悪銭(読み)アクセン

デジタル大辞泉 「悪銭」の意味・読み・例文・類語

あく‐せん【悪銭】

悪いことをして手に入れた金。あぶく銭。
品質の低い貨幣。悪貨。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「悪銭」の意味・読み・例文・類語

あく‐せん【悪銭】

〘名〙
① 悪質であったり、きずなどがついていたりする粗悪な銭(ぜに)。あくぜに。⇔精銭(せいせん)
三代実録‐貞観七年(865)六月一〇日「禁京畿及近江国売買之輩、択弃悪銭
② 不正な手段によって得た金銭。あぶくぜに。
咄本狂歌咄(1672)三「布施とりて今えいらくと思へとも後の世をみよあく銭ぞかし」
③ つまらないことに使う金銭。
※竹沢先生と云ふ人(1924‐25)〈長与善郎〉竹沢先生の散歩「見す見す下らぬ悪銭として消えて行く処に迄金を貢がなければならない先生の運命が」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「悪銭」の意味・わかりやすい解説

悪銭 (あくせん)

あくぜに,鐚銭(びたぜに)ともいい,粗悪な銭貨のこと。皇朝十二銭の後,貨幣の国内鋳造が絶え,平安時代末から宋銭など中国銭が流入,通用し始め,室町時代に入ると大量の明銭などが流入し,経済活動の活発化にともない貨幣流通が盛んになった。しかし流通市場では金属貨幣の価値地金の価値に左右されたから,粗悪な銭貨は1銭=1文で通用することはできず,受取りを拒否されたり(撰銭(えりぜに)),打歩(うちぶ)をつけ,すなわち価値を低めて流通したりした。この撰銭行為は商取引を妨げ,取引者相互の争いに発展したから,幕府大名寺社などは,しばしば撰銭令を発布し,選ぶべき銭貨を明確にし,そのほかは選んではならないことを命じた。悪銭の基準は時代によって異なり,やけ(焼),かけ(欠),われ(破),すり(磨),うちひらめ(打平)など破損・変形貨幣,粗悪な私鋳銭以外に,永楽洪武,宣徳などの明銭も民間では悪銭視されたので,幕府はしばしば撰銭令を出して混入率上限を定めて準精銭として流通を促進した。
貨幣
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「悪銭」の意味・わかりやすい解説

悪銭【あくせん】

〈あくぜに〉とも読み,鐚銭(びたぜに/びたせん)とも。質の劣悪な銭貨に対する呼称。種類は時代と場所により異なるが,粗悪な銭貨は1銭=1文で通用せず,受取りを拒否されたり(撰銭(えりぜに)),価値を低めて流通した。この撰銭は商取引の妨げとなったので,幕府・大名・寺社などは撰銭令を発し,選ぶべき銭貨以外の撰銭を禁じた。江戸幕府は1604年に永楽通宝以外を鐚銭とし,永楽1貫文に対し鐚4貫文とした。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

山川 日本史小辞典 改訂新版 「悪銭」の解説

悪銭
あくせん

「あくぜに」とも。中世の人々によって撰銭(えりぜに)の対象とされた,通用価値の低い貨幣。鐚銭(びたせん),破銭(われぜに)・欠銭(かけぜに)など破損した銭貨,中国や日本で造られた粗悪な私鋳銭,15世紀末期に価値が下落した明銭(みんせん)などがあるが,どこまでを悪銭に含めるかは時期や地域によって基準が変わり,一定しない。戦国期,商品流通の発展に比して良質の鋳貨(精銭(せいせん))が不足したことから,貨幣流通のなかでしだいに大きな位置を占めるようになった。

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

旺文社日本史事典 三訂版 「悪銭」の解説

悪銭
あくせん

銭貨の使用に際して排除された質の粗悪な銅銭
鐚銭 (びたせん) ともいう。室町時代に通用していた銭貨は種類が多く,品質も均等ではなく,人びとは良銭による売買を希望し,悪銭を排除した。このとき排除された悪質の銅銭,破損・摩滅した銭,私鋳銭などが悪銭と考えられた。

出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報

普及版 字通 「悪銭」の読み・字形・画数・意味

【悪銭】あくせん

不正な金。

字通「悪」の項目を見る

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「悪銭」の意味・わかりやすい解説

悪銭
あくぜに

鐚銭

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の悪銭の言及

【撰銭令】より

…室町・戦国時代に,悪銭のうちとくに粗悪な銭の流通を禁止するとともに,その他について撰銭を禁止するなど,銭貨流通に関して室町幕府,大名,社寺などが発した法令。〈せんせんれい〉〈せいせん(精銭)れい〉ともいう。…

【私鋳銭】より

…711年(和銅4)首謀者は斬,共犯者は没官,家口は流罪という重刑が規定されたが,これは753年(天平勝宝5)首謀者は遠流に,780年(宝亀11)共犯者・家口が徒3年・2年半に軽減されるまで現行法として機能した。【栄原 永遠男】
[中世]
 中世では悪銭の一種で,中国銭および日本国内で私的に鋳造された銭貨をさす。中世においては私鋳銭の鋳造自体はなんら処罰の対象とならなかったので,各地で粗悪な私鋳銭がつくられ,1銭=1文の精銭に対して,2分の1,5分の1,10分の1などの低価値の小額貨幣として流通した。…

※「悪銭」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android