ニライカナイ(読み)にらいかない

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニライカナイ」の意味・わかりやすい解説

ニライカナイ
にらいかない

琉球(りゅうきゅう)諸島で伝える海のかなたにある神の世界。『おもろさうし』(1531~1623編纂(へんさん))にはニルヤカナヤとあり、僧袋中(たいちゅう)の『琉球神道記(しんとうき)』(1603~06)にはギライカナイとみえる。沖縄諸島ではジレーカネーなどと発音し、漢字では「儀来河内」とも書く。奄美(あまみ)諸島ではネリヤ、宮古列島や八重山(やえやま)列島ではニーラなどともいう。カナイはニライの同義対語で、それらが畳語的に複合したのがニライカナイである。本来、ニライとは、はるかな遠い所という意味の語で、それが異郷観と結び付き、神信仰のなかでは、特殊化して神の世界をさすようになった。今日でも、神信仰と無関係な日常的用例の残っている村もある。沖縄諸島では、東方(南東よりやや東寄り)に神の世界があるという信仰と結び付き、ニライカナイも東方の海上になっていることが多い。知念(ちねん)村久高(くだか)島の南東海岸の伊敷泊(いしきどまり)には、東方を拝む拝所二御前(ふたおまえ)があり、ギライ大主(おおぬし)、カナイ真司(まつかさ)とよばれている。大主、真司は主神という意味で、ニライカナイの主神のことである。首里(しゅり)王府の用語辞典『混効験集(こんこうけんしゅう)』(1711)には、「にるやかなやの大神」が「あがるいの大ぬし」(東方の大主)である、とある。『おもろさうし』では「あがるいの大ぬし」は太陽の神で、沖縄諸島では、太陽の昇る方角に、太陽の神を主神とする神の世界、ニライカナイを想定していた。水平線のかなたの世界で、竜宮と訳されることも多い。火や稲もニライカナイから将来されたとする伝えもある。ニライカナイの神が琉球神道(しんとう)の主神で、古くはキンマムン(君真物(きみまもの))とよばれ、本地仏は弁才天であるとされた。豊穣(ほうじょう)がニライカナイからもたらされるという信仰もあり、八重山列島の竹富島では、旧暦8月8日に、ユーンカイ(世迎え)といって、西海岸のニーラン石の所で、ニーランの国から船に五穀豊穣を積んでくるニーランの神を迎える神事がある。

 ニライカナイの対語にオボツカグラがある。奄美諸島や沖縄諸島では、ニライから迎えた神を祀(まつ)る聖地をオボツ山と称している。現実の神の世界がオボツカグラであろう。ニライのニは日本上代語の「根の国」の「根」に相当するといわれる。根の国も遠い別世界をさす語で、用法も共通している。ニライカナイと同義と思われるニーラスクや『おもろさうし』のニルヤソコは、上代語の「根国底国」を思わせる語形である。

[小島瓔

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改訂新版 世界大百科事典 「ニライカナイ」の意味・わかりやすい解説

ニライカナイ (にらいかない)

奄美,沖縄で海のかなたや地底にある,常世国(とこよのくに)と信じられている聖なるところ,他界。とくに東の水平線のかなたにあるとされる。神々が来訪してこの世の人々を祝福する儀礼や伝承は南島各地にみられ,稲や粟の種子も元来ここからもたらされたとされる。奄美では,ニルヤ,ネリヤ,八重山では,ニーラ,ニール,ニライスクといい,ニライカナイという語は死語となっている地域もある。また,ウフアガリジマなどという語でも,ほぼ同様の内容をさす。ここからは豊穣がもたらされるばかりでなく,村落の悪疫や穢がここへ送り届けられるという両義的な考え方もなされている。この国の呼称と同様に所在地についても東方の海のかなたや,海底深くとされるほか,村落の立地条件によって方位が決まるなど地域的変差が大きい。そこからやってくる神は,〈あかまた・くろまた〉やマユンガナシのように,具体的に儀礼において仮装した神の形をとって出現するほか,唱え言や手招きするような儀礼的所作によって,迎えられることが暗に示される場合もある。
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百科事典マイペディア 「ニライカナイ」の意味・わかりやすい解説

ニライカナイ

〈にるやかなや〉〈にるや〉などとも。沖縄や奄美群島で,遠い海のかなたにあると信じられていた楽土。記紀の神話に登場する常世(とこよ)の国に相当する。つねに現世と往来できる所とされ,火や稲をはじめ島人の祖先もここから渡来したとされていた。
→関連項目根の国黄泉国

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ニライカナイ」の意味・わかりやすい解説

ニライカナイ

沖縄地方で海のかなたや海底にあると信じられる理想郷の名称で,来訪神信仰の一つ。ニルヤカナヤともいう。単にニライあるいはニルヤと呼ばれることも多い。火と稲の起源をニライカナイに求める伝承があり,毎年ここから神々が人間の世界を訪問し,人間に種々の豊饒繁栄をもたらすともいう。神を浜辺で迎える儀礼や,その来訪の様子を多様な仮面を用いて表現する儀礼が各地で発達している。

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世界大百科事典(旧版)内のニライカナイの言及

【海】より

… 海のかなたに神の国・仏界があり,そこから年ごとに神々が人間のもとに訪れ,祝福を与えるという信仰もある。その仙界を奄美・沖縄諸島方面では,ニライカナイとかニルヤ,リュウグウという。ニライカナイは,人間生活万般につながる聖地と観念され,人間の生命もそこから生まれ,死後に行く浄土でもあり,五穀の種子や火もそこからもたらされたと信じられている。…

【来訪神】より

…たとえば沖縄西表島の節祭では各村でハーリーが行われ,そのハーリーが村にもどるとき女たちは神を踊りと独特の手招きで迎える。これらの競争が東西に分かれて行われ,西組が勝つとよいとされるのは,南島では来訪神が東方はるかなるニライカナイから来ると信じられているからである。来訪神の第3の形態は,仮面仮装の形はとらないが,子どもたちが来訪して来る形態をとるものである。…

【竜宮】より

…志摩(三重県)国崎(くざき)では霜月(陰暦11月)のアワビ養い行事において,男女が真夜中にアワビをとってきて,海女が一重ねのアワビを竜宮さんに献じる。沖縄のニライカナイにも本土の竜宮と共通する面がある。【大林 太良】 古来インドでは竜(ナーガNāga)族の住む地底の世界を〈ナーガローカNāgaloka〉あるいは〈パーターラPātāla〉とよび,その都は〈ボーガバティー(快楽の町)〉といわれ,宝石をちりばめた城壁に囲まれた豪華なものであった。…

※「ニライカナイ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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