此方人(読み)こちのひと

精選版 日本国語大辞典 「此方人」の意味・読み・例文・類語

こち‐の‐ひと【此方人】

〘代名〙
① 他称。妻が夫をさしていう語。うちの人。亭主
浄瑠璃・心中天の網島(1720)上「どりゃこちの人尋て来て酒にせう」
対称。妻が夫に向かっていう語。親愛の情を含んで用いる。あなた。
※波形本狂言水掛聟(室町末‐近世初)「のふのふこちの人親子の中で何事をあらそはせらるる」
[語誌](1)近世を通して上方語系の資料を中心にその例を見るが、明治に入ると急速に衰えた。
(2)狂言には、「こちの人」と類似の表現として「うちの人」「これの人」などの言い方も見えるが、それらの間には、意味・用法上の差異が存した。「うちの人」は、他称の用法に限定される傾向があり、「これの人」は、妻が夫のことをいうだけでなく、夫がその妻のことをいう場合もある。

こち‐と【此方人】

〘代名〙 (「こちひと」の変化したもの) 近世語自称
(イ) 複数に用いる。われわれ。
※浄瑠璃・根元曾我(1698頃)二「すみ落すべきじゅつ知らず、さだめてこちとが手に入べし」
(ロ) 単数に用いる。わたくし。手前自分
評判記・役者評判蚰蜒(1674)今村久米之助「其時分の狂言に義朝夢物語阿部野の詠哥などは、こちとが目にもおもしろくおもひけるが」

こっち‐と【此方人】

〘代名〙 「こちと(此方人)」の変化した語。
女工哀史(1925)〈細井和喜蔵〉三「いやお前がさう承知して行く気になりゃ此方人(コッチド)文句は無い」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「此方人」の意味・読み・例文・類語

こち‐と【×人】

[代]《「こちひと」の音変化》一人称人代名詞わたしたち。わたし。
「内にゐやんす内儀様―ばかりにうちまかせ」〈浄・重井筒

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

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