何の(読み)なんの

精選版 日本国語大辞典 「何の」の意味・読み・例文・類語

なん‐の【何の】

[1] 〘連語〙 (「なにの」の変化したもの)
① 事物・事態の実質内容の不定・不明なものを指示する。どういう。どんな。
※正法眼蔵(1231‐53)行持下「説得甚麽(ナンノ)
② 反語表現に用いて、事物・事態が容認、あるいは肯定できない気持を表わす。いったいどういう。
※金刀比羅本保元(1220頃か)中「兵共ありとも何(ナン)の詮かはあるべきとおぼしめされつれ共」
否定表現に用いて、全面的な否定を表わす。どんな。どのような。
※虎明本狂言・武悪(室町末‐近世初)「思ひのほかなんのざうさもなふ 一刀にてしとめて御ざる」
[2] 〘副〙
① 事物・事態が納得しがたい気持を表わす。どうして(…しようか)。なぜまた(…なのか)。
浮世草子・好色一代男(1682)七「何国へと申せば、我庵は、と許云捨て別れ侍る。なんの宇治へは行くまじ」
② 事物・事態が、たいしたことでないと、それを見くびったり、相手のことばを否定したりする気持を表わす。
滑稽本浮世床(1813‐23)初「其時熊さん少しも騒がずサ。なんの、だらしもねへくせに」
③ (連語「なんのかの」の略されたものから)
(イ) (「…のなんのと」の形で) 同類の物を不定のまま列挙するのに用いる。
浄瑠璃・心中刃は氷の朔日(1709)上「引き日のなんのと、てっきり七両は入りましょう」
(ロ) (「…のなんの」の形で) 同類の事態を列挙する形で、上の事態を強調するのに用いる。
吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉八「騒々しいの何のって、碌々勉強も出来やしない」

なに‐の【何の】

〘連語〙 (「の」は格助詞)
① (打消または否定的な言辞を伴って用いて) さしてとり上げるに及ばない事柄が問題になっていることへの、疑念軽視反発感情を表わす。なんたる。格別の(…ではない)。
万葉(8C後)一一・二五八二「あづきなく何(なにの)狂言(たはこと)今更に童言(わらはこと)する老人にして」
② (反語表現に用いて) 自分の判断に反しない事態が、逆に意に反するように見え、または言われなどする時、そのような誤った見方を排する感情を表わす。いやいやむしろ。どうしてどうして。
伊勢物語(10C前)六五「この女、思ひわびて里へ行く。さればなにのよきことと思ひて、いき通ひければ」

ど‐の【何の】

〘連体〙
① 複数のものからの選択や程度について限定できないことを表わす。
※平家(13C前)八「どの勢の中へかいると見つる」
② (「どの…も(にも)」の形で) どれと限定することなくみんな、の意を表わす。
※史記抄(1477)一二「どの伝にもある事ぞ」
③ (「どの顔で」「どのつらで」などの類の表現で) 相手の行動をののしる時に用いる特殊な表現。
※浄瑠璃・生玉心中(1715か)上「辻嘉平次を盗人のかたりのとはどの頬桁(ほうげた)でぬかいた」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「何の」の意味・読み・例文・類語

なん‐の【何の】

《代名詞「なに」に格助詞「の」の付いた「なにの」の音変化》
[感]軽く否定したり受け流したりするときに用いる語。「何の、これしき」「何の、大丈夫だ」
[連語]
いかなる。どういう。「いったい何の意味があるのか」「何の因果か」
(あとに打消しの語を伴って)
㋐まったく。「何の苦もなくやってのける」「何の役にも立たない」
㋑それほどの。「何の気なしに話す」「何のことはない」
強く反発・否定する気持ちを反語的に表す。どうして。「酒なくして何の人生ぞ」
「―戸外へ出すものか」〈鏡花・琵琶伝〉
(「…のなんの」の形で)
㋐同類の事柄をいろいろと付け加える意を表す。「主婦は炊事だの何のと忙しい」
㋑上に付く語を強調する意を表す。「痛いの何のって、涙が出たよ」

なに‐の【何の】

[連語]《代名詞「なに」+格助詞「の」》
何々の。なんとかいう。
「―前司にこそは、などぞ必ずいらふる」〈・二五〉
どんな。いかなる。
「―面目にてか、また都にも帰らむ」〈・若紫〉
(打消しや反語の意で)何ほどの。どれだけの。
「―とがか侍らむ」〈・夢浮橋〉
「―かたき人にもあらず」〈和泉式部日記
(副詞的に用いて)
㋐どうして。なんで。
「荒磯はあされど―かひなくて潮に濡るるあまの袖かな」〈更級
㋑なんという。
「されば―よきことと思ひて」〈伊勢・六五〉

ど‐の【何の】

[連体]はっきりと限定できないもの、明らかでないものをさす。「何の子と何の子が仲良しなのかわからない」「何の問題から手をつけようか」
[類語]これそれあれどれこのそのあのかの

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