時制(読み)ジセイ(英語表記)tense

翻訳|tense

デジタル大辞泉 「時制」の意味・読み・例文・類語

じ‐せい【時制】

tense動詞の表す動作・作用の時間関係を表す文法範疇はんちゅう現在過去未来のほか、言語によっては、完了・不完了過去(過去における継続・繰り返しの行為を表す)・過去完了・未来完了などを区別するものもある。時相。

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精選版 日本国語大辞典 「時制」の意味・読み・例文・類語

じ‐せい【時制】

〘名〙
① その時代制度
※随筆・文会雑記(1782)二「時制と情とを呑込ずに、古人を論じたるものなり」
② (tense の訳語) インド‐ヨーロッパ語などの文法的カテゴリー(範疇)の一つ。動詞の活用によって、動詞の表わす動作が過去・現在・未来などのいずれの時間的位置にあるかを示すもの。また、それによって示される現在・過去などの時をいう。テンス。時相。〔動詞時制の研究(1932)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「時制」の意味・わかりやすい解説

時制 (じせい)
tense

動詞にみられる文法的カテゴリーの一つで,動詞の表す行為・状態などを時間軸上にどう位置づけるかにかかわるものである。日本語で〈時称〉あるいは〈テンス〉とも呼ばれる。伝統文法では,話者の発話の時点を基準にしてそれを現在とし,前後を過去および未来とするシステムがたてられた。英語でjumped-jump-will(shall) jumpを過去形-現在形-未来形と呼ぶのもそれにならったものである。こうしたようにある時点を基準とする時制体系を絶対時制と呼ぶ。一方,英語の分詞構文や不定詞構文において,分詞,不定詞は主動詞との相対的な時間関係を示すだけであり,これは相対時制の一例である。

 時制はあくまでも言語的カテゴリーであって,自然時timeを言語においてどう範疇化するかは,文化によりさまざまに異なった様相を見せる。中国語のようにそもそも時制というカテゴリーの存在しない言語もあれば,細分化された体系をもつ言語もある。時制の範疇が認められないといっても,そのことは当該言語が時間に関する表現手段をもたないということを意味するのではない。時間副詞その他の手段によってそれを行っているのである。したがってまた,現在・過去・未来という三分法も,決して絶対的なものでも普遍的なものでもないということができる。さきの英語の例でも,いわゆる未来形はwill,shallといった助動詞の助けをかりて迂言的に示されるのであり,純粋に形態上からはjumped-jumpの2系列の対立しか認められない。これは過去-現在,あるいはむしろ,過去-非過去と特徴づけられるものである。また未来形は一般に純粋に未来時の表現であるより,(叙)mood的色彩を濃くもつ。

 複雑な体系の例として,アフリカバントゥー諸語に属するチョクエ語では,〈過去〉的な意味に四つの時制が区別されるのを挙げることができる。すなわち,(1)tu-na-lim-i〈私たちはたった今耕した〉,(2)tw-a-lim-anga〈私たちは今朝耕した〉,(3)tu-naka-lim-a〈私たちは昨日耕した〉,(4)tw-a-lim-ine〈私たちは昔耕した〉である。ここでlim-は〈耕す〉という意味の語根,tu-(tw-)は〈一人称複数=私たち〉を示す接頭辞であって,2番目と最後要素の違いにより,〈直前-近過去-遠過去-さらに遠い過去〉が区別されるのである。

 なお,時制はしばしばaspect,(叙)法と密接な関係をもってあらわれる。
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時制 (じせい)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「時制」の意味・わかりやすい解説

時制
じせい

文法的カテゴリーの一つ。英語でテンスtenseともいう。文表現の内容を時間の流れのどこかに結び付ける手段。言語により、動詞の語形変化によって示されることもあり、助動詞など動詞と結び付く別の語形によって示されることもある。

 時制がさす時間は、発話時を中心とする現在時、その前の過去時、あとの未来時に3区分されるのが普通である。基準となる現在時は、瞬時からかなりの長さの時間まで伸縮自在であり、物理的に規定することはできない。文脈および動詞の意味の性質(瞬間動詞・状態動詞など)の組合せにより、さまざまの時間的状況をさす。ある言語が三つの時制を区別しているとしても、実際の用法では三つの時間帯と一対一の結び付きを示すとは限らない。現在時制で過去のできごとを描写する「歴史的現在」、過去時制で現在時についての想定を意味する「非現実用法」などがある。一般に現在時制は、時間とは直接に関係のない、一般的真理とか物事の手順をさすのに用いられるので、積極的に現在時をさすのではないと考えられる。

 個々の言語の分析に際しては、日本語のように時制を認めるか否か議論が定まらない場合がある。つまり、時制のかわりに相(アスペクト)を示しているとし、ル形は未完了、タ形は完了を示すという説がある。英語では、時制は認められ、過去時制と非過去時制はあるが、未来時制を認めるか否か議論が定まっていない。中国語北京(ペキン)方言のように、はっきり時制はないといえる言語もある。

 実際の用法ではいくつかの語形を組み合わせて、細かい時間表現をすることがある。シタトコロダで近接過去、シテイルトコロダで現在進行、スルトコロダで近接未来を表せる。それとは別に、スルという現在時制あるいは未完了相が話者の意志という「法」(ムード)的意味を伴うというようなこともある。

[国広哲弥]

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百科事典マイペディア 「時制」の意味・わかりやすい解説

時制【じせい】

時称とも。動詞における時間的関係を示す文法範疇(はんちゅう)。絶対的時間関係と必ずしも対応するものではなく,ある点を現在とすれば,その前・後が過去・未来となる。過去および未来を基準として定めれば,それぞれにまた前・後が考えられる。日本語のように現在・未来が未分化の非過去と過去のみを基本的に区別する言語,またインドネシア語のように動詞が時制による活用を行わない言語もあるが,〈明日〉〈今〉など時の副詞により時間表現上支障はない。およびと密接に関連する。
→関連項目助動詞

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「時制」の意味・わかりやすい解説

時制
じせい
tense

文法範疇の一つで,定動詞の活用によって,おもに時の概念を表わすもの。時称ともいう。たとえば英語ではI go. (私は行く) とI went. (私は行った) のような対立が動詞,助動詞全般にみられるので,現在時制,過去時制の2つの時制をもつということができる。このように,古典語における時制とは本来動詞の語形替変によって表わされるものをさしたが,古典文法の影響を受けた現代語の文法では,概念のうえでの時と混同されるのが普通である。伝統的な英文法で willや shallを伴う形を未来時制と呼ぶのもその例である。現在,未来,未完了,アオリスト,完了,過去完了,未来完了とそれぞれ呼ばれる7時制をもつ古代ギリシア語では,時制は時間の観念とともに動作の行われ方の様相を表わしていて,印欧祖語ではむしろ時間のほうが付帯的な観念であったと考えられている。

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