原始取得承継取得(読み)げんししゅとくしょうけいしゅとく

改訂新版 世界大百科事典 「原始取得承継取得」の意味・わかりやすい解説

原始取得・承継取得 (げんししゅとくしょうけいしゅとく)

他人の所有物が時効や遺失物拾得によって自分のものになるときは,その他人から権利を引き継がず,自分が他人とは無関係に独立して権利を取得すると考えられ,これを原始取得という。他方,他人から物を買い受けたり,子が親の財産を相続するときは,その他人ないし親がすでにもっていた権利にもとづいて伝来的に取得するが,これを承継取得という。これらは法律的なとらえ方による区別であって,必ずしも常識的な感覚に合致するとは限らない。たとえば,原始取得の一つである無主物の先占は,だれも前主がいないから,原始取得と呼ぶことに抵抗感はない。しかし,時効取得の場合は,取得者の前に所有者が存在するので,それを引き継ぐと考えることも不可能ではなさそうだが,前主の権利からは切断してとらえるわけである。この結果,前主の権利に存した欠点制限は,原始取得ではなんら後主に影響しないのに対し,承継取得では影響を与える。細かい点になると,そう簡単には割り切れないが,承継取得は,前主が無権利者であったような場合には,後主も権利を取得できず,前主の権利が賃借権などで制限されている場合には,後主もそのような制限を引き継ぐ。他方,即時取得善意取得。民法192条)は,善意の取得者を保護する制度で,前主(たとえば品物を預かった人)が処分権をもっていないのに後主(受寄者から買い受けた人)が完全な権利を取得できるが,これは原始取得の一場合である。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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