家庭医学館 の解説
にんしんこうけつあつしょうこうぐんにんしんちゅうどくしょう【妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症) Toxemia of the Pregnancy】
[どんな病気か]
妊婦の合併症で、浮腫(ふしゅ)(むくみ)、たんぱく尿、高血圧をおもな症状とする症候群で、妊娠末期(8~10か月)におこりやすいものです。従来、妊娠中毒症と呼ばれましたが、2005年に妊娠高血圧症候群に改称されました。
妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)にかかると、子宮や胎盤(たいばん)を流れる血液の量が減少し、胎盤のはたらきが悪くなるため、胎児(たいじ)の発育に影響をおよぼし、早産、子宮内胎児死亡、未熟児、死産などの原因となることがあります。また、ときによっては子癇(しかん)(「子癇」)、肺水腫(はいすいしゅ)(「肺うっ血/肺水腫」)、常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)(「常位胎盤早期剥離(早剥)」)、脳出血などの母体の生命にもかかわる症状をひきおこすこともあります。
[原因]
さまざまな学説があり、はっきりしたことはわかっていませんが、妊娠が終了すると治ってしまうことが多いことから、妊娠という負担に対して、妊婦のからだがうまく適応できないために発症すると考えられています。したがって、負担の大きい多胎妊娠(たたいにんしん)(「多胎妊娠とは」)のとき、高血圧や腎臓病(じんぞうびょう)、糖尿病などの合併症のある人がかかりやすいとされています。
[症状]
むくみ、たんぱく尿、高血圧がおもな症状です。むくみは、足のすねの前面を指で押すとへこむことでわかりますが、たんぱく尿や高血圧は検査をしなければわかりません。そのほか手指がこわばる、しびれる、1週間で500g以上の体重増加といった症状が出ることがあります。さらに重症になると、全身のむくみ、頭痛、目の前の閃光感(せんこうかん)(チカチカする感じ)などがみられることもあります。妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)は、表「妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)の重症度」のような基準にしたがって重症度を診断します。
[治療]
安静と食事療法が原則となります。なるべく横になるようにし、食事療法では減塩、高たんぱく、低カロリーの献立を心がけるとともに、脂肪は植物性を中心とし、糖分も減らします。軽症では、このような治療で治ることが多いのですが、家庭で安静にすることがむずかしい場合や、重症の場合では、入院が必要となります。
症状によっては、降圧薬や鎮静薬などの薬物療法を行なう場合もあります。
妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)になると、胎児発育遅延(たいじはついくちえん)、胎児胎盤機能不全(たいじたいばんきのうふぜん)、胎児仮死などの危険があり、超音波による胎児計測や、尿中・血中のホルモン測定による胎児胎盤機能検査、分娩(ぶんべん)監視装置による胎児心拍連続監視が行なわれます。
軽症のときは、多くが自然の陣痛による分娩が可能ですが、重症の場合は、分娩の時期は母体の状態と胎児の成熟度を検査して決めます。母体の状態が悪い場合や、胎児の発育が悪く危険が迫っているようなときには、早めに分娩を終了させる必要があり、陣痛を誘発(ゆうはつ)したり、帝王切開(ていおうせっかい)を行なうことも少なくありません。
[予防]
早期発見、早期治療のため、定期的に診察、検査を受けることがたいせつです。
日常生活では、食事に十分気をつけるとともに、心身の安静と休養をとることもたいせつなことです。過労や余計なストレスを避け、十分な睡眠時間をとることも予防として重要です。