(読み)ソリ

デジタル大辞泉 「橇」の意味・読み・例文・類語

そり【×橇】

雪や氷の上を滑らせて走る乗り物または運搬具。 冬》「―の道雪あたらしくかがやけり/秋桜子

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精選版 日本国語大辞典 「橇」の意味・読み・例文・類語

そり【橇】

〘名〙 雪や氷の上をすべらせて、人をのせたり、荷物などの運搬をしたりするのに用いるもの。《季・冬》
永久百首(1116)冬「はつみ雪降にけらしなあらち山こしの旅人そりに乗る迄〈源兼昌〉」
※俳諧・曠野(1689)五「ぬっくり雪舟(そり)に乗たるにくさ哉〈荷兮〉」

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改訂新版 世界大百科事典 「橇」の意味・わかりやすい解説

橇 (そり)

〈輴〉〈雪車〉〈雪舟〉などとも書く。橇の字は,〈そり〉とも〈かんじき〉とも読んでいる。一般には雪・氷の上をすべらせて,人または荷物を運搬するのに用いる道具であるが,スキー,かんじき類の雪上歩行具,滑走具をも橇の範囲にいれることが多い。また泥土上や傾斜面などをすべらす運搬具も橇の部類に属するものとしている。

 日本の橇には,滑走用のはき物としての〈やまぞり〉〈いたぞり〉がある。いずれもスキー渡来以前の日本在来の滑走具と考えられる。〈やまぞり〉は秋田県の旧仙北郡などで使われていたもので,長さ30~40cmくらいの先端のそりまがった1対の滑走具で,固まった雪の上をすべるものである。また〈いたぞり〉は長野県下伊那郡などで使われた長さ約1mの1片の滑走板で,先端にとりつけた縄を持ってすべることは〈やまぞり〉と同様である。乗用あるいは荷物運搬用の橇は土地によって形式・使用法はさまざまである。〈よつやまぞり〉は最も普通の形式で,1本のすべり木に2個ずつの乳山があり,2本1対にしたすべり木の二つの乳山に腕木を通して形づくられる。すべり木の長さは,2~2.5mあるものもある。大きいものは馬や牛に引かせ,小さいものは人が引いた。〈はやぶさ〉はすべり木に1個の乳山がついて1対になったもので,乳山にわたした腕木とすべり木とが可動式になったものもみられる。急な斜面を手放しですべらせる。〈一本橇〉は新潟県の旧西頸城(にしくびき)郡の山間部で使われていたもので,長さ約1.5m,幅20cmの1本のすべり板と,2本の半円形の積荷受とから組み立てられる。各部分を分解して運び,これを組み立てて薪炭などをのせてすべりおろした。その他,形状・使用目的によって〈箱橇(はこぞり)〉〈駕籠橇(かごぞり)〉〈腰掛橇(こしかけぞり)〉〈馬橇(ばぞり)〉など種類は多い。泥土上あるいは〈きんま道〉とよぶ傾斜道に使う〈土橇(どぞり)〉〈木馬(きんま)〉と称する一種の橇もある。もっぱら木材石材などの重量物の運搬に使われるもので,人力あるいは牛馬に引かせるものである。車以前の運搬形式をつたえるもので,現在世界各地に点々と存在する〈すべり車〉につながるものであると考えられる。

 橇は世界各地の積雪寒冷地域に,冬季の交通運搬具としてひろく分布している。とくにエスキモーをはじめ,いわゆる北極圏周辺の地域に住む原住民族であるラップサモエードツングース,チュクチなどの諸民族にとって,氷雪内陸地帯の交通具として,橇はスキー,雪かんじき類とともに欠くことのできない用具である。これらの諸民族のもつ橇の形式,橇引用の動物などは,それぞれの民族により,用途によってちがっている。一般に東部シベリア地方のものは,その構造にくふう改良が加えられ進歩した合理的なもので,外形も優美軽快であるものが多い。2本のすべり木に支柱を皮ひもでしばりつけ,その上に座席わくを取りつけた二重枠型になったもので,全体が弾力性にとんだ作りにできている。これに対し,西部シベリア地方のサモエード,ハンティなどの使うものは,2本すべり木形式で,二重わく型ではあるが,接合部分もほぞで固定され,作りが粗野である。それぞれの地域の自然的条件,すなわち走行する積雪面の平滑度によって構造にもちがいがある。エスキモーの所有するものの構造は最も簡単で,2本のすべり木形式ではあるが支柱なしの単一わく型で,漂木を材料にするが,古くはクジラの骨などの材料を皮ひもでしばりつけて作られたものという。北ヨーロッパのラップランド地方で,ラップ人たちによって使われている橇には1本のすべり板の舟形橇がある。橇を引く動物は,イヌ,トナカイ,ウマである。イヌはエスキモー,イテリメン,コリヤークなどに使われ,地域的には東部シベリアの沿海地方および西部シベリアの一部に広がっている。トナカイはツングース,ヤクート,コリヤーク,サモエード,ハンティ,ラップなどによって使われ,ひろくシベリア全域,北ヨーロッパに及んでいる。ウマはヤクート,タタールなどによって使われている。なお,これらの動物による橇の引かせ方にもさまざまの方式がある。

 近代的な橇も種々考案され,製作材料,形式も進歩している。とくに極地探検用として改良された犬橇,トラクター引きの大型橇には各種の形式のものが作られ,またスポーツ用の橇も作られている。
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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【犬ぞりレース】より

…犬ぞり旅行mushを競技化したもので,マッシングmushingとも称される。1頭の犬を運ぶのに十分な大きさの橇(そり)を1頭ないし数頭の犬に引かせ,その速さと力を競い合う競技である。その内容は,速さのみを競う〈スピード競技〉,プルカと呼ばれる44ポンド(20kg)程度の流線形のフレームを引かせて走る〈プルク(プルカ)競技〉,一定の重量のおもりをのせた橇を制限時間内に犬に引かせ,その重量を競う〈ウェートプル競技〉に分けられる。…

【雪】より

…軟らかく深い雪中を歩くためには,木の枝をたわめた輪樏(わかんじき)または雪輪と呼ぶ履物が用いられ,これにも使用目的と雪質に応じた種々の形式のものが知られている。荷物を雪上で運搬するには橇(そり)が用いられたが,湿った雪の多い日本では人が乗って滑るスキーのような道具の発達はなかった。降雪の多い翌日には雪踏みによって集落内外の通路を確保する義務があり,住民は区間を割って当番を定め,雪俵または踏俵(ふみたわら)などを用いて通路を踏み開いた。…

※「橇」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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