多糖(読み)たとう(英語表記)polysaccharide

翻訳|polysaccharide

日本大百科全書(ニッポニカ) 「多糖」の意味・わかりやすい解説

多糖
たとう
polysaccharide

単糖類が10個以上脱水結合して生じた糖質の総称。グリカンglycan、ポリグリコースpolyglycoseともいう。炭水化物のうち加水分解によりこれ以上簡単な化合物にならない糖を単糖類という。通常2~10の単糖からなる糖を少糖類(オリゴ糖ともいう)、それ以上の単糖からなる糖を多糖類というがその区別は明確ではない。

[徳久幸子]

多糖の分類

多糖はいろいろな観点から分類される。同一の単糖から構成されるものを単純多糖(ホモ多糖、ホモグリカンともいう)、異種の単糖から構成されるものを複合多糖(ヘテロ多糖ヘテログリカンともいう)という。ウロン酸アルドースの末端の-CH2OHが酸化されてカルボキシ基-COOHとなった化合物)やエステル硫酸(糖のヒドロキシ基-OHに硫酸H2SO4が脱水結合した化合物)を多く含むものを酸性多糖という。中性糖のみのものは中性多糖という。ペントース(五炭糖ともいう)、ヘキソース(六炭糖ともいう)を構成糖とするホモ多糖をそれぞれペントサン、ヘキソサンという。ウロン酸とアミノ糖(糖のヒドロキシ基-OHをアミノ基-NH2で置換した化合物)を構成糖とする一群の多糖はムコ多糖(グリコサミノグリカンともいう)とよばれる。脂質と結合した多糖は糖脂質(グリセロ糖脂質スフィンゴ糖脂質など)に分類される。その他機能によって貯蔵多糖(デンプンなど)、構造多糖(セルロースなど)、機能多糖(ヘパリンなど)とよばれる。

[徳久幸子]

多糖の名称

構成糖の語尾の-oseを-anに変え、たとえばグルコースが構成糖のホモ多糖はグルカンglucanとよぶ。ヘテロ多糖は、構成単糖をアルファベット順に並べ、グリカンをつける。ガラクトマンノグリカンなどである。イヌリンペクチンなど慣用名でよばれるものも多い。

[徳久幸子]

多糖の性質

生体を構成する高分子物質で、タンパク質、脂質と並んで自然界にもっとも多く存在する。一般に無定形固体、水への溶解性はさまざまで、甘味はなく、フェーリング溶液(還元糖の検出と定量に用いる試薬)を還元しない。多糖は酸や酵素によって少糖(オリゴ糖)に分解される。それぞれの多糖に特異的な酵素が存在する。たとえばデンプン、グリコーゲン、セルロースはそれぞれ、アミラーゼ、グリコーゲンフォスフォリラーゼセルラーゼによって分解される。多糖の検出には、過ヨウ素酸でヒドロキシ基を酸化して、生じたアルデヒド基シッフ試薬で呈色させる方法が用いられる。多糖の工業的利用は製紙、繊維、プラスチック、食品、医薬品など多岐にわたっている。

[徳久幸子]

『江上不二夫監修、鈴木旺他編『多糖生化学』(1969・共立出版)』『日本生化学会編『生化学データブック』(1979・縮刷版1981・東京化学同人)』『松田和雄編著『多糖の分離・精製法』(1987・学会出版センター)』『宮崎利夫編『多糖の構造と生理活性』(1990・朝倉書店)』『桜井直樹・山本良一・加藤陽治著『植物細胞壁と多糖類』(1991・培風館)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「多糖」の意味・わかりやすい解説

多糖 (たとう)
polysaccharide

単糖が重合して生ずる高分子物質で,生物界に広く分布している。広義には単糖が2分子以上結合したものを含めることがあるが,狭義には20分子程度以上のものをいう。その機能は主としてエネルギーの貯蔵と形態構築の二つであり,前者の役割をする多糖を特に貯蔵多糖と呼ぶ。貯蔵多糖の代表例はグリコーゲンデンプンイヌリンである。コンニャクの球茎の貯蔵多糖はグルコマンナン(マンナン)と呼ばれ,マンノースとグルコースからなる。この多糖がコンニャクの主成分である。

 形態構築に関与する多糖はさらに,細胞壁などの強固な構造を形成する基本になるものと,無定形あるいはゲル状で粘質物と総称されるものに大別できよう。いずれについても生物種によって多糖の種類が大きく異なっている。高等植物の細胞壁多糖はセルロースを主体としている。エビ,カニ,昆虫の殻の主体をなすのはN-アセチルグルコサミンからなるキチンである。キチンはさらに線形動物,腔腸動物,そしてカビに分布している。細菌の細胞壁の骨格はペプチドグリカンによって構成される。この多糖部分はN-アセチルグルコサミンおよびその乳酸エーテルであるN-アセチルムラミン酸からなる。乳酸部分のカルボキシル基にペプチドが結合し,これらはさらに架橋を形成して,糖鎖とあいまって強固な網目構造が形成される。

 高等動物の細胞間基質にはヒアルロン酸,コンドロイチン硫酸などのムコ多糖が存在する。高等植物の細胞間物質としては,ガラクツロン酸とそのメチルエステルからなるペクチンが知られている。ペクチンは細胞壁の構成成分でもある。実際,細胞分裂の直後に形成される最初の隔壁はペクチンであり,この隔壁の表層およびその内側にできる二次壁にセルロースが配列する。紅藻の粘質多糖としては寒天agarが知られている。この中でゲルを形成する成分はガラクトースとL-アンヒドロガラクトースからなる多糖で,アガロースと名付けられている。また褐藻にはD-マンヌロン酸とL-グルロン酸と呼ばれる2種のウロン酸からなる酸性多糖のアルギン酸が存在する。アガロースやアルギン酸は食品添加物としても用いる。
炭水化物
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

化学辞典 第2版 「多糖」の解説

多糖
タトウ
polysaccharide

グリカン,ポリグリコースともいう.単糖が10個以上縮重合したものを多糖とみなすが,セルロースのように平均3000個のものもある.一般に,無定形固体.水への溶解度はさまざまであるが,有機溶剤に不溶.甘味はなく,フェーリング液を還元しない.その分類には種々の方法があり,1種類の単糖からなるものは単純多糖(ホモグリカン),複数の単糖を含むものは複合多糖(ヘテログリカン)という.単糖の性質によって,ウロン酸や硫酸エステルを含むものは酸性多糖,中性糖のみのものを中性多糖とよぶ.構成糖の種類によって,ペントーサン,ヘキソーサン,ムコ多糖,ゴム質などにも分類される.ムコ多糖はウロン酸とアミノ糖を構成糖とし,タンパク質と結合して存在しているので,プロテオグリカンのなかに分類される.また,生物界における機能によって,貯蔵多糖(デンプンなど),構造多糖(セルロースなど),機能多糖(ヘパリンなど)に分けられる.名称は単糖の名称-oseという語尾のかわりに-anをつける方法が用いられている.しかし,イヌリンペクチンなど-inで終わる慣用名をもつものはそのままで使われている.構成糖名の前にpoly-をつける方法も用いられる.多糖は酸や酵素で加水分解すると,種々のオリゴ糖を経て構成単糖になる.検出法としては,過ヨウ素酸でヒドロキシ基を酸化開裂させ,生成したアルデヒド基をシッフ塩基で検出する過ヨウ素酸-シッフ反応が用いられる.用途は紙,繊維,プラスチック,火薬,食品,糊料,医薬品など広範囲に及んでいる.多糖の機能の解明や化学的合成も活発に行われている.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

栄養・生化学辞典 「多糖」の解説

多糖

 多糖類ともいう.単糖が多数重合した化合物.デンプン,グリコーゲン,セルロースなど.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の多糖の言及

【炭水化物】より

…その多くは(CH2O)nで示される分子式をもち,あたかも炭素に水が結合しているかのような印象を与えるので炭水化物という名称が生じ,かつては含水炭素とも呼ばれた。炭水化物は単糖monosuccharide,少糖olygosuccharide,多糖polysuccharideおよびそれらの誘導体にほぼ大別される。少糖は単糖が2~20個程度,多糖はさらにそれ以上結合したものである。…

【糖】より

…(1)もっとも厳密には糖類saccharideのうち水溶性で甘味をもつものの総称で,単糖と多くの少糖を含める。(2)糖類一般,つまり単糖,少糖,多糖を含める。(3)さらに広く糖質一般,つまり炭水化物を指すこともある。…

※「多糖」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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