(読み)いとう

精選版 日本国語大辞典 「厭」の意味・読み・例文・類語

いと・う いとふ【厭】

〘他ワ五(ハ四)〙
① いやだと思って避ける。うとましく思う。いやがる。
万葉(8C後)五・八〇四「手束杖(たつかづゑ) 腰にたがねて か行けば 人に伊等波(イトハ)え かく行けば 人に憎まえ」
源氏(1001‐14頃)行幸「さまざまに、かかる名のりする人を、いとふことなく拾ひ集めらるるに」
② つらいこの世を避け離れる。出家する。世捨て人となる。
※観智院本三宝絵(984)下「猒ふ心はたちても坐てもただ此身の苦おほかるをいとふ也」
③ いたわる。かばう。大事にする。気をつける。現在は、からだや健康などについていう。
※浮世草子・懐硯(1687)二「元より惣八門之進をいとひけるよりそれ程に思はれなば」
われから(1896)〈樋口一葉〉二「本当に身体を厭(イト)はねばいけませぬぞえ」
[語誌]もともとは、人を対象にして、嫌悪忌避の感情を表わす語であった。中古以後、物事を対象に、嫌悪を感じてそれを避けるという行為を表わす用法が中心的になる。現在では、「どんな苦労もいとわない」「御身おいといください」などの慣用的表現に残る。

いとわし・い いとはしい【厭】

〘形口〙 いとはし 〘形シク〙 (動詞「いとう(厭)」の形容詞化) いやである。好ましくない。わずらわしい。
※宇津保(970‐999頃)あて宮「いともいともいみじういとはしければ」
いとわし‐が・る
〘他ラ四〙
いとわし‐げ
〘形動〙
いとわし‐さ
〘名〙

いとい いとひ【厭】

〘名〙 (動詞「いとう(厭)」の連用形名詞化) いやに思うこと。嫌い避けること。
※万葉(8C後)一〇・二三四八「和射美(わざみ)の嶺行き過ぎて降る雪の猒(いとひ)もなしと申せその児に」

いとわいとはし【厭】

〘形シク〙 ⇒いとわしい(厭)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「厭」の意味・読み・例文・類語

えん【厭】[漢字項目]

[音]エン(呉)(漢) オン(慣) ヨウエフ)(呉)(漢) [訓]あきる いとう いや
〈エン〉いとう。いやになる。「厭世厭戦厭離穢土えんりえど倦厭けんえん
〈オン〉いとう。「厭離おんり
〈ヨウ〉おさえつける。「禁厭きんよう
[補説]慣用音で「エン」と読むことがある。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

今日のキーワード

青天の霹靂

《陸游「九月四日鶏未鳴起作」から。晴れ渡った空に突然起こる雷の意》急に起きる変動・大事件。また、突然うけた衝撃。[補説]「晴天の霹靂」と書くのは誤り。[類語]突発的・発作的・反射的・突然・ひょっこり・...

青天の霹靂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android