トノサマガエル(読み)とのさまがえる(英語表記)pond frog

改訂新版 世界大百科事典 「トノサマガエル」の意味・わかりやすい解説

トノサマガエル (殿様蛙)
Rana nigromaculata

アカガエル科に含まれる日本の代表的なカエルで,カエルという語源も本種の鳴き声に由来すると考えられている。本州四国,九州,大隅諸島朝鮮半島,中国北部に分布し,体長は雄6.5~7.5cm,雌7~8.5cm。日本産カエルとしては例外的に雌雄で体色が異なり,雄の基色は黄緑色,雌は灰白色でそれぞれ不規則な黒い斑紋がある。平地の水田,小川,池沼の周辺にすみ,一跳びで水中に逃げこめる草むらにいることが多い。長い後肢には水かきが発達し,ジャンプ力も遊泳力もともに優れる。繁殖期は5月末から6月ごろで大群が水田などに集まり,夜空に響く雄の大合唱は梅雨期における田園風物詩とされ,初夏の季語ともなっている。卵塊はほぼ球形直径20cmほどあり,約1000~4000個の卵を含む。餌は生きた昆虫類で,水中からでもジャンプしてとらえる。トノサマガエルによく似たダルマガエルR.porosaは本州・四国の瀬戸内海沿岸地方から東海地方に分布する。体長は雌雄ともに5~6cmほどで,胴が太く四肢が短い。体色に性差はなく,体背面の黒斑はまるくて連続しない。繁殖期は6月ごろで,卵塊は不定形の小塊となって散在し,2000個ほどを産卵する。ダルマガエルの祖先型は,かつて日本列島が中国大陸の前縁に位置したころに分布を広げ定着したもので,後に朝鮮半島経由で渡来した優位なトノサマガエルにしだいに圧迫され,分布を狭めたものと考えられている。一部では自然交雑が行われ,その結果生じたと考えられる亜種トウキョウダルマガエルR.p.porosaが,関東新潟仙台平野などに分布している。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「トノサマガエル」の意味・わかりやすい解説

トノサマガエル
とのさまがえる / 殿様蛙
pond frog
[学] Rana nigromaculata

両生綱無尾目アカガエル科のカエル。本州、四国、九州のほか、朝鮮半島、沿海州、中国大陸に分布する。成熟した雌雄は著しく色彩・斑紋(はんもん)が異なり、雌は白色の地に不規則に連続した大形黒斑をもつのに対し、雄は一様な黄褐色を呈する。背面に淡色の背中線、両側に淡色の背側隆条がある。未成熟個体では緑色がかることが多い。背面には多数の細長い縦隆起があり、腹面は平滑で白色。雄は口角部に1対の鳴嚢(めいのう)を備え、繁殖期には前肢第1指に暗色の婚姻瘤(こんいんりゅう)が発達する。体長6~9センチメートルで雌は大形。低地、山間部の水田に生息し、4~6月に産卵する。卵径1.8ミリメートル、卵数約2000個、卵塊は球状で水底に沈む。東瀬戸内海沿岸から東海地方、信越地方にかけて、近縁のダルマガエル、トウキョウダルマガエルと混生している。これらの地域では繁殖場所、繁殖期、鳴き声などの違いによって両者は隔離されているが、この隔離は不完全で各地に自然雑種が発見されている。関東平野、仙台平野とその周辺にはトウキョウダルマガエルのみ分布し、トノサマガエルはいない。ダルマガエルは小形で体長約5センチメートル。褐色で背中線、縦隆起はなく、大形黒斑が散在する。トウキョウダルマガエルはその亜種で、体長、鳴き声、背面斑などの点でトノサマガエルとダルマガエルの中間的な特徴をもつため、過去の交雑によって生じた雑種起源のカエルとみなされる。

[倉本 満]


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百科事典マイペディア 「トノサマガエル」の意味・わかりやすい解説

トノサマガエル

両生類アカガエル科。体長6〜9cm,日本の代表的な低地性のカエルで,本州,四国,九州,朝鮮半島,中国に分布。関東平野には少なく,この地方でトノサマガエルと呼ばれているものはダルマガエルの場合が多い。体色は緑〜褐色で,斑紋とともに変異がある。池や水辺,水田に多く,危険が迫ると底の泥にもぐる。産卵期は5〜6月で,このころ雄は両ほおにある鳴嚢で盛んに鳴く。卵塊は球形,1000〜4000個を産卵。準絶滅危惧(環境省第4次レッドリスト)。
→関連項目ダルマガエル

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トノサマガエル」の意味・わかりやすい解説

トノサマガエル
Rana nigromaculata

カエル目アカガエル科。体長は大きいもので 8.5cm内外。体色は変異が多いが,緑色地に褐色の斑紋をもつものが多い。眼の後方にはっきりした円形の鼓膜をもつ。後肢の蹼 (みずかき) はよく発達している。産卵期は5~6月頃で,水田付近に産卵する。卵は暗黄褐色,直径 1.5mm内外で小さく,寒天状の物質で包まれている。本州,四国,九州に分布するが,関東地方や仙台平野には生息せず,ダルマガエルによって置き換えられている。

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