ブラフマン(英語表記)Brahman

翻訳|Brahman

精選版 日本国語大辞典 「ブラフマン」の意味・読み・例文・類語

ブラフマン

[1] 〘名〙 インドのバラモン教思想で説かれる宇宙の根本原理もとは、聖典ベーダのことば、およびそれが持つ呪力を意味した。自己の主体的原理であるアートマンと対比的にも用いられ、この場合ブラフマンとアートマンは合一する(梵我一如)とされる。
[2] ⸨ブラフマーブラマ⸩ (一)から転じて、シバビシュヌとともに、ヒンドゥー教の最高神。後に、前二者にとってかわられ、仏教にとりいれられて梵天となった。
※大教院分離建白書(1872)〈島地黙雷〉「婆羅門(ブラマ)宗の興る、一に造化の神『ブラマ』〈梵天〉を立るに依るのみ」

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デジタル大辞泉 「ブラフマン」の意味・読み・例文・類語

ブラフマン(〈梵〉Brahman)

インドの正統バラモン教思想における最高の理法。宇宙の統一原理。万有の根本原理。ぼん。→アートマン

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改訂新版 世界大百科事典 「ブラフマン」の意味・わかりやすい解説

ブラフマン
Brahman

宇宙の根本原因を表す,インド哲学のきわめて重要な術語の一つ。梵と音写される。インドにおいては,早くも前1200年ころを中心に編纂されたといわれる《リグ・ベーダ》において,宇宙の最高神または根本原因の探求が開始された。その探求は《アタルバ・ベーダ》において進展を示し,ブラーフマナの時代を経て,ウパニシャッドの時代になると最高神への関心は薄れ,もっぱら非人格的な,抽象的な一元的原理を追求するにいたった。この結果到達された諸原理のうち,最も重要なものはブラフマンとアートマンである。ブラフマンはすでにブラーフマナの時代において宇宙の非人格的原理の地位に高められ,ウパニシャッドにおいても,それ以後の思想史においてもその地位を保持する。ブラフマンという語は,《リグ・ベーダ》以来,ベーダ聖典で頻繁に用いるが,その原義については異説があって明確ではない。しかし一般に,元来はベーダの祈禱の文句ならびにその神秘力を意味し,祭式万能主義の傾向が強まるとともに,神々をも支配する力とみなされ,ブラーフマナの時代にはついに宇宙の根本原理,絶対者の一呼称となったと考えられている。ウパニシャッドの哲人たちは,個人の本体であるアートマン(我)はこのブラフマンと同一である(梵我一如)と説いた。インド哲学の主流を成すベーダーンタ学派は,このブラフマンの考究を主要任務とするものとして成立した。その派の根本経典《ブラフマ・スートラ》は,ブラフマンを〈この世界の生起などの起こるもとのものである〉と定義し,宇宙の質料因でありかつ動力因であると規定し,これ以外の世界原因を否認した。ブラフマンは単なる中性的原理ではなく人格的存在とも考えられているようである。その本質は有,知,歓喜であるという。後代になると,ヒンドゥー教の神々ビシュヌ,クリシュナなどと同一視されるにいたる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ブラフマン」の意味・わかりやすい解説

ブラフマン
ぶらふまん
Brahman

「宇宙の最高原理」を示すインド哲学の術語。「梵(ぼん)」と訳され、とくにウパニシャッド文献およびベーダーンタ学派において重視される概念である。神聖な呪力(じゅりょく)をもつ「ベーダの語」を原義とみる説が広く支持されたが、「天上の火」「宇宙の謎(なぞ)」、万物のよりどころとなる「力の観念」などに原意を求める説もあり、定説をみない。古く『リグ・ベーダ』において宇宙の統一的原理を求める思索が開始され、ブラフマナスパティ(祈祷主(きとうしゅ))を世界創造者とする賛歌、原人からの万物発生を説く賛歌などが現れている。ついで『アタルバ・ベーダ』で、生気(プラーナ)、時間(カーラ)、愛欲(カーマ)、万有の支柱(スカンバ)などが最高原理とされ、プラジャーパティ(造物主)を根本原理とみるブラーフマナ文献を経て、ウパニシャッド文献に至って、ブラフマンが最高原理の位置を占めるに至った。中性原理ブラフマンは、やがて人格的最高原理アートマンと同一視され、ここにブラフマンとアートマンの一致説(梵我一如(ぼんがいちにょ)思想)が成立した。この説を継承するベーダーンタ学派は、ブラフマンを認識して解脱(げだつ)を得ることを目的としており、唯一無二のブラフマンと、雑多に現れ変化する現象界との関係をいかに説明するかということに力を注いだ。代表的哲人シャンカラは、現象界の虚妄を説いて不二一元論(ふにいちげんろん)を唱えた。そのほかバースカラの不一不異論(ふいつふいろん)、ラーマーヌジャの被限定者不二一元論など種々の説が主張され、ブラフマン論はインド哲学の中心的課題となった。

[松本照敬]

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百科事典マイペディア 「ブラフマン」の意味・わかりやすい解説

ブラフマン

正統バラモン教の最高原理。梵(ぼん)と音写される。歴史的には前5世紀ころ成立の〈ウパニシャッド〉においてみられる。それ以前は〈ベーダ〉の賛歌・祭詞・呪詞に内在する神秘的な力とされていた。それがバラモン教自体が祭式万能になる前後に,根本的創造原理とされるようになり,梵我一如(ぼんがいちにょ)の思想も生まれた。→アートマン
→関連項目ヒンドゥー教ベーダーンタ学派梵字梵天

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ブラフマン」の解説

ブラフマン
brahman 梵(ぼん)

インド哲学の概念。ヴェーダ讃歌およびその神秘力をさし,そこに宗教的・魔術的意味を持たせた。ウパニシャッドでは宇宙の最高原理となり,アートマンとの合一を究極の理念とするようになった。それ以後ヴェーダーンタ哲学はこの語の意義の究明を主目的とした。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ブラフマン」の意味・わかりやすい解説

ブラフマン
brahman

インドの正統バラモン教思想における最高原理。梵と漢訳される。もとはベーダの賛歌,祭詞,呪詞,さらにそこに内在する神秘力を意味したが,ウパニシャッド哲学においては,世界の根本原理あるいは絶対者の名称にまで高められ,アートマン (我) はブラフマンにほかならないとする梵我一如の思想が強調された。

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旺文社世界史事典 三訂版 「ブラフマン」の解説

ブラフマン
Brahman

サンスクリット語で宇宙の根本原理の意。梵と訳される
ウパニシャッドではブラフマンと,人格的最高原理であるアートマンの一致を説いている。

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世界大百科事典(旧版)内のブラフマンの言及

【ウシ(牛)】より

…強健で放牧に適す。(6)ブラーマン種Brahmanアメリカ南部でインド牛のカンクレージ種,オンゴール種,ギル種などを交雑してつくった熱帯地方に適する肉用種。体重500~800kg。…

【バラモン】より

…サンスクリットのブラーフマナbrāhmaṇaの音写〈婆羅門(ばらもん)〉による。英語ではブラーマンBrahman,ブラーミンBrahminなどとも呼ばれる。語源はベーダ聖典の言葉のもつ神秘的な力〈ブラフマン〉である。…

【一元論】より

…一元論は日本では《哲学字彙》(1881)以来,訳語として定着した。【茅野 良男】
[インドの一元論]
 何を万有の根源とするかについてインドでは古くから諸説があったが,ウパニシャッド,とくにウッダーラカ・アールニの有論によって,中性原理ブラフマンがそれであるとする説が主流となった。この説を展開したのがベーダーンタ学派であるが,ブラフマンと万有との関係については種々の異説があった。…

【インド神話】より

… ベーダの一部門であるブラーフマナ(祭儀書)文献においては,造物主プラジャーパティPrajāpati(〈子孫の主〉の意)が最高の創造神となり,彼による種々の創造神話が説かれた。しかし,しだいに最高原理ブラフマン(梵)の重要性が認められるようになり,ブラフマンによる宇宙創造が説かれるようになった。ブラーフマナ文献中にはまた,祭式の解釈と関連して,かなりまとまった形の神話が散見される。…

【木】より

…したがって,その根は実は枝であり,枝が根である。ベーダでは,この万物の超越的源泉は〈ブラフマン〉と呼ばれる種子であり,万物はその下方への顕現である。またイスラム教徒のあいだでは,〈幸福の樹〉の根は最高天に張り,枝は地下にひろがるとされる。…

【シャンカラ】より

… シャンカラの哲学の目指すものは他のインド諸哲学体系と同様に,輪廻からの解脱である。彼が教えている解脱への手段は宇宙の根本原理であるブラフマンbrahman(梵)の知識である。これは自己の中にある本体すなわちアートマンātman(我)はブラフマンと同一であるという,ウパニシャッドの梵我一如にまでさかのぼる真理である。…

【真言】より

…本来はベーダ文献の主要部分(サンヒター)を形成する賛歌あるいは呪句。マントラには本来超越的な威力(ブラフマン)が備わっており,それには神々すら従わざるをえないと考えられ,その力を支配する司祭階級(バラモン)は,それを駆使して世俗の願望に応じた。 一面においてかかる儀礼を受け継いだ密教は,真言を自己の実践上の有力な武器として世俗的に教線を拡張した。…

【ニンバールカ】より

…主著は《ブラフマ・スートラBrahma‐sūtra》に対する注釈(《ベーダーンタパーリジャータサウラバVedāntapārijātasaurabha》)で,牧人クリシュナと愛人ラーダーの崇拝をベーダーンタ哲学によって基礎づけた。ブラフマンをビシュヌ神あるいは脇にラーダーを伴ったクリシュナと同一視し,ブラフマン,個我,物質世界はそれぞれ永遠の実在であるとした。ブラフマンは原因,個我は結果であって,両者は同一ではないがまたまったく異なっているわけではなく,太陽と光線のように本質的不一不異svābhāvikabhedābhedaの関係にある。…

【汎神論】より

…今世紀に入ってからは,A.N.ホワイトヘッドが汎神論的な性格をもつ形而上学をうち立てた。【竹内 良知】
[インドの汎神論]
 インドでは,古くウパニシャッドの時代から,この世のすべて,つまり個我と物質世界はブラフマンが変化して現れたものであるとの考えが行われてきた。すなわち,最高原理であるブラフマンが,現象の世界に遍在するとされていた。…

【ラーマクリシュナ】より

…65年ころ,ベーダーンタ学派の哲学を奉ずる遊行者トーター・プリーに出会い,彼を師に出家式を行い,ラーマクリシュナの名を与えられた。トーター・プリーの指導下に,彼は無形,無相,永遠のブラフマン(すなわちアートマン〈真我〉でもある)を経験するに至った。この状態は無分別三昧(ニルビカルパ・サマーディ)といわれ,これを体験することによって彼はヒンドゥー神秘主義の伝統のうちに完全に定位された。…

【ラーマーヌジャ】より

…この試みに最初に成功したのがラーマーヌジャであった。彼はベーダーンタ哲学のブラフマンとビシュヌ教の最高人格神ナーラーヤナとは同一であるとした。ブラフマンは無限にして,完全無欠な属性を備え,世界の動力因であり質料因である。…

※「ブラフマン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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