ウィーナー過程(読み)ウィーナーカテイ(英語表記)Wiener process

デジタル大辞泉 「ウィーナー過程」の意味・読み・例文・類語

ウィーナー‐かてい〔‐クワテイ〕【ウィーナー過程】

米国の数学者N=ウィーナーが考案した時間的に連続確率過程ブラウン運動の数学的モデルであるほか熱力学拡散過程電子工学のノイズ理論金融工学ブラックショールズの方程式など、純粋数学応用数学の両分野で広く用いられる。

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改訂新版 世界大百科事典 「ウィーナー過程」の意味・わかりやすい解説

ウィーナー過程 (ウィーナーかてい)
Wiener process

時間とともに変化する偶然現象の数学的模型である確率過程のうちで,もっとも代表的なものである。初め,イギリスの植物学者R.ブラウンが顕微鏡水中にある花粉から出る微粒子を観測しているうちに,それらが激しい不規則運動をしていることを発見した。この運動は,後に水の分子が微粒子と無数といってよいほど頻繁に衝突することによって起こるものであることがわかり,ブラウン運動Brownian movementと呼ばれるようになった。A.アインシュタインは,1905年にこの運動の数学的記述を与え,一定時間内の変移はガウス分布に従うことを理論的に示した。次いで,P.レビはブラウン運動を確率過程としてとらえ,その確率的性質を詳しく調べた。その出発点は次のように考えられる。いまt時間の間に推移した量を三次元ベクトルとして(B1t),B2t),B3t))と書こう。これは各微粒子ごとにいろいろと異なった値をとるであろうが,そのベクトルがある範囲内にある割合すなわち確率を指定したり,またtとともにどのようにその偶然が変化するかを指定することができて,現実のブラウン運動の数学的模型が得られる。実際,三つのBit)は互いに独立で,各Bit)は独立増分をもつガウス過程である。そしてBit)-Bis)は平均0,分散|ts|のガウス分布に従っている。その中の一つの成分,例えばB1t)をとり,t関数とみるとき,各粒子ごとに一つの連続関数が得られる。よって連続関数の集合が得られ,その部分集合の多さを粒子の多さとして測ることができる。そのような測度はウィーナー測度と呼ばれ,N.ウィーナーの創始したサイバネティックスの理論の中で重要な役割を果たしている。
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世界大百科事典(旧版)内のウィーナー過程の言及

【確率過程】より

…その確率法則は,平均値m(t)=EXt(ω)}と共分散関数ρ(t,s)=E{(Xt(ω)-m(t))(Xs(ω)-m(s))}とで決まる。m(t)=0,ρ(t,s)=min{t,s}(=tsの小さいほう)であるガウス過程{Xt(ω)(t≧0)}で見本関数が連続であるものをウィーナー過程,またはブラウン運動という。これはR.ブラウンが観察した花粉の微粒子の不規則運動や,A.アインシュタインが研究した分子運動の模型を,N.ウィーナーが数学的に厳密にしたもので,ウィーナーやP.レビの詳しい研究がある。…

※「ウィーナー過程」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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