公害罪(読み)コウガイザイ

デジタル大辞泉 「公害罪」の意味・読み・例文・類語

こうがい‐ざい【公害罪】

公害によって人の生命・健康に看過できない脅威を及ぼすものを内容とする罪。昭和46年(1971)施行の「人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律」によって設けられ、故意犯過失犯とに分かれる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「公害罪」の意味・わかりやすい解説

公害罪
こうがいざい

公害により人の健康や生活環境などに被害を与え、あるいは被害を与える危険を生じさせた場合に刑罰を科される各種の犯罪を一般に公害罪とよぶが、広義の公害罪と狭義の公害罪とがある。広義では、「人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律」(公害犯罪処罰法、1970)によって規定された公害罪のみならず、刑法第199条の殺人罪、同211条の業務上過失致死傷罪、同209条・210条の過失傷害・致死罪、港則法第24条違反の犯罪など各種の刑罰法規違反の犯罪をも含み、水俣(みなまた)病事件に刑法第211条の業務上過失致死傷罪、石原産業事件に港則法第24条・第41条違反の犯罪が適用されるなど、実際にもいくつかの適用例がある。狭義では、公害犯罪処罰法によって規定された犯罪をいい、故意犯と過失犯とがある。故意犯は、工場または事業場における事業活動に伴って人の健康を害する物質身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質を含む)を排出し、公衆の生命または身体に危険を生じさせた場合に成立し、このような者は3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられ(2条1項)、人を死傷させた場合には7年以下の懲役または500万円以下の罰金に処せられる(同2項)(結果的加重犯)。また、過失犯は、業務上必要な注意を怠り、工場または事業場における事業活動に伴って人の健康を害する物質を排出し、公衆の生命または身体に危険を生じさせた場合に成立し、このような者は2年以下の懲役あるいは禁錮または200万円以下の罰金(3条1項)に処せられ、人を死傷させた場合には5年以下の懲役あるいは禁錮または300万円以下の罰金に処せられる(同2項)。また、同法は、法人処罰両罰規定を置き、法人の代表者または法人もしくは人の代理人、使用人その他の従業員が、前記の犯罪を犯したときには、行為者を罰するほか、その法人または人に対して、それぞれの条文に規定された罰金刑を科するものとしている(4条)。さらに同法は、因果関係の証明ができなくて、結局犯罪者が処罰されなくなることを防ぐために、因果関係の推定規定を置いた。すなわち、工場または事業場における事業活動に伴い、その排出のみによっても公衆の生命または身体に危険が生じうる程度に人の健康を害する物質を排出した者がある場合において、その排出によりそのような危険が生じうる地域に同種の物質による公衆の生命または身体の危険が生じているときは、その危険は、その者の排出した物質によって生じたものと推定される。

[淡路剛久]

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百科事典マイペディア 「公害罪」の意味・わかりやすい解説

公害罪【こうがいざい】

公害防止を直接の目的として制定された罰則の違反をひろく公害罪という。その中心は,人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律(1970年公布,1971年施行)に規定する罪で,同法では,故意または過失により,工場・事業場における事業活動にともなって人の健康を害する物質を排出し,公衆の生命,身体に危険を生じさせた者が処罰される。なお,同法では,両罰規定によって行為者だけでなく,法人も罰せられ,また因果関係について一定の推定規定も設けられている。そのほか,大気汚染防止法水質汚濁防止法などにも個別的規定がある。→法人犯罪
→関連項目公害裁判

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「公害罪」の意味・わかりやすい解説

公害罪
こうがいざい

故意または過失により,工場,事業場における事業活動に伴って有害物質を排出し,公衆の生命,身体に危険を生じさせる罪 (人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律2,3) 。この罪は,公害被害の事前防止と多数の被害者を生ぜしめる災害事件の訴訟促進とを目的として,具体的結果の発生を待たず,その危険が生じただけで処罰される。さらに因果関係の立証に関し推定規定を設け (5条) ,両罰規定により法人の処罰を認めている (4条) 。

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世界大百科事典(旧版)内の公害罪の言及

【公害犯罪】より

… 第2に,公衆の生命・身体に危険が生じた時点で,危険を発生させた行為を処罰している。1970年公布の,〈人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律〉(通称,公害罪法)がこの方法を採る。それは,故意に工場または事業場における事業活動に伴って人の健康を害する物質を排出して,公衆の生命・身体に危険を生じさせた者を,3年以下の懲役または300万円以下の罰金で処罰し(2条1項),業務上必要な注意を怠って,同様の排出をし同様の危険を生じさせた者を,2年以下の懲役・禁錮または200万円以下の罰金で処罰している(3条1項)。…

※「公害罪」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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