前庭神経炎(読み)ぜんていしんけいえん(英語表記)Vestibular Neuronitis

六訂版 家庭医学大全科 「前庭神経炎」の解説

前庭神経炎
ぜんていしんけいえん
Vestibular neuritis
(耳の病気)

どんな病気か

 片側内耳の前庭器官が急激に障害され、突発的にめまいが起こる病気です。

原因は何か

 原因は不明ですが、めまいが起こる前に、かぜのような症状があることが比較的多いので、ウイルスなどの感染が原因として考えられています。

症状の現れ方

 激しい回転性のめまいが急に起こり、普通それが数日~1週間程度続きます。めまいには、吐き気嘔吐冷や汗を伴いますが、難聴耳鳴りなどの聴覚の症状を伴わないのが特徴です。

 めまいはその後、少しずつ軽くなっていきますが、発症から1週間程度は歩行に困難を感じます。めまいは発症から3週間くらいでほぼおさまりますが、体を動かした時や歩く時のふらつきは、しばらくは持続するのが一般的です。時には6カ月くらいたってもふらつきが持続することがあります。

検査と診断

 聴力検査では正常の場合が多く、温度眼振(がんしん)検査(コラム)では患側の耳の温度反応が高度に低下したり、反応がなくなったりします。めまい発作の時には、方向が固定された水平性眼振を認めます。

治療の方法

 安静と薬による治療主体になります。早期に治療すれば、一度障害を受けた前庭機能が回復することがあります。このような時には、比較的早くめまいが軽くなります。

 しかし、早期の治療にもかかわらず、症状がだらだらと長く尾を引くことがあります。このような時は、その状態に早く慣れるためにも、めまいに対するリハビリテーションが必要になります。

病気に気づいたらどうする

 早期の診断と治療が必要です。他のめまいを起こす病気との区別も早くしなければなりません。できるだけ早く専門医診察を受けてください。

工田 昌矢

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「前庭神経炎」の解説

ぜんていしんけいえん【前庭神経炎 Vestibular Neuronitis】

[どんな病気か]
 激しいめまいが突然、おこる病気です。
 めまいがおこる1週間くらい前に、かぜをひいていることもあります。
[症状]
 激しいぐるぐるめまいだけで、耳鳴みみな)りや難聴(なんちょう)などの症状はまったくないのが特徴です。寝ていても起きていても、何をしてもめまいの強さは変わらず、止まることもありません。激しいめまいが1日以上も続くので、死ぬのではないかと思うほどですが、命を落とすことはありません。
 その後、日がたつにつれ、めまいはだんだん弱くなり、ふらふらめまいに変わります。ふつう、1か月もすれば社会復帰できますが、ときに数か月以上も続くことがあります。
[原因]
 ウイルスが感染し、平衡(へいこう)をつかさどる前庭神経(ぜんていしんけい)が障害を受けるのが原因といわれていますが、いつもウイルス感染が証明できるとはかぎらず、確かなことはまだ不明です。
[検査と診断]
 耳の中に水を入れる検査温度眼振検査(おんどがんしんけんさ))を行なうと、悪くなっているほうの耳の反応が低下しています。
 聞こえをつかさどる蝸牛神経(かぎゅうしんけい)は障害を受けていず、聴力検査(ちょうりょくけんさ)は正常です。
 MRIを行なうと、前庭神経に異常が見つかることもあります。
[治療]
 重曹水(じゅうそうすい)、抗めまい薬、吐(は)き気(け)止め、抗不安薬、循環改善薬(じゅんかんかいぜんやく)、ビタミン剤を点滴(てんてき)か内服で使い、副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン薬を使うこともあります。
 バランス感覚は、運動したほうが早く回復します。立って歩けるようになったら、安静にしているよりも積極的に動き回るようにしましょう。

出典 小学館家庭医学館について 情報

内科学 第10版 「前庭神経炎」の解説

前庭神経炎(めまい)

(3)前庭神経炎(vestibular neuritis)(表15-3-6)
 上気道炎などのウイルス感染が前駆する急性発症の回転性めまいで,蝸牛症候を欠く.数日間持続し,次第に動揺感,浮遊感に移行し消失する.急速相が健側に向かう水平・回転性眼振があり,温度眼振は患側で低下する.発症機序は,前庭神経やScarpa前庭神経節細胞におけるGuillain-Barré症候群と類似の免疫学的機序が考えられ,髄液は蛋白細胞解離を示す.治療は安静,抗めまい薬で早期に改善するが,初期の副腎皮質ステロイド使用で回復促進が期待できる.[山本纊子]
■文献
Brandt T: Vertigo―Its Multisensory Syndrome, Springer-Verlag, London, 1991.
Epley JM: The canalith repositioning procedure: Fortreatment of benign paroxysmal positional vertigo. Otplaryngol Head Neck Surg, 107: 399-404,1992.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の前庭神経炎の言及

【メニエール病】より

…しかし,めまいを起こす病気をすべてメニエール症候群というと,いろいろな病気が含まれてしまう。たとえば,1回だけの発作で,かなり高度な難聴となり,激しいめまいを起こす突発性難聴,耳鳴り,難聴などは伴わないが激しいめまい発作を1回だけ起こす前庭神経炎,さらには,めまいとともに,物が二重に見える(複視),うまくしゃべれない(言語障害),意識を失うなどの脳の神経の症状を伴う脳幹や小脳の病気まで,メニエール症候群となってしまう。したがって今日では,典型的なメニエール病は厳密に区別され,くりかえすめまい発作に必ず耳鳴り,難聴を伴い,脳の病気から生ずる神経の症状はまったくない内耳の病気に対してのみ,メニエール病の診断がつけられている。…

【めまい】より

…また内耳の異常は,自律神経にも伝えられ,心臓がどきどきしたり,冷や汗がでたり,吐き気がして吐いたりする。このような内耳の病気が原因で起こるめまいには,メニエール病のほかに,発作性頭位眩暈,突発性難聴,前庭神経炎などと呼ばれる病気がある。発作性頭位眩暈は,内耳の前庭の中にある耳石器の障害で起こることが多く,その特徴は頭や身体の位置を変えたとき,すなわち急に寝たり起きたりしたり,寝返りをうったりしたときにだけ起こるめまいである。…

※「前庭神経炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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