女官(読み)にょうかん

精選版 日本国語大辞典 「女官」の意味・読み・例文・類語

にょう‐かん ‥クヮン【女官】

〘名〙 朝廷に仕える女性の官人の総称令制後宮十二司に仕える女性のほか御匣殿別当命婦女嬬女蔵人采女などがあり、さらに最下級の女官として、樋洗(ひすまし)・長女(おさめ)雑仕(ぞうし)などがある。宮女。宮人。官女。女職。にょかん。
※続日本紀‐養老元年(717)一一月丙午「賜百官人物各有差、女官亦同」
[補注](1)室町中期に成った「名目鈔‐人躰」には「女官 ニョウクヮン 女公人之惣名也」とあり、ひろく女性の官人を「にょうかん」と称したとしている。
(2)桃山最末期の「岷江入楚‐二九」では「女官なども 私云女官に二の心有。女官と云は内侍、命婦、蔵人ごとき女の官を云。是をばにょくゎんと云なり。〈略〉又にょうくゎんと云あり。是は下臈女なり。〈略〉台所の女官御湯殿の女官あり。此時は女の字をにようと引なり」とあり、宮中に仕える女性の官人のうち、上級のものを「にょかん」、下級のものを「にょうかん」というとする。
(3)読みの明らかでない例は本項にまとめた。

にょ‐かん ‥クヮン【女官】

※東宮年中行事(12C後か)四月「おなじきとしの十月ころもがへのとき、れいにまかせて、女房にょくゎむにわかち給ふべし」

じょ‐かん ヂョクヮン【女官】

〘名〙 宮中に仕える女性の官人の称。明治以降女官制度が確立され、多く公家・華族未婚の女性が採用されたが、現在では国家公務員。にょかん。にょうかん。〔広益熟字典(1874)〕

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デジタル大辞泉 「女官」の意味・読み・例文・類語

にょ‐かん〔‐クワン〕【女官】

朝廷に仕える女性の官人の総称。後宮十二司に仕える女性のほか、命婦みょうぶ女蔵人にょくろうどなどがある。官女。にょうかん。

にょう‐かん〔‐クワン〕【女官】

にょかん(女官)」に同じ。
主殿司とのもりづかさ、―などのゆきちがひたるこそをかしけれ」〈・三〉

じょ‐かん〔ヂヨクワン〕【女官】

宮中に仕える女性。にょかん。にょうかん。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「女官」の意味・わかりやすい解説

女官
にょかん

本来は『後宮職員令(ごくしきいんりょう)』に定められた内侍司(ないしのつかさ)・蔵司(くらのつかさ)などの十二司に勤務する女子(宮人(くにん))。後宮(こうきゅう)十二司には、尚―・典―・掌―(例、蔵司=尚蔵・典蔵・掌蔵)の職事(しきじ)の下に、女孺(にょじゅ)や采女(うねめ)(散事(さんじ))が置かれた。奈良時代を経て平安中期に至る間に変遷し十二司は解体に向かい、内侍司中心に再編され、上級女官には命婦(みょうぶ)(令制は五位以上の女子を内(ない)命婦、五位以上の官人の妻を外(げ)命婦という)、下級女官には女蔵人(にょくろうど)・得選(とくせん)・女史など多くの職ができた。なお下級女官のみを女官と称している場合もみられる。また「にょうかん」とも読み、近世に「にょかん」は上級女官を、「にょうかん」は下級女官を称するという説があるが疑問である。

[黒板伸夫]

『野村忠夫著『後宮と女官』(1978・教育社歴史新書)』『角田文衛著『日本の後宮』(1973・学燈社)』『須田春子著『律令制女性史研究』(1978・千代田書房)』『須田春子著『平安時代後宮及び女司の研究』(1982・千代田書房)』『浅井虎夫著、所京子校訂『新訂女官通解』(講談社学術文庫)』

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改訂新版 世界大百科事典 「女官」の意味・わかりやすい解説

女官 (にょかん)

大別すると2種あり,一つは,律令制下において後宮十二司に勤仕する女性の総称。この称が史上にあらわれるのは8世紀末。律令用語としては〈宮人〉の語が用いられたが,これは後宮の諸司が内廷的要素を強く含み,厳密な意味で〈官〉と称しえなかったためである。女官の語の出現は宮人の地歩の上昇と律令制の動揺による用字法の混乱を意味する。もう一つは,平安時代において,諸司,所々等に配された下級官人の称で,〈にょうかん〉ともいう。10世紀の儀式書である《西宮記》には主水司女官,御匣殿女官,主殿女官,掃部女官,糸所女官,書女官,薬女官,神祇女官,縫殿女官等の例があげられている。それぞれの官司の末端部にあって,女性の勤仕を必要とする場合に置かれたものと思われる。後宮十二司の女孺(によじゆ)とは一応区別される存在であったと思われる。
女房
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百科事典マイペディア 「女官」の意味・わかりやすい解説

女官【にょかん】

〈じょかん〉〈にょうかん〉とも。宮中の女性官人の総称。律令制で天皇の後宮に内侍(ないし)司など12司を置き,中央・地方豪族の女性を長官・次官以下,采女(うねめ)・女孺(にょじゅ)に任じて職務を分担させた。平安中期以後,内侍司の尚侍(かみ)・典侍(すけ)などのほかは有名無実になり,御匣殿別当(みくしげどのべっとう)(皇后専属)・命婦(みょうぶ)・女蔵人(にょくろうど)・得選(とくせん)・刀自(とじ)・雑仕(ぞうし)・半物(はした)などが登場したが,皇室の衰退とともに減少。明治にはほぼ内侍司ほどの規模で復興したが,現在は国家公務員法に基づき女官長(にょかんちょう)以下少数。→女房
→関連項目御湯殿上命婦

女官【じょかん】

女官(にょかん)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「女官」の意味・わかりやすい解説

女官
にょかん

宮中の後宮 (こうきゅう) に仕える婦人の官人の総称。令制では内侍司 (ないしのつかさ) 以下 12司の職員をいうが,平安時代以降は御匣殿 (みくしげどの) 別当,内侍,命婦 (みょうぶ) ,女孺 (にょうじゅ) ,女蔵人 (にょくろうど) や,さらに下級の樋洗 (ひすまし) ,御湯殿女官,雑仕の女官などがあった。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「女官」の解説

女官
にょかん

「じょかん」とも。律令制による後宮十二司に出仕した女性の総称。男官に対する語。律令用語としては「宮人(きゅうじん)」が男性の「官人」と区別して用いられた。平安時代には,「延喜式」では宮人のほか,十二司の尚・典・掌などに限定して女官とする用例と,女嬬(にょじゅ)などを含めて女官とする用例が混在している。なお平安時代に現れ,主水司女官・御匣殿(みくしげどの)女官・主殿女官・糸所女官などをはじめとする諸官司の末端雑務に従事した下級女官は,「にょうかん」とよばれて上記の女官とは区別された。

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世界大百科事典(旧版)内の女官の言及

【後宮】より

…《礼記(らいき)》昏義に,古代には皇后が六宮を建て,3夫人,9嬪,27世婦,81御妻をひきいて内治をつかさどり,婦徳を明らかにしたとあり,後世の後宮制度の規範となった。後宮には后妃のほか,女官や宦官,賤民などが属して,宮中の職務や使役に従事した。その員数や名称は時代によって異なるが,唐制によれば,後宮の人的構成は,内官・宮官・内侍省の3部より成る。…

【女房】より

…宮中に房すなわち部屋を与えられた上級女官の総称で,平安中期以降一般化した呼称。上皇以下諸院宮や摂関以下貴族の家に仕える女性も,上級の者は女房と称された。…

【縫殿寮】より

…頭・助・允・大属・少属の四等官のほか使部・直丁が属する小寮。女王および内外命婦(ないげのみようぶ)(内命婦とは五位以上の女官,外命婦とは五位以上の官人の妻)・宮人の名帳や考課,天皇の御服や賞賜用衣服の裁縫,纂組(さんそ)(くみひも,綬の類)の事をつかさどる。本寮は後宮十二司すなわち内侍司,蔵司,書司,薬司,兵司,闈司,殿司,掃司,水司,膳司,酒司,縫司に属する女官につき,それぞれの本司が上日行事(出勤日数,勤務内容)を記録したものの送付を受けて,女官の考課すなわち勤務評定をし,これを中務省に申告することを最も重要な職務とする。…

※「女官」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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