トウ(読み)とう

改訂新版 世界大百科事典 「トウ」の意味・わかりやすい解説

トウ (籐)
rattan palm
rattan

トウ属Calamus,キリンケツ属Daemonoropsなど,熱帯に産する数種のつる性ヤシ類の総称。茎は籐いすや籐細工に用いられる。茎はつる性で細く,他の木に巻きついて伸び,長さ60~180mになるものもある。茎には節があって,ここから長い柄のある葉を出す。葉柄の基部は葉鞘(ようしよう)となって茎を抱き,葉は羽状複葉で,先端は通常,むち状に長く伸びる。葉柄や葉鞘,葉の裏面の中肋には太く鋭いとげが下向きに多数あり,また茎にもとげを有するものがあって,これらのとげで他物にからみつく。小葉は通常,線状披針形,まれにひし形状くさび形(Korthalsia属)である。花は雌雄異株または同株,肉穂花序は腋生(えきせい)するが,一部のものでは頂生する。花序は外側を筒状または裂開性の仏焰苞(ぶつえんほう)で包まれている。果実は球形または楕円形で,長さ1~2cm,外側は瓦重ねの光沢ある鱗片でおおわれ,赤色脂質の液を分泌するものがある。トウ類は熱帯アジア,オーストラリア北部(一部はアフリカおよび南アメリカ)に約500種を産し,マレーシアにおいてもっとも分化発達している。このうちアジアに分布するキリンケツ属(約100種),トウ属(約375種),Korthalsia属(35種),Plectocomia属(6種),Ceratolobus属(5種)などのとげをとりのぞいて,すべすべにした茎が籐細工に用いられるが,種類によって品質や用途が多様に分化している。スマトラ産のキリンケツDaemonorops draco Bl.やD.kurzianus Hook.f.,D.propinquus Becc.の果実の鱗片の間から分泌される紅色の樹脂は麒麟血(きりんけつ)(英名East Indian dragon's bloodあるいはdragon's blood)と称し,家具用ニスの製造,歯みがき粉や飲料水などの着色用,薬用とされる。トウ類の果実は,種子をつつむ甘い果肉があり食用にされるし,若芽も食べられる種があるが,多くは小さすぎたり,苦味が強かったりする。また幼植物は,温室で観賞用に栽植される。

 トウ類は陽性の植物であり,密林内では光不足のため高さ約30cm~1mぐらいで,何年も生長休止の状態でいる。しかし上木が伐採されるか,暴風で倒れて,林内に光が入るようになると,いっせいに生長を始めて,トウのまつわりついた密林となる。このような林はトウのとげのため,林内に侵入することはほとんど不可能である。熱帯の原生林ジャングルと呼ぶのは誤りで,ジャングルというのは前記のようにトウが密生した林,つまり二次林のことである。
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籐は軽く強靱で柔軟性に富み,しかも耐久性があって,茎の太さも50~60mmになるため,きわめて利用範囲が広い。日本においても古くから,籐を繁く巻いた重籐弓(しげとうのゆみ)など武器類の柄巻きや,その他道具類の柄巻きなどとして重用された。編むことにおいては竹のほうが普及したが,仕上げとなる縁回りやかがりには籐のほうが適しており,その編み方の種類は100種にも達するという。近年はその材質感と軽さが好まれ,屋内の家具調度,とくにラタン・インテリアとして生活のうちに定着している。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「トウ」の意味・わかりやすい解説

トウ
とう / 籐
[学] Calamus rotang L.

ヤシ科(APG分類:ヤシ科)トウ亜科トウ属の一種。属名は葦(あし)、種名は杖(つえ)の意味である。インド原産。幹は細長く、他物についてよじ登り、または地をはい、長さ100メートル以上に及ぶ。幹肌には葉痕(ようこん)の環紋がある。葉は披針(ひしん)形、全裂の羽状葉で長さ40~80センチメートル、小葉は長さ15~30センチメートル、幅1.2~2センチメートル。葉軸、葉脈、葉柄、葉鞘(ようしょう)に鋭い刺(とげ)がある。葉柄は短く、葉鞘は長さ0.7~1メートル。雌雄異株で単性花をつける。雄性の肉穂花序は長さ0.6~1メートル、雄花は長さ2ミリメートル、花弁は舟形の披針形で、雄しべは6本、葯(やく)は矢じり状、不稔(ふねん)の雌しべがある。萼(がく)は鐘状。雌性の肉穂花序は長さ15~20センチメートル、雌花は円錐(えんすい)形で長さ3ミリメートル、6本の無葯の雄しべがある。包葉には無数の鋭い刺がある。果実は光沢のある褐色の鱗果(りんか)で径1.2~1.5センチメートル。種子は扁円(へんえん)形で径1センチメートル、胚(はい)は底部にある。材は耐久性が強く、強靭(きょうじん)で、機械、器具、家具のほか、籐椅子(とういす)やステッキなど工芸品にもよく用いられる。観賞用に栽培もされ、多湿にし、最低温度は10℃を要する。

 トウ亜科は724種を含み、熱帯・亜熱帯アジア、オーストラリアに分布する。

[佐竹利彦 2019年4月16日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内のトウの言及

【直紡】より

…直接紡績の略。スパンレーヨンなどの製造において,数千本ないし数万本の長繊維束をゆるいロープの形にして巻いたトウtowを切断して,綿状のステープルファイバーにし,繊維を平行に並べ,伸ばし,撚り(より)をかけて精紡する。直紡においては,繊維をそろえて平行に並べて伸ばすカーディング操作が省略される。…

【紡績】より

…(1)繊維の長さによる分類 (a)短繊維紡績(繊維長約50mm以下),(b)長繊維紡績(繊維長約50mm以上)。(2)原料による分類 (a)綿糸紡績および落綿紡績,(b)毛糸紡績(梳毛(そもう)紡績,紡毛紡績),(c)絹糸紡績(長綿紡績,短綿紡績,紬糸(ちゆうし)紡績),(d)麻糸紡績(亜麻紡績,ラミー紡績ほか各種),(e)化学繊維の紡績(綿紡式,毛紡式,トウ紡績,直紡式)。 紡績法における短繊維,長繊維の区別は明確でなく,綿と同様な紡績法をとる場合は短繊維紡績,梳毛と同様な場合は長繊維紡績である。…

【ヤシ(椰子)】より

…また,この多数の属や種の多くは限定された狭い地域にのみ分布するという,固有性の強い植物群でもある(図)。 幹(茎)は単一で直立するものが多いが,シュロチクのように株立ちになるもの,トウのようにつる性のもの,あるいはニッパヤシ(イラスト)のように地表を横走するものもある。葉は葉鞘(ようしよう),葉柄,葉身の三つの部分に分化しており,しばしば大型となり,ニッパヤシのように10mをこえることもある。…

※「トウ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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