十二音音楽(読み)じゅうにおんおんがく

精選版 日本国語大辞典 「十二音音楽」の意味・読み・例文・類語

じゅうにおん‐おんがく ジフニ‥【十二音音楽】

〘名〙 十二音音階を用いて、どの音にも平等の価値を与え、従来の七音音階調性和声などを拒否する音楽上の立場。二〇世紀初頭にシェーンベルクが創案し、ウェーベルン、ベルクらに受けつがれ、現代音楽に大きな影響を与えた。ドデカフォニー

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デジタル大辞泉 「十二音音楽」の意味・読み・例文・類語

じゅうにおん‐おんがく〔ジフニオン‐〕【十二音音楽】

無調音楽を理論的に徹底化し、1オクターブの中にある12の音に平等の価値を与えるように組織的に作られた音楽。20世紀初頭に、シェーンベルクとその弟子によって確立された。ドデカフォニー。

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百科事典マイペディア 「十二音音楽」の意味・わかりやすい解説

十二音音楽【じゅうにおんおんがく】

ドデカフォニーDodekaphonie(ドイツ語)の訳語。1オクターブ内のすべての音,つまり12の音を同等に扱い,これを並べた音列セリー)を基本として作曲された音楽。音列は原形のままのほか,反行形,逆行形,反行形の逆行形,およびそれぞれ12の移高形が可能で,これらの音列を守って楽曲が構成される。この技法は理論化された無調音楽といえ,1920年代前半にシェーンベルクによって確立され,ウェーベルンベルクらに引き継がれて現代音楽の大きな要素となった。彼らを総称して〈新ウィーン楽派〉または〈第2ウィーン楽派〉とも呼ぶ(〈ウィーン楽派〉は18世紀中葉の前古典派についての呼称)。なお1922年にウィーンのハウアーJoseph Hauer〔1883-1959〕も,体系の異なる十二音音楽の理論を発表している。→ミュジック・セリエルレイボビッツ
→関連項目オーリッククルシェネクケージサッリネンストラビンスキー対位法ダラピッコラトムソンヒナステラ表現主義別宮貞雄ペルトヘンツェ松平頼則マルタン

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改訂新版 世界大百科事典 「十二音音楽」の意味・わかりやすい解説

十二音音楽 (じゅうにおんおんがく)
Dodekaphonie[ドイツ]

十二音技法による音楽。ドデカフォニーともいう。音階中の諸音を,主音や主和音の支配の下にまとまりを形づくるものと考える従来の調性による音楽に対して,十二音技法は新しい音楽表現の追求から,平均律の12種の音を均等に用いた作法。十二音技法にはハウアーJoseph Matthias Hauer(1883-1959)とシェーンベルクの方法があるが,今日通常はシェーンベルクのものを指す。ハウアーは《音楽的なるものの本質についてVon Wesen des Musikalischen》(1920)によって,シェーンベルクより早くこの技法を提唱したが,広まることなく終わった。シェーンベルクは1921年,ハウアーとはまったく異なった十二音技法に到達し,《五つのピアノ曲》(1923)の第5曲,《セレナード》の第4楽章,《ピアノ組曲》の全曲をこの方法で書いて出発した。

 シェーンベルクの十二音技法は,彼自身〈相互の間でのみ関係づけられた12音による作法〉と述べており,いわば無調音楽の組織的作法といえる。その中心はセリー(音列)にあり,オクターブ内にある12種の音から作品ごとに特定の音列を定め,それをその曲の基礎形態とした。基礎形態はその反行形,逆行形,反行の逆行形という変形(鏡像形)をもち,またそれぞれの音列は半音ずつ高められた移置形をもつ。一つの音列内の音は特別な例外を除いてすべて使いきるまで反復させずに用いる(図参照)。こうすることによって,その曲は常に基礎形態の音程関係によって潜在的に支配されることになり,曲に統一性をもたらす。

 十二音技法は,弟子のウェーベルンが《三つの民謡詩》(1925)以後採用し,ベルクも弦楽四重奏抒情組曲》(1926)以後採用した。ウェーベルンは《交響曲》(1928)以後点描的な作風に転じて独自の十二音音楽を確立し,第2次世界大戦後の音楽に絶大な影響を与える。クルシェネクはウェーベルン,ベルクらによって十二音技法を知り,オペラ《カール5世》(1933)からこれを用い始めた。しかしクルシェネクは合唱曲《エレミアの哀歌》(1942)で十二音技法に独自の改良を加えた。それは12音を6音ずつのグループに分け,その中で音程や音高を循環させて音列を変形させる。この方法によれば十二音技法に拠りながら再び一つの音に中心音性を持たせることが可能となる。1950年代以降ストラビンスキーが採用した十二音技法はクルシェネクの方法によるものが多い。また大戦後ブーレーズが主張した音列の移置形の新しい作り方も,基本的にはクルシェネクの方法と同じである。

 十二音技法は第2次世界大戦後世界的に広まり,多くの作品を生み出したが,ブーレーズはセリーの思考を音高以外の要素(音価,音強,音色)にまで適用したミュジック・セリエルに発展させた。日本では入野義朗,柴田南雄らによって導入され,入野は《7楽器のための室内協奏曲》(1951)で日本最初の十二音音楽を書いた。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「十二音音楽」の意味・わかりやすい解説

十二音音楽
じゅうにおんおんがく
Dodekaphonie, Zwölftonmusik ドイツ語
dodecaphony, twelvetone music 英語

平均律音階中の12音を同等に扱うことによって、調性音楽にみられた主音を中心とするヒエラルキーを崩壊させた音楽。ドデカフォニー。ヨゼフ・マティアス・ハウアーとシェーンベルクが1920年代前半に創始したが、年代記的にはやや後発のシェーンベルクの流れがその後の音楽を決定づけた。その作曲技法を十二音技法という。シェーンベルクは1923年の『五つのピアノ曲』(作品23)、『セレナード』(作品24)でこの技法を初めて試み、翌年の『ピアノ組曲』(作品25)でさらに展開した。

 十二音技法とは、具体的にいうと、まず12の半音が一度ずつ現れる一つの「音列」(これを原形とよぶ)をつくり、その逆行形(原形を後ろからたどる)、反行形(音程の上下を反対にする)、反行逆行形(二つの組合せ)の四つの形をつくる。そして開始音を12のそれぞれの音に移した移置形との組合せで、結局48の音列をつくりだし、これらのうちいくつかの音列を用いて音楽を構成する方法である。したがって、十二音音楽はその音列の対位法的な絡み合いの音楽といえる。

 シェーンベルクの弟子のウェーベルンは、音列の分割や音程の決定をさらに理論化し、第二次世界大戦後のミュージック・セリエルの基礎をつくった。またシェーンベルクの死後、ストラビンスキーは『七重奏曲』(1952~1953)以降、十二音技法を採用した。またクルシェネクとダッラピッコラは戦前から十二音音楽を創作していたが、ハウアー同様ほとんど影響を残さなかった。

[細川周平]

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世界大百科事典(旧版)内の十二音音楽の言及

【オペラ】より

…しかし,《ばらの騎士》では,上記の作品に見られる表現主義的傾向に再び手綱が締められ,優美な感覚的洗練と擬古的な傾向が現れてくる。 これを境として迎える二つの大戦間の時期は,ジャズの語法の導入(ストラビンスキーの《兵士の物語》,クルシェネクの《ジョニーは演奏する》),原始主義(オルフの《カルミナ・ブラーナ》),民族主義(バルトークの《青ひげ公の城》),新古典主義(ストラビンスキーの《エディプス王》)など,当時の作曲界のさまざまな潮流を反映したオペラが作られる一方,調性と和声機能の否定を意識的に徹底させた十二音の技法(十二音音楽)によるオペラが台頭した時期である。この技法の開拓者であるシェーンベルク自身には《モーゼスとアーロン》があり,その弟子ベルクは名作《ウォツェック》を残した。…

【対位法】より

…しかし特にベートーベンの後期弦楽四重奏曲でみられるように,主要旋律やその断片が諸声部に分配されたり,副次声部も主要な主題や動機から導き出されるといった手法は対位法への新たな関心を物語るもので,ロマン派のR.シューマン,ブラームス,R.ワーグナーなどの作品でも,対位法はきわめて重要な役割を果たしている。特に20世紀の十二音音楽は,基本音列の反行,逆行,反行の逆行という対位法的手法を基礎とするものである。 なお,対位法の特殊な手法に〈転回対位法invertible counterpoint〉と呼ばれるものがある。…

【変奏曲】より

…なお19世紀に顕著になった技法に,単一の基本動機の音型を発展させながら大形式を形成していく発展変奏(シェーンベルクの用語)がある。20世紀ではレーガー,ヒンデミット,シェーンベルク,ウェーベルンをはじめ多数の変奏曲が書かれたが,とくに後の2人によって発展がみられた十二音技法(十二音音楽)においては,曲全体が基本音列の変形からなるという点で変奏技法が根本原理となった。【土田 英三郎】。…

※「十二音音楽」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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