尿道炎(読み)にょうどうえん

精選版 日本国語大辞典 「尿道炎」の意味・読み・例文・類語

にょうどう‐えん ネウダウ‥【尿道炎】

〘名〙 尿道に起こる炎症。淋菌によって起こるもの、その他各種細菌やウイルスによるものなどがある。排尿時に疼痛を起こす。〔医語類聚(1872)〕

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デジタル大辞泉 「尿道炎」の意味・読み・例文・類語

にょうどう‐えん〔ネウダウ‐〕【尿道炎】

尿道の炎症。淋菌りんきんなどの感染によって起こる。

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EBM 正しい治療がわかる本 「尿道炎」の解説

尿道炎

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 細菌や微生物が尿道内に侵入しておこる病気です。淋菌性尿道炎(りんきんせいにょうどうえん)と非淋菌性尿道炎に分けられています。
 淋菌性尿道炎では、感染から数日後の排尿時に、尿道に焼けるような痛みを感じ、尿道口から黄色い膿(うみ)がでてきます。
 非淋菌性尿道炎の原因となる代表的なものはクラミジアです。感染後1~2週間してから、尿道に軽い痛みやかゆみを覚えます。クラミジアによるものは、膿がでても透明で目立たず、気がつかないこともあります。
 尿道の分泌(ぶんぴつ)物で菌を検査しますが、最近は高感度の遺伝子診断法で尿から簡便に調べることが可能となりました。淋菌やクラミジアは咽頭(いんとう)にもすみ着くので、オーラルセックスによっても感染します。抗菌薬で治りますが、再発させないためにも、パートナーとともに治療することが大切です。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 多くは性交渉による感染で、STD(性行為感染症)の一種といえます。女性の場合、自覚症状が現れないことも多いため、早期に治療を受けることができず、感染が拡大することが少なくありません。また、抗菌薬の治療を始めると症状がすぐに消えるため、治療途中で薬を飲むのをやめてしまうことがあります。このため病気が長引いたり、感染者を増やしたりしがちです。
 一方、尿道にもともとすみ着いている細菌が、過労などで体の抵抗力が弱ったときに活動を始めて尿道炎となることもあります。また、手術や治療で尿道にカテーテルと呼ばれるゴム製の管を入れたときなどに、尿道炎を引きおこすこともあります。

●病気の特徴
 尿道炎として治療されるのは、ほとんど男性です。女性の場合は尿道炎単独ということはあまりなく、膀胱炎(ぼうこうえん)として治療されます。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

■淋菌性尿道炎の場合
[治療とケア]セフェム系抗菌薬を用いる
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] セフェム系抗菌薬は、非常に信頼性の高い臨床研究によって有効性が確認されています。(1)(2)

[治療とケア]アミノグリコシド系抗菌薬を筋肉内注射する
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] アミノグリコシド系抗菌薬は、専門家の意見や経験から支持されています。(2)

[治療とケア]ペニシリン系抗菌薬を用いる
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] ペニシリン系抗菌薬の使用については、専門家の意見や経験から支持されています。(2)

■非淋菌性尿道炎の場合
[治療とケア]マクロライド系抗菌薬を用いる
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] クラリスロマイシンやアジスロマイシン水和物の内服治療の有効性は、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。(2)

[治療とケア]テトラサイクリン系抗菌薬を用いる
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] ミノサイクリン塩酸塩やドキシサイクリン塩酸塩水和物の内服治療の有効性は、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。(2)

[治療とケア]ニューキノロン系抗菌薬を用いる
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 非常に信頼性の高い臨床研究によって有効性が確認されています。(2)


よく使われている薬をEBMでチェック

抗菌薬
[薬用途]セフェム系
[薬名]ロセフィン(セフトリアキソンナトリウム水和物)(1)(2)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]ケニセフ(セフォジジムナトリウム)(2)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]セフスパン(セフィキシム水和物)(2)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] セフトリアキソンナトリウム水和物やセフォジジムナトリウムは、淋菌性尿道炎に対して効果があることが非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。セフィキシム水和物は、ある程度の効果が認められるものの、無効例も報告されています。

[薬用途]アミノグリコシド系
[薬名]トロビシン(スペクチノマイシン塩酸塩水和物)(2)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 淋菌性尿道炎に対して効果があることが非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。

[薬用途]ペニシリン系
[薬名]オーグメンチン(アモキシシリン水和物・クラブラン酸カリウム)(2)
[評価]☆☆☆
[薬名]サワシリン(アモキシシリン水和物)(2)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 淋菌性尿道炎に臨床的に効果があることが報告されています。

[薬用途]テトラサイクリン系
[薬名]ミノマイシン(ミノサイクリン塩酸塩)(2)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]ビブラマイシン(ドキシサイクリン塩酸塩水和物)(2)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] いずれの薬も非淋菌性尿道炎に対する有効性が、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。

[薬用途]マクロライド系
[薬名]クラリス(クラリスロマイシン)(2)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]ジスロマック(アジスロマイシン水和物)(2)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] いずれの薬も非淋菌性尿道炎に対する有効性が、非常に信頼性の高い臨床研究によって報告されています。

[薬用途]ニューキノロン系
[薬名]クラビット(レボフロキサシン水和物)(2)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 非淋菌性尿道炎に対する有効性が、信頼性の高い臨床研究によって確認されています。ほかのニューキノロン系薬についても専門家の意見や経験から支持されています。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
原因となっている細菌や微生物を調べる
 淋菌性、非淋菌性どちらであっても適切な薬物療法を行えば、治療にてこずる病気ではありません。ただし、原因となる細菌や微生物の種類により、それにもっとも適した抗菌薬があるので、症状が現れたら早めに受診し、原因となっている菌や微生物の種類を特定する必要があります。

治療の中心は抗菌薬の内服
 淋菌性尿道炎は抗菌薬に耐性を持った菌が増えており、現在確実に効果があると考えられているのはセフェム系抗菌薬のロセフィン(セフトリアキソンナトリウム水和物)やケニセフ(セフォジジムナトリウム)、アミノグリコシド系のトロビシン(スペクチノマイシン塩酸塩水和物)であり、まずはこれらの抗菌薬による治療を行います。また、非淋菌性尿道炎を合併している可能性が高いため、同時にマクロライド系抗菌薬のジスロマック(アジスロマイシン水和物)を用いることもあります。
 非淋菌性尿道炎と考えられた場合は、ジスロマック(アジスロマイシン水和物)あるいはテトラサイクリン系抗菌薬のビブラマイシン(ドキシサイクリン塩酸塩水和物)などが用いられます。

自己判断で薬の服用を中止しない
 これらの治療を行うことによって、淋菌性なら数日から1週間、非淋菌性なら約1週間で完治します。ただし、抗菌薬の治療を始めると症状がすぐに消えるため、治療途中で薬を飲むのをやめてしまうとなかなか完治には至りません。自己判断で薬の服用を中止せず、医師の指示にしたがうべきでしょう。
 いずれの場合も、治療は性的パートナーも同様に行う必要があります。

(1)Kimberly AW, Stuart MB, et al. Emerging antimicrobial resistance in Neisseria Gonorrhorar: Urgent need to strengthen prevention strategies. Ann Intern Med. 2008; 148: 606-613.
(2)岸本寿男, 岡慎一, 他. 性感染症 診断・治療ガイドライン 2011. 日本性感染症学会誌. 2011; 22(supp1).

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六訂版 家庭医学大全科 「尿道炎」の解説

尿道炎
にょうどうえん
Urethritis
(腎臓と尿路の病気)

どんな病気か

 尿道炎は主に男性尿道炎を意味し、その多くは性感染症(せいかんせんしょう)に伴う場合がほとんどです。女性の場合は、膀胱炎(ぼうこうえん)から炎症が波及した場合に起こり、臨床的には女性尿道炎を単独で診断することはありません。

原因は何か

 男性の尿道炎の原因は性行為による微生物感染であり、淋菌による淋菌性尿道炎(りんきんせいにょうどうえん)と、それ以外の微生物による非淋菌性(ひりんきんせい)尿道炎とに大別されます。

 非淋菌性尿道炎の主要原因微生物はクラミジアで、ほぼ4~5割を占めています。これは、自覚症状が軽いクラミジア感染が、一般女性に蔓延(まんえん)しているためと考えられます。

 クラミジア以外の病原微生物としては、最近マイコプラズマ・ゲニタリウムが注目されており、これはクラミジアを除いた非淋菌性尿道炎における原因微生物の約4分の1を占めると考えられています。そのほかの原因微生物としては、ウレアプラズマ・ウレアリティクム、腟トリコモナスなどがあげられます。

 淋菌性尿道炎では、ソープランド女性を感染源とする患者の頻度が低下し、逆にファッションマッサージなど主にオーラルセックスをサービスとする風俗女性からの感染者の増加が目立っています。これらの女性の咽頭に存在する淋菌が尿道に感染するものと考えられます。性風俗産業および一般女性の性に対する認識の変化が、尿道炎の感染源の変化にも影響しているものと思われます。

症状の現れ方

 症状は非淋菌性尿道炎と淋菌性尿道炎とで大きく違うため、分けて説明します。

①非淋菌性尿道炎

 代表的なものとしてクラミジア尿道炎があります。感染から症状発症までの潜伏期間が1~3週間と長く、比較的ゆっくり発症し、尿道痛は軽いかほとんどありません。軽い掻痒感(そうようかん)(かゆみ)を覚える場合もあり、分泌物は漿液性(しょうえきせい)でその量もあまり多くありません。マイコプラズマ、ウレアプラズマによる尿道炎もクラミジアとほぼ同様の症状を示します。腟トリコモナスによる尿道炎は尿道痛、掻痒感、膿分泌(のうぶんぴつ)などの症状がみられます。

②淋菌性尿道炎

 感染から約1週間以内に急性尿道炎が発症します。外尿道口から濃厚なうみの排泄、初期尿道痛および外尿道口の発赤・腫脹(しゅちょう)(はれ)などの症状が認められます。クラミジア、淋菌が尿道口から逆行性に侵入し、前立腺炎(ぜんりつせんえん)精巣上体炎(せいそうじょうたいえん)を起こすこともあります。

検査と診断

 尿道炎は、病歴、臨床症状および尿道分泌物または初尿(しょにょう)中の白血球の存在により診断されます。尿道分泌物は1000倍、初尿沈渣(ちんさ)は400倍で顕微鏡検査し、各視野5個以上の白血球が認められれば尿道炎と診断できます。

 クラミジア尿道炎の診断はクラミジアの検出によります。クラミジア自体が細胞内に寄生するため、以前は尿道粘膜をこすり取ってクラミジアの遺伝子を検出していましたが、苦痛を伴うため、最近は初尿ないし分泌物を用いて遺伝子診断を行います。

 淋菌性尿道炎は、尿道分泌物の塗抹染色標本の顕微鏡検査と、分離培養同定法(ぶんりばいようどうていほう)が診断の基本です。また最近は、抗原検出法、遺伝子診断法などが普及していますが、それらでは薬剤感受性試験(どの薬で効果があるか調べる)ができない欠点があります。

治療の方法

 感染症であるため、抗菌薬の投与が基本になります。クラミジアに対してはテトラサイクリン系薬、マクロライド系薬、およびニューキノロン系薬が用いられます。

 日本化学療法学会標準法で測定した結果、マクロライド系のクラリスロマイシンが最も強い抗菌力を示し、次にテトラサイクリン系のミノサイクリン、ドキシサイクリンの抗菌力が強く、ニューキノロン系薬剤は同等ないしやや抗菌力が劣ります。最近、淋菌性尿道炎に対してキノロン耐性菌が増加しており、注意を要します。

病気に気づいたらどうする

 前述した症状があったり、性感染症の疑いがある場合は泌尿器科を受診してください。家族など他人にうつす可能性については、風呂などで感染することはありませんが、早く治療をすることが大切です。

宮北 英司

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家庭医学館 「尿道炎」の解説

にょうどうえん【尿道炎 Urethritis】

[どんな病気か]
 膀胱(ぼうこう)にためられた尿は、尿道を通ってからだの外に排泄(はいせつ)されます。尿道に炎症がおこって赤くなったり、痛んだり、膿(うみ)が出たりするのが尿道炎です。尿道炎は薬物などによる刺激やアレルギーによってもおこりますが、大部分は細菌の増殖によっておこります。その代表が淋菌性尿道炎(りんきんせいにょうどうえん)とクラミジア尿道炎です。
 尿道は細菌がいないからだの中と、細菌が数多くいるからだの表面との境にあり、尿は多くの細菌にとって栄養物になります。膀胱の中には細菌はいませんが、尿道の出口付近の内側には、ブドウ球菌(きゅうきん)、レンサ球菌(きゅうきん)など、ふつうにみられる菌(常在菌(じょうざいきん))がいつでも、誰にでも存在しています。
 これらの細菌は、通常は人の細菌に対する抵抗力とバランスが保たれていて、炎症はおこしません。しかし、たとえば尿道にカテーテルを入れると、異物であるカテーテルの表面には人の抵抗力がおよびにくく、常在菌が増殖して尿道炎がおこります。
 異物がない場合でも、外から尿道に入って増殖し、炎症をおこす特別な細菌がいます。淋菌(りんきん)とクラミジアです。
 淋菌とクラミジアは、健康な人の尿道にはいません。尿道にいれば、症状が自覚されなくても、必ず炎症をおこします。淋菌、クラミジアは尿道以外に、女性の子宮頸管(しきゅうけいかん)、目の結膜(けつまく)、咽頭(いんとう)、直腸などでも増殖しますが、人のからだ以外では生存できません。
 尿道、頸管、咽頭、直腸に感染している淋菌やクラミジアは、人がこれらの部位を直接接触させる際に別の人に感染します。つまり性行為によって感染する性感染症(STD(「性感染症(STD)とは」))です。
 淋菌やクラミジアは、女性では感染部位が尿路とは独立した子宮頸管なので、排尿痛(はいにょうつう)などの自覚症状がなく、受診する機会を得られず、そのため現在でも患者さんが多いSTDです。女性では母子間で感染をおこすほか、卵管閉塞(らんかんへいそく)による不妊(ふにん)、子宮外妊娠(しきゅうがいにんしん)(「子宮外妊娠」)など重い病気の原因になるので、すみやかな診断、治療が必要です。尿道炎などSTDに感染している人では、エイズウイルスに接触した際の感染率も増加することが知られています。
[症状]
 尿道炎の症状は、排尿痛と尿道からの分泌物(ぶんぴつぶつ)です。細菌が尿道に入り込んでから、増殖によって炎症がおこるまでの期間を潜伏期(せんぷくき)といいます。淋菌性尿道炎の潜伏期は短く、2~7日間です。分泌物は多量、膿様(のうよう)で、尿道口(にょうどうこう)に付着しても白色か黄色に見えます。排尿して流れ去っても、1時間以内に外尿道口に再び現われます。尿道を尿が通る間とその直後だけ、尿道にヒリヒリした疼痛(とうつう)を感じます。
 クラミジア尿道炎は排尿痛、分泌物の自覚症状が、淋菌性尿道炎に比べてはるかに軽く、潜伏期は2~3週間です。尿道分泌物は少量、透明で、それ自体は膿(うみ)とは見えず、排尿後に外尿道口に尿がついているのと区別できません。排尿痛も軽くて、疼痛というよりくすぐったいような感じなど、いつもとちがう感じが自覚される程度で、気づかない場合もあります。症状が自覚されなくても白い下着であれば、外尿道口が接触する下着の部分に分泌物による汚点が、必ずみられます。分泌物自体は透明でも、下着に付着して乾くと、白い下着では黄色い汚点となります。濃い柄の下着では見逃されることが多くなります。
 淋菌性尿道炎でははっきりした自覚症状がありますが、クラミジア尿道炎では自覚症状の有無で尿道炎のあるなしを知ることはできません。治療せずに放置すると、淋菌、クラミジアは精液(せいえき)の通路を前立腺(ぜんりつせん)、精嚢腺(せいのうせん)、精巣上体(せいそうじょうたい)とさかのぼり、精巣上体炎をおこし、男性不妊の原因になります。
[検査と診断]
 若い人の尿道炎は大部分がSTDで、淋菌かクラミジア、またはその両方が発見されますが、どちらも発見できない尿道炎があります。この原因不明の尿道炎にも抗菌薬が効きます。
 治療しなければ、感染者はパートナーに感染を広げてしまうので、初診時に起因菌(きいんきん)を決めることが治療にもっとも重要です。医師は自覚症状ではなく、客観症状で尿道炎の診断をします。尿道炎があれば、尿沈渣(にょうちんさ)には必ず白血球(はっけっきゅう)がみられ、客観的証拠になります。
 尿道炎の場合、白血球がもっとも多く存在するのは、1回の排尿のうち最初に出てくる初尿(しょにょう)といわれる部分です。検尿のため採尿する場合、初尿の部分を捨ててしまい、後の尿を採取すると、尿道炎なのに白血球がみられず、尿道炎が見逃されることがあります。
[治療]
 原因菌が正確に確定されれば、治療は1~2週間の服薬で治ります。淋菌は薬剤耐性を獲得しやすい細菌です。ペニシリンなどの抗菌薬に対する淋菌の耐性は、50年間で約100倍の薬剤量を治療に要するほどになっています。実際には100倍の薬剤は服用できないので、新しい薬剤を用いることになります。抗菌薬が不十分に使用された場合、生き残った細菌が耐性をもった菌になります。ですから、抗菌薬の服用で症状がなくなっても医師の指示どおり服薬を続け、その後に原因菌がなくなっていることを医師に確認してもらう必要があります。
 淋菌、クラミジアの感染は、必ず感染源があります。また感染源以外に自分が感染させたパートナーが別にいる場合もあります。淋菌、クラミジアはいったん治っても機会があれば感染をくり返します。パートナーを放置すれば再感染の危険があるので互いの診断内容がわかる同一医療機関でいっしょに診断、治療を受けることが必要です。
 尿道炎の起因菌はすべて明らかにされているわけではなく、淋菌、クラミジアが原因でない尿道炎もありますが、その大部分にも抗菌薬が有効で、服薬が正確に行なわれれば、医師は多種類の抗菌薬のなかから選択して、原因が不明のままでも治すことができます。
●一般的注意
 STDは一度の感染機会で、多種類の原因菌に感染する場合があります。潜伏期間がちがうため、淋病の治癒後にクラミジアが発症するように、1つの病気の後に他の病気がおこることがあります。症状がなくなれば病気が治ったというわけではないので、医師の指示にしたがってください。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「尿道炎」の意味・わかりやすい解説

尿道炎
にょうどうえん

微生物の感染によって生じる尿道の炎症で、男性の尿道炎は淋菌(りんきん)性尿道炎(淋疾)と非淋菌性尿道炎に大別される。非淋菌性尿道炎の原因としては、近年ウレアプラスマとクラミジアが重要視されているが、大腸菌やブドウ球菌、またトリコモナスによる尿道炎もあり、一般に性交により感染する場合が多い。

 経過により急性と慢性に分けられる。急性尿道炎では排尿時(とくに排尿初期)の痛みと外尿道口からの排膿(はいのう)を主症状とし、尿道分泌物の顕微鏡検査では多数の白血球を認めるが、通常の染色法では細菌は認められない場合が多い。慢性尿道炎では排尿痛または排尿時の不快感、尿道の不快感などがみられるが、症状の程度は一般に軽く、また尿道分泌物も少量で、早朝起床時にのみ認める場合が多い。しばしば前立腺(せん)炎、ときには精巣上体炎を合併する。

 治療としては、おもにウレアプラスマやクラミジアに有効なテトラサイクリン系の抗生物質が用いられるが、同時にアルコール類や刺激性食品を制限する。慢性症では比較的長期間の治療を要し、しばしば再発も認められる。トリコモナスによる尿道炎には抗原虫剤が用いられるが、同時に性交の相手方である女性に対しても治療が必要である。

 このほか、淋疾の治療後、淋菌が消失したにもかかわらず尿道炎の症状や所見を呈するものを淋疾後尿道炎というが、その所見や治療法は慢性尿道炎と同様である。

 女性の尿道炎は膀胱(ぼうこう)炎に合併しておこり、膀胱炎の治療後に尿道炎のみが残存する場合があり、尿所見が正常であるのに膀胱炎類似の症状が持続し、しばしば膀胱炎再発の原因となる。尿道分泌物中に白血球を証明することによって診断されるが、治療は膀胱炎に準じて行われる。

[河田幸道]

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内科学 第10版 「尿道炎」の解説

尿道炎(尿路感染症)

(3)尿道炎(urethritis)
概念・病態
 尿道炎は性行為感染症(STD)として取り扱われることが多い.尿道炎は起因菌により,淋菌性尿道炎と非淋菌性尿道炎に分けられる.非淋菌性の50%はクラミジア(Chlamydia trachomatis)によるものであり,ほかにウレアプラズマ,トリコモナス,Gram陽性球菌,Gram陰性桿菌などが原因病原体にあげられる.
診断
 性的活動期の男性に多く,排尿時痛,尿道分泌物を訴える.尿沈査で膿尿を認める.感染機会から発症までの潜伏期間,排尿時痛と分泌物の性状で淋菌とクラミジアの鑑別は比較的容易である.淋菌では潜伏期間は2~5日間で尿道分泌物は黄色膿状,排尿時痛も強いことが多い.クラミジアでは潜伏期間は10~14日間で尿道分泌物は透明である.分泌物は粘液状少量であり症状は軽度である.淋菌の検出は鏡検でGram陰性双球菌を認めるか,核酸増幅法(PCR)で行われるのが一般的である.クラミジアは酵素免疫法または淋菌と同様,PCR法による検出が主流である.
治療
 淋菌とクラミジアでは使用する抗菌薬が異なるので注意を要する.淋菌は薬剤耐性を獲得しやすく,これまで汎用されてきたキノロン薬は80%以上の起炎菌ですでに耐性を示している.淋菌性尿道炎に対し,現在有効な経口薬剤はなく,セフトリアキソン,セフォジジム,スペクチノマイシンのいずれかの単回投与が行われる.クラミジアではテトラサイクリン系またはニューキノロン系の内服を通常2週間投与する.[久末伸一・堀江重郎]

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百科事典マイペディア 「尿道炎」の意味・わかりやすい解説

尿道炎【にょうどうえん】

急性または慢性の尿道の炎症。原因によって淋(りん)菌性と非淋菌性に大別する。急性症では尿道口からの排膿,排尿時の灼熱(しゃくねつ)感,尿道口部のかゆみ,尿意頻(ひん)数などの症状がある。治療は原因菌を捜し,それに感受性ある薬剤を使用する。慢性症の場合は自覚症状は少ないが,尿道狭窄(きょうさく)を起こす場合もある。
→関連項目クラミジア感染症トリコモナス腟炎淋糸淋病

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「尿道炎」の意味・わかりやすい解説

尿道炎
にょうどうえん
urethritis

通常は男性の尿道の炎症をいうが,女性にもある。淋菌の感染による淋菌性尿道炎と,その他の原因による単純性尿道炎に分けられる。淋菌性尿道炎は性病の一つで,5日前後の潜伏期間を経て尿道にかゆみを覚え,外尿道口から膿汁が排出される。初めは前部尿道のみの炎症であるが,ときに後部尿道や前立腺にも波及し,放置すると慢性化して,尿道狭窄の原因になる。女性では子宮頸管炎に併発し,排尿痛を起すが,無症状のことのほうが多い。単純性尿道炎は,大腸菌などの雑菌のほか,トリコモナス,ウイルス,真菌などによって起る。性行為と関係なく発症するものもある。症状は淋菌性に似ているが,軽い。しかし,なおりにくいものが多い。

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