(読み)サビ

デジタル大辞泉 「錆」の意味・読み・例文・類語

さび【×錆/×銹/×鏽】

《「さび」と同語源
空気湿気などの作用金属表面に生じる、酸化物炭酸塩などの皮膜。鉄の赤さび・黒さび、銅の緑青ろくしょうなど。
わが身にもたらされる悪い結果。「身から出た―」
錆漆さびうるし」の略。
[類語]赤錆黒錆緑青錆びる錆び付く

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改訂新版 世界大百科事典 「錆」の意味・わかりやすい解説

錆/銹 (さび)
rust

自然環境(大気土壌,海水,淡水など)の中で金属が腐食したときに,金属の表面に生ずる腐食生成物。さびは金属の水和酸化物,塩基性水酸化物などの微小な結晶が凝集したものである。金属と環境との組合せに応じて多様な色彩を示す。さびを削りとって粉末にしたものは無機質の顔料の一種に相当する。人間の目に最も負担にならない色はチョコレート色と緑色であるといわれるが,金属を代表する鉄と銅のさびがそれぞれ赤褐色(赤さび),緑色(緑青(ろくしよう))であるのはおもしろいとり合せである。

 鉄のさびの成分は,無定形酸化物Fe2O3・3H2O(赤褐色),レピドクロサイトγ-FeOOH)(褐色),ゲータイトα-FeO(OH)(黄色),ヘマタイトFe2O3(赤褐色),マグネタイトFe3O4黒色)などである。弱還元性の環境では鉄の上にも緑さびが生ずることがあるが,十分の空気にふれると赤さびに変わる。現実のさびは,これらの化合物の微結晶のほかに,外部から混入する土(Al2O3とSiO2とを主成分とする粘土鉱物),海塩粒子(NaCl),硫酸塩(Fe2(SO43)など雑多な成分を包含している。

 銅のさびの成分は,マラカイトCuCO3・Cu(OH)2(塩基性炭酸銅,緑色),アズライト2CuCO3・Cu(OH)2(塩基性炭酸銅,藍青色),ブロカンタイトCuSO4・3Cu(OH)2塩基性硫酸銅,緑色),アタカマイトCuCl2・3Cu(OH)2(塩基性塩化銅,緑色),酸化銅(Ⅰ)CuO(黒色),酸化銅(Ⅱ)Cu2O(赤色)などである。

 鉄以外の金属(銅,鉛,亜鉛,アルミニウムなど)では,清浄な大気中でできるさびが緻密(ちみつ)で安定であり,安定さび生成後の腐食の進行はほとんど停止する。鉄の上に生ずる赤さびは,一般には自己保護性に乏しく,放置すると表面のさびによる材料の劣化が進行する。〈鉄はさびて減らすよりは研いで減らせ〉と古くからいわれるのはこのためである。さびの語源は〈荒(すさ)ぶ〉から転じたものといわれる。

 普通鋼に銅を0.2%,クロムを1.0%,リンを0.1%程度添加した鋼では表面に自己保護性の高いさびを生じる。とくに耐候鋼という名がつけられ,建築用材として大気中で裸で使用される。一般には鋼材の使用に際しては,めっき塗装電気防食防錆剤(ぼうせいざい)などが鋼材の使われる環境に応じて防食手段として採用される。

 金属がさびる化学反応は水と空気(酸素)を必要とする。金属と酸素との化学反応の自由エネルギー変化は常温では負であり,酸化は自然に起こってよい反応である。しかし乾いた空気中での金属表面に生ずる酸化物は5nm以下の厚みで,その後の酸化反応は防止される。この表面にできる酸化物の超薄膜の保護作用を破壊するのが水であり,酸素と水とが共存する条件下では腐食が進行して1μm以上の厚みのさび層に変化する。
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デジタル大辞泉プラス 「錆」の解説

北方謙三の長編ハードボイルド小説。1985年刊行。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「錆」の意味・わかりやすい解説


さび

金属の腐食」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【腐食】より

…このように環境中に存在する特定の物質との化学的相互作用によって材料が変質や劣化する現象は,金属に限らずすべての材料にとって,その使用寿命を決める重要な因子の一つであるが,単に腐食という場合には金属腐食metallic corrosionを意味するのが通例である。実用金属はもともと酸化物,硫化物などの形で産出する鉱物資源から製錬によって得られたものであり,腐食してさびになることは金属にとってみれば,かつて自然界に存在した安定な形に戻る自発的な過程である。このため金属材料にとって本質的な問いは〈なぜ腐食するのか〉ではなくて〈なぜ腐食しないのか〉であり,腐食しないメカニズムが崩れると本来の姿として腐食が進行するということになる。…

※「錆」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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