《詩学》(読み)しがく

世界大百科事典(旧版)内の《詩学》の言及

【演劇】より

… このような二分法は,実は古代ギリシアにも存在したので,すでに触れたディテュランボスは,ディオニュソスへの讃歌をオルケストラにおいて円形に舞われる舞歌によって表すものであり(他のジャンルではコロスは四角に展開した),仮面も衣装もつけず,役を演ずるのでもなかったから,この点で,代行型演戯である悲劇,サテュロス劇,喜劇とは対比されていた。しかし作品としては悲劇と喜劇のうちの傑作とされたものの一部が残り,アリストテレスの《詩学》も悲劇論が演劇論として残ったために,西洋世界では代行型演戯のみを演劇と見なす伝統が根強く,物語性のない踊りや純粋にショー的演戯はその視野に入ってこないことが多かった。しかし20世紀に入ってからの,特に1960年代以降の演劇の再検討と変革の中では,〈他者の視線を前に演戯する人間〉そのものが実践と反省の両面で思考の対象とならざるをえなかった。…

【戯曲】より

…いいかえれば,流れている現実の行動をひとつの単位として切り取り,それを始めと終りのある統一体として展望するとはどういうことか,ということであるが,これは演劇の文学性,あるいは戯曲の本質を考えるうえで決定的な問題だといえる。周知のように,アリストテレスは《詩学》のなかで演劇を〈一定の長さを持ち,必然的な始めと中と終りを持って完結した行動の再現〉と定義し,この点に演劇が歴史と区別されるひとつの重要な特性がある,と考えた。こうした自己完結した行動は,もちろん,現実のなかにそのままのかたちでは存在しないから,何らかの特別の力がそれを現実の外に創造するのだ,と考えなければならない。…

【詩学】より

…ただしここでいうところの〈詩〉とは,狭い意味でのいわゆるばかりではなく(このような比較的狭い範囲のものを扱う場合には,〈詩法〉〈詩論〉の用語もしばしば用いられる),文学一般,さらにロシア・フォルマリズムの登場以後の現代においては,まったく違う視座から,芸術全般,文化全般をも含むものとなっている。そのような意味での今日における詩学とは,文化の,あるいは文化の創生にかかわる構造,あるいは〈内在的論理〉とでもいうべきものの解明の学になっているといってもよかろう。 ヨーロッパにはアリストテレス以来の詩学,あるいは文学上の創作論の伝統があったが,20世紀初めのロシアにおいて,それとは直接的・具体的な影響関係はもたずに,まず文学作品を一つの言語世界としてとらえ,その言語(表現)のさまざまなレベルでの〈手法〉と構造の統合的研究から作品を解明しようとする,フォルマリストたちのまったく新しい視座からの〈詩的言語〉あるいは言語の〈詩的機能〉の研究が興った。…

【ドラマトゥルギー】より

…広くは演劇観一般を意味し,狭くは具体的な劇作法・劇作術をさす言葉であるが,これが一つの術語として確立していることが,演劇という芸術の本質的な一面を暗示しているといえる。現代語には文学観の全体を示す〈詩学poetics,Poetik(ドイツ語)〉という言葉はあるが,個々のジャンルについて,たとえば抒情詩観を一語で表す成語はないし,小説作法を意味する単独の術語もないからである。古来,演劇はとくにその方法論について意識的な芸術であり,その伝統が,近代のドイツにいたってこの独特の術語を生んだと考えられる。…

【悲劇】より

…それは近代以後の散文劇とはまったく異質の,非日常的劇形式だったのである。 これらの悲劇を具体的に論じたアリストテレスの《詩学》は,世界最初の悲劇論であり,またその後の悲劇観に決定的な影響を及ぼした著作である。この中で著者は,悲劇とは厳粛で,ある大きさをもった一つの完結した行動を模倣するもので,憐憫(れんびん)と恐怖という感情を起こす事件を含み,この事件を通じてこれらの感情の浄化(カタルシス)を達成するという趣旨のことを述べている。…

※「《詩学》」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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