印象批評(読み)いんしょうひひょう(英語表記)impressionistic criticism

精選版 日本国語大辞典 「印象批評」の意味・読み・例文・類語

いんしょう‐ひひょう インシャウヒヒャウ【印象批評】

〘名〙 一九世紀半ばから後半にかけてフランスに起こった文芸批評の一手法。唯物的、科学的、客観的批評傾向に対し、印象主義立場から自己の直感的印象を重んじた。サント=ブーブ、アナトール=フランスらによって確立。〔や、此は便利だ(1914)〕

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デジタル大辞泉 「印象批評」の意味・読み・例文・類語

いんしょう‐ひひょう〔インシヤウヒヒヤウ〕【印象批評】

芸術作品から受ける主観的な印象をもとになされる批評。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「印象批評」の意味・わかりやすい解説

印象批評
いんしょうひひょう
impressionistic criticism

芸術作品が個々の批評家感性知性に与えた印象または感動によって評価する批評。これは19世紀後半から20世紀にかけて行われた批評方法であり、アリストテレスの『詩学』、ホラティウスの『詩論』としてその系譜に属する18世紀の批評があまりにも方則を厳守する態度であったのに対して、個性的な想像力や感性を重視した批評である。とはいっても軽薄な恣意(しい)的、思い付き的な批評ではなく、哲学的、審美的思考を長く続けたうえでの、また多くの作品に触れたうえでの自己裁断であって、フランスではサント・ブーブ、アナトール・フランス、イギリスではコールリッジハズリット、マシュー・アーノルドなどによる批評がそれであり、とりわけ世紀末における唯美主義、絵画の印象主義などによってウォルター・ペイターやオスカー・ワイルドに完成をみた。20世紀の「新批評」はこれに対する科学主義だが、批評家の主観的印象を重視するこの立場は依然有力であり、日本では小林秀雄の批評にその優れた例をみる。

[船戸英夫]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「印象批評」の意味・わかりやすい解説

印象批評
いんしょうひひょう
critique impressionniste

一定の方法や判断基準にとらわれず,作品から受けた個人的な印象に忠実であろうとする批評。一般的にはこのような批評のタイプをさすが,文学史では,19世紀末から 20世紀初頭までのフランスにおける文芸批評の一傾向をいう。歴史的あるいは心理学的な方法によって,科学的,実証主義的な批評基準の確立を目指すテーヌ,ブリュンチエール,ブールジェらに対して,ゴンクール兄弟やルナンの流れをくむ A.フランスや J.ルメートルらは,芸術の世界における客観主義は疑似科学にすぎぬとし,批評家の任務は鋭敏で幅広い感性に刻みつけられた印象の忠実な記録にあると主張した。その結果書かれたのがルメートルの『現代人物評論』 (1885~1918) や,フランスの『文学生活』 (1886~93) である。

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世界大百科事典(旧版)内の印象批評の言及

【批評】より

…以下そのすべてに触れることはできないから,文芸批評について述べる。文芸批評の方法は,大別して印象批評critique impressionnisteと独断批評critique dogmatiqueに分けることができる。前者は批評の基準を主観的,個性的なものと考え,後者はなんらかの客観的基準を批評の前提とする。…

【フランス】より

…つづいて《バルタザール》(1889),《タイス》(1890),《鳥料理レーヌ・ペドーク亭》(1893)などが,懐疑主義と厭世主義を典雅な教養で包んだ独特な味わいによって好評を博した。彼はまた《ル・タン》誌の文芸時評を担当して,ブリュンティエール流の〈独断批評〉に対立する〈印象批評〉を世にひろめた。こうして1896年にアカデミー・フランセーズ会員に選ばれるが,ドレフュス事件に際してはゾラらのドレフュス擁護派にくみした。…

【ルメートル】より

…また《ジュルナル・デ・デバ》紙,ついで《両世界評論》誌の劇評を担当し,《演劇の印象》10巻(1888‐98)にまとめられる軽妙洒脱な批評を繰りひろげた。A.フランスと並ぶ〈印象批評〉の旗手として,ブリュンティエールの客観批評に反対し,対象への共感から出発して〈丹念に記した印象〉のみを尊ぶことを主張したが,根底には古典的な〈良き趣味〉への愛着があり,それに抵触する自然主義や象徴派は文学的病として退けられた。政治的には,〈近代社会の病〉を批判する保守イデオローグとして,反ドレフュス派知識人の中心となった。…

※「印象批評」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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