ)線、β(ベータ)線、γ線とよんだ。そのうち電荷をもたないγ線がきわめて波長の短い電磁波であることがわかった。放射性元素の崩壊に伴うγ線は、生成核が励起状態から、より低い状態または基底状態に落ちるときに発せられるもので、そのエネルギーhν(hはプランク定数、νは振動数)は遷移状態間のエネルギー差に等しい。人工的にγ線をつくるには、電子をシンクロトロン加速器のようなもので加速し、それを物質、たとえば鉛に当てる。電子は運動エネルギーの一部を制動放射によって放射の形で放出する。加速電子のエネルギーが低ければ連続X線、高ければ連続γ線が得られる。また加速電子にレーザー光線を照射すると、コンプトン散乱によって波長の短い光に変換することができ、高エネルギーγ線を得ることができる。γ線は透過能力が他の放射線に比べて高いので、医療や材質検査などに広く用いられる。強い放射線源として原子炉でつくられるコバルト6060Co)がラジウムのように高価ではないので一般に広く用いられる。コバルト60は0.3MeV(MeVは100万電子ボルト)のβ線を出してニッケル60となり、1.33MeVおよび1.17MeVの強いγ線を出す。波長のきわめて短い高エネルギーのγ線を原子核や素粒子に照射して、その構造を研究するために有用な手段として用いられている。

[村岡光男]

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改訂新版 世界大百科事典 「γ線」の意味・わかりやすい解説

γ線 (ガンマせん)
γ-rays

原子核のγ崩壊の際に放出される放射線。波長の非常に短い電磁波で,波長の長いほうの限界ははっきり定まっていないが,0.1Å程度まで含まれる場合が多い。その光子のエネルギーは線スペクトルを示し,典型的には数十keVから数MeVに及ぶさまざまな値をもつ。α線,β線に比べ強い透過力をもつのが特徴であるが,物質中の電子と光電効果やコンプトン効果の相互作用,あるいは電子-陽子対生成によって指数関数的に強度を弱める。検出には主としてヨウ化ナトリウム・シンチレーションカウンターゲルマニウム半導体検出器などが用いられる。放射性崩壊に続くγ崩壊や原子核反応でできる励起状態のγ崩壊からのγ線を詳しく調べるγ線スペクトロスコピーによって,原子核構造などが明らかにされつつあり,またγ線を応用するものとして,メスバウアー効果を利用した物性などの研究も行われている。このほか,γ線は癌の治療などの医療目的,金属中の探傷などの工業用にも広く利用されている。
放射線
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化学辞典 第2版 「γ線」の解説

γ線
ガンマセン
γ-rays

原子核のエネルギー準位間の遷移により放出・吸収される光子(電磁波)であり,一般に高いエネルギーをもっているが,235U 原子核の第一励起準位から基底準位への遷移に伴うγ線は数十 eV のような低いエネルギーをもっている.A.H. Becquerel(ベクレル)によるウランの放射能の発見(1896年)やCurie(キュリー)夫妻によるラジウムおよびポロニウムの発見(1898年)以来,α線,β線とともに放射性元素の出す放射線としてよく知られている.高エネルギーγ線の線源は,放射性同位元素として入手がかなり容易になったので,広く理工学研究用の照射線源として用いられ,医療用としてはがんの治療や診断など,工業用では非破壊検査法の一種として鋳物,溶接部の内部欠陥の探知など,その応用は急速に広がりつつある.さらにメスバウアー効果を利用した物性研究の方面にもその用途が拡大されてきた.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「γ線」の意味・わかりやすい解説

γ線
ガンマせん
γ-ray

X線よりさらに波長の短い電磁波。波長の境界ははっきりしていないが,通常約 0.01nm (0.1Å) 以下のものをいう。透過力はX線より強いが,電離作用,写真作用,ケイ光作用はX線より弱い。原子核のエネルギー準位間の遷移で放出または吸収される。素粒子の生成や消滅の過程でも放出,吸収が起る。人工的にはベータトロンや電子シンクロトロンから得られる高エネルギー電子線を,タングステンのような重金属に照射してつくる。癌の治療,金属材料の内部欠陥の探知など,医学,工業などに広く応用されている。

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栄養・生化学辞典 「γ線」の解説

γ線

 波長の短い電磁波で,0.1Åを超える範囲までが含まれる.原子のエネルギー状態の変化によって放出される放射線の一つ.物質透過力が強く,医療(腫瘍の処置やトレーサーとしての利用など)や工業(物質の内部の非破壊検査など)に利用されている.

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世界大百科事典(旧版)内のγ線の言及

【宇宙線】より

…また,宇宙空間での宇宙線のもつエネルギー密度は1eV/cm3程度である。二次宇宙線の成分は,π中間子,K中間子など,およびこれらが崩壊して転化するμ粒子,電子,γ線,中性微子などである。なお,少量ではあるが,宇宙から飛来する電子,陽電子,γ線,中性微子,反陽子などもあり,高エネルギーのものは宇宙線として扱われている。…

【原子核】より


【原子核の崩壊】
 原子核の発見のきっかけとなったのは,その崩壊の際に放出される種々の放射線である。α線,β線,γ線が知られているが,その正体はα線がヘリウムの原子核42He,β線は電子,γ線は波長の短い電磁波である。α線放射による崩壊(α崩壊)は,原子核(A,Z)が(A,Z)→(A-4,Z-2)+42Heという過程に対して不安定である場合,すなわちB(A,Z)<B(A-4,Z-2)+B(4,2)の場合に起きる。…

【原子力】より

…次いでE.ラザフォードは,ウランから放出される放射線のなかに,正の電荷と負の電荷をもつ放射線があることに気がつき,それぞれ,α線とβ線と名づけた。さらに,電荷をまったくもたない放射線もあることが発見され,γ線と命名された。β線が電子の流れであることは1900年にベクレルによって明らかにされた。…

【電磁波】より

…これを電磁波という。電磁波はその波長によって,一般に波長がmm程度以上のものを電波,それより短く1μm程度までを赤外線,0.7μmから0.3μm程度までを可視光,さらに短く数nmまでを紫外線,若干重複して10nmから1pmの範囲をX線,10pmより波長の短い電磁波をγ線と呼んでいる。重複している部分は,電磁波を発生するメカニズムに応じて呼称を変えているのがふつうで,また電波を電磁波と同義に用いることも多い。…

※「γ線」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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