出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
死者の霊魂で,アニミズムの主要な構成要素。〈しりょう〉ともいう。身体に宿り,これを生かしている生命原理としての霊魂が,その宿り場を離れたり戻ったりするという遊離魂,脱魂の観念をもつ民族は多い。病気や失神,夢などは霊魂の身体からの離脱と解され,死は霊魂の永久離脱とされる。死者の霊魂である死霊は,身体から独立した存在として存続するが,この間に他界観と関連した諸儀礼が行われることが多い。すなわち,死霊は親族・縁者の供養をうけ続けることによりしだいに死穢を脱し,祖霊化して同一集団の祖霊群の仲間に入り,子孫を守護する存在になるとされる。その期間はさまざまである。その過程は生まれた赤子が親族・縁者の庇護の下に成長しおとなの仲間になるのと類似している。インドのトダ族,コタ族やアフリカ諸族に見られる二重葬(複葬)の慣行は,埋葬後一定期間をおいて改めて骨の処置を行うものだが,これは死霊を祖霊化させるための儀礼と目され,沖縄の洗骨もその例であるといえよう。日本の三十三回忌の弔い上げも死霊の祖霊化のための儀礼である。死霊はなまなましく荒々しい存在で,縁ある生者が適切に扱わないとたたりをもたらすとされる。死霊崇拝は死者の鎮魂と慰撫を目的としたものとされる。貴種や権力ある者の死霊は普通の死霊より霊威強きものと観念され,特別の儀礼が行われ,神にまつられることが少なくない。
→祖先崇拝
執筆者:佐々木 宏幹
埴谷雄高(はにやゆたか)(1910-97)の小説。《近代文学》1946年1月号~49年11月号に第4章までを連載したが中絶。第1巻としてまず第3章までを48年に真善美社刊。のち第5章を《群像》1975年7月号に発表,以上を76年に講談社より刊行。第6章は《群像》81年4月号に発表,81年に講談社刊。さらに第7章も《群像》84年10月号に掲載。三輪与志という内省的な主人公を中心に,過激な政治活動の経験をもつ兄の高志,屋根裏の思索者黒川建吉,“一人狼”と自称する革命家の首猛夫(くびたけお),“黙狂”といわれる沈黙者矢場徹吾などが登場する。三輪与志の婚約者津田安寿子を通じて津田家と三輪家との物語の一面をもつが,作品の本質はやや異常ともみえる青年たちの思索と,過去の政治活動における組織悪の告発,および宇宙における人間の能力までも問うた壮大な思想のドラマをなす。精神病院,運河のほとり,三輪家などを背景としながらも,発端からその翌日までで第7章にいたっている。リアリズムをこえた思想小説として評価され,76年に日本文学大賞を受賞。
執筆者:磯田 光一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…病気や失神,夢などは霊魂の身体からの離脱と解され,死は霊魂の永久離脱とされる。死者の霊魂である死霊は,身体から独立した存在として存続するが,この間に他界観と関連した諸儀礼が行われることが多い。すなわち,死霊は親族・縁者の供養をうけ続けることによりしだいに死穢を脱し,祖霊化して同一集団の祖霊群の仲間に入り,子孫を守護する存在になるとされる。…
…死者の霊が一定の期間を経て清められ,やがて崇拝・祭祀の対象とされるようになったもの。心理的にいえば死者の霊は生者に危害を加える恐怖の源泉であるが,しかしこの死霊は供養と祭祀によって浄化されて先祖(または祖先)となり,生者や家や共同体を守る親愛の対象となる。また,かつてH.スペンサーが説いたように進化論的な立場からすれば,先祖にたいする崇拝はカミ(神)にたいする崇拝の一歩手前の段階を示し,先祖の観念をもたない未開宗教よりは一歩進んだ段階をあらわすものといえる。…
…家族または血縁集団の,守護神的な属性をもつ先祖とみなされる霊魂をいう。生者が死者に対して抱く情緒反応には,死者に対する愛情と死体から遊離する死霊への恐怖という,相矛盾した情緒の併存がみられ,死霊が高められた存在である祖霊の性格にもそれが反映されている。祖霊の性格は当該社会の生産構造とかかわり,2類型がみられる。…
※「死霊」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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