幻住庵記(読み)ゲンジュウアンノキ

デジタル大辞泉 「幻住庵記」の意味・読み・例文・類語

げんじゅうあんのき〔ゲンヂユウアンのキ〕【幻住庵記】

江戸中期の俳文松尾芭蕉作。元禄3年(1690)4月から7月まで、幻住庵に滞在したときの生活感想を記したもの。同4年刊「猿蓑さるみの」に所収

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改訂新版 世界大百科事典 「幻住庵記」の意味・わかりやすい解説

幻住庵記 (げんじゅうあんき)

俳文。芭蕉作。門人曲翠が提供した石山の奥の幻住庵に滞在したおりの俳文。1690年(元禄3)の夏から秋にかけて,芭蕉はこの庵で生活したが,その間京都,大津へ出ることも多く,また門人たちの来訪も多かった。そうした中で,慶滋保胤(よししげのやすたね)の《池亭記》,鴨長明の《方丈記》,木下長嘯子の《山家記》など,伝統的な〈記〉の文学にならって創作されたのが本作品であり,なかでも《方丈記》の影響が顕著だった。庵での生活,風景描写,述懐の3部よりなり,述懐部には漂泊思想が色濃く,〈終(つい)に無能無才にして此(この)一筋につながる〉自負が語られている。《猿蓑(さるみの)》に公開された本作品は,芭蕉俳文の完成を示すものだったといえる。
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世界大百科事典(旧版)内の幻住庵記の言及

【おくのほそ道】より

…古人の跡を求めて歌枕探訪の旅に出た主人公が,〈奥〉の受洗で独自の〈風流〉に開眼する点に,作品の意義があろう。《幻住庵記》で俳文の〈記〉の創出に成功した著者が,次の試みとして〈道の記〉の創出にとりくんだもので,前者が鴨長明の《方丈記》をふまえたように,これも当時《長明道の記》と称された《東関紀行》をふまえている。なお,同行の曾良には詳細な旅日記がある。…

【猿蓑】より

…芭蕉が〈脇三つを三体に仕分け〉たという初めの3巻は蕉風連句の規範とされている。俳文編は芭蕉の《幻住庵記》とその付録より成る。俳文として公表された最初の作品で,付録の《題芭蕉翁国分山幻住庵記之後》は去来の兄震軒の漢詩文,《几右日記》は来信または来庵の諸家の発句の書留である。…

※「幻住庵記」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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