変相図(読み)ヘンソウズ

デジタル大辞泉 「変相図」の意味・読み・例文・類語

へんそう‐ず〔ヘンサウヅ〕【変相図】

変相2」に同じ。

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改訂新版 世界大百科事典 「変相図」の意味・わかりやすい解説

変相図 (へんそうず)

本来,単に変,もしくは変相といい,広義仏教説話絵画浮彫,彫塑などで造形化したもの。変とはもともと仏教用語で,サンスクリット語パリナーマpariṇāma訳語とされ,〈転変〉のことをいうが,ここではさらに派生した〈変現〉の意味に用いられ,仏教説話経典の内容,そこに説かれた譬喩,奇跡譚などで視覚的な造形に表現したものを指すようになった。5世紀初めの《高僧法顕伝》に法顕が師子国(セイロン)無畏山精舎で見た本生(ほんしよう)説話(ジャータカ)の造形物を〈変〉〈変現〉と称した例を初見とする。したがって変は広義の仏教説話画に当たり,インドにおいて仏伝,本生譚,譬喩説話を表現することに始まる。仏伝図,本生図は初期仏教説話画の基本であった。説話の進行や展開の順に従い,小さな情景を連続させてゆく日本の絵巻物に似た方法や,説話中の最も特徴的な部分を代表させて描く方法など,比較的簡単な構図で説話の理解が容易な説明的傾向が強いものであった。後の曼荼羅を中心とする密教美術に対して,むしろ顕教美術を意味するものといえる。その後仏教の東漸に伴い,西域,中国に伝えられ,各地に種々な展開を見ることができる。

 中国に入ってからは,大乗経典に説かれた経意や,その説話を表現した大規模なものに発展した。大画面の中に多数の説話を包含し,それぞれを複合的に配置し,堂々たる大構図にまとめたものである。大乗経典に基づいて絵画化された変のことを特に〈経変〉ともいう。経変は唐代に流行し,善導が長安において浄土変相三(二)百鋪を描いた記事などのほか,唐代の画史に多くの例を見いだしうる。《寺塔記》をはじめ,ことに唐代の《歴代名画記》《貞観公私画史》などの画史は,寺院の壁画として〈維摩変〉〈本行経変〉〈涅槃変〉〈地獄変〉〈西方変〉など,多くの変もしくは変相が盛行したことを伝えている。一方,《有部毘奈耶》雑事第十七や〈不空羂索神変真言経〉第十五には〈大神通変〉〈浄土阿弥陀仏変〉などを作るべきことを述べている。経変にはそれぞれの経典に対応した維摩経変,法華経変,観経変,薬師経変などのほか,各浄土に対応した西方浄土変,霊山浄土変,弥勒浄土変などがある(浄土変相)。しかし中原の作例は全く伝存せず,敦煌に多くの実例を見いだすことができる。経変は大画面構図をとる場合が多く,予備知識のない信者大衆を相手に,説話とその意味の理解や教化のために絵解きが行われた。敦煌からはその時用いられた絵解きのテキスト,すなわち変文が数多く発見された。変文には経変に対応する変文のほか,〈王昭君変文〉など仏教説話以外の世俗的説話を題材としたものもあり,変の意味がしだいに拡大され,世俗説話画にも適用されたことを予想させる。また変と変文の関係において,必ずしも変が大画面の絵画である必要はなく,より大衆教化に便利なような画巻形式もあった。

 日本では飛鳥・奈良時代に多くの変相図が中国より舶載され,また日本でも製作された。法隆寺金堂の浄土変や当麻曼荼羅(観経変)などは代表的な作例である。一方,変が経典の絵画化であるとすれば,最も端的な作例として《過去現在因果経》(《絵因果経》)がある。仏伝を説くこの経典の下半には経文を書写し,上半にはそれに対応する情景を逐次接続させて連続した絵画をなしており,のちの絵巻物の原理に通ずるものがある。日本では平安時代以降,変もしくは変相の意味がしだいに不明となったらしく,用語例は少なくなり,密教の曼荼羅を用語として転用するようになった。あえて密教の曼荼羅と区別するために曼陀羅と表記される場合もある。当麻曼荼羅をはじめ,九品曼荼羅,浄土曼荼羅,迎摂曼荼羅など各種の浄土変のほか,法華経変相の法華(経)曼荼羅など,日本でも変相図を絵解きすることが行われた。さらに中世以降,六道絵や聖徳太子絵伝などの絵解きが広く行われ,口唱文学や説話文学と関係し,一部は芸能とも連関をもって後世に大きな影響を与えた。
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百科事典マイペディア 「変相図」の意味・わかりやすい解説

変相図【へんそうず】

変相は具体化した姿の意で,変ともいう。経典に説く仏の世界を理解しやすいように絵画化したもので,阿弥陀浄土を図示した浄土変,観無量寿経を描いた観経変相図等がある。→変文

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世界大百科事典(旧版)内の変相図の言及

【仏画】より

… その他,仏画はまた彫刻像の天蓋,光背,台座にも描かれたり,そのほか幡(ばん)や,牛皮や木造の華鬘(けまん),木造の懸仏(かけぼとけ)や経筒,経箱などの荘厳具,工芸品にも描かれた。
[主題内容]
 (1)変相図 変相図は変または変相ともいい,広く仏教説話図にあたる。経典に基づくため経変とも称され,つぎのように二大別される。…

【仏伝図】より

…中国では本行経変(ほんぎようきようへん)ともいう。釈迦の前生の物語の絵画化である本生図,仏弟子や敬虔な信者の過去および現在の物語に取材する譬喩(ひゆ)物語(アバダーナavadāna)図,大乗仏教経典の内容を図示した変相図(大乗経変)とともに,仏教説話図を構成する。インドでストゥーパを荘厳(しようごん)するために欄楯(らんじゆん)や門に本生図とともに表現したことにはじまり,バールフットやサーンチー第1塔のそれが最初期の代表作である。…

※「変相図」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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