溶融塩電解(読み)ヨウユウエンデンカイ(英語表記)molten salt electrolysis

デジタル大辞泉 「溶融塩電解」の意味・読み・例文・類語

ようゆうえん‐でんかい【溶融塩電解】

溶融塩電解質として電気分解を行うこと。水溶液による電解が不可能な、弗素アルミニウムほかアルカリ金属アルカリ土類金属希土類元素などの製錬に用いられる。融解塩電解

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改訂新版 世界大百科事典 「溶融塩電解」の意味・わかりやすい解説

溶融塩電解 (ようゆうえんでんかい)
molten salt electrolysis

溶融塩を電解質として行う電気分解。水溶液電解の場合には,水を溶媒に用いるため,水素イオンや水酸化物イオンの放電によって,陽極では酸素発生,陰極では水素発生の可能性が存在する。したがって酸素発生より貴な電位を必要とする物質や,水素発生より卑な電位を必要とする物質を製造することはできない。これに対し,溶融塩電解では水が存在しないから,酸素発生よりも著しく貴な電位を与えなければならないフッ素,水素発生よりも著しく卑な電位を与えなければならないアルカリ金属,アルカリ土類金属,希土類金属,アルミニウムなどの製造が可能となる。そのため,これらの物質は工業的に溶融塩電解により製造されている。

 代表的な例はアルミニウムの電解製造である。電解槽煉瓦を積んでつくり,その内側が炭素層となっている。電解質は氷晶石Na3AlF6ボーキサイトからとった高純度アルミナAl2O3を十数%溶解したもので,陰極は炭素(電解中実際は溶融アルミニウム自身),陽極は炭素電極で,操業温度は約900℃である。陰極では2Al3⁺+6e⁻─→2Alの反応でアルミニウムが析出し,陽極では2AlO33⁻─→Al2O3+3/2O2+6e⁻の反応でO2が発生し,直ちに炭素電極を酸化してCO,CO2となるので炭素が消費される。したがって炭素陽極は消耗の度合に応じて下降される。炭素陽極には,あらかじめ焼成してあるプリベーク型と,電極の上部に炭材とピッチを補給し,電解炉の熱により焼成を行う自己焼成型(ゼーダーベルグ型電極ともいう)がある。最近はプリベーク型の電極を採用した大型炉が多く用いられている。

 溶融塩はイオン結晶を溶融して得られるものであるから,溶融塩電解は高温での電解になる。高温を用いる結果として,電解質や電極材料の抵抗,両極での過電圧が減り,その点電力的には有利となるが,反面装置材料の腐食なども大きな問題となる。また溶融塩電解に特有な現象として金属霧と呼ばれる現象がある。これは陰極に析出した金属が溶融塩に溶解して着色する現象で,低原子価化合物の生成などによるものとされているが,これが陽極側に拡散されると酸化されるので,電流効率低下の原因となる。金属霧を防ぐには操業温度を下げるとか,溶融塩の組成を変化させるとかする。また陽極での電圧降下が著しく大きくなり,槽電圧が高くなる現象がある。これを陽極効果という。これは陽極が絶縁性のガス膜でおおわれるために起こる現象で,アルミニウムの電解製造の場合には,浴中のAl2O3濃度が低下したときに起こるので,Al2O3が補給される。
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化学辞典 第2版 「溶融塩電解」の解説

溶融塩電解
ヨウユウエンデンカイ
molten salt electrolysis

融解塩電解ともいう.採取を目的とする金属の塩を,高温で融解状態にして電解浴とし,電解により陰極に金属を析出させる方法をいう.一般に,電気化学的にみて水素イオンより卑な金属イオンで,しかもその金属上での水素イオン過電圧の小さな金属を対象にして溶融塩電解が行われる.しかし,目的とする金属の塩単独では融点の高いことが多く,一般に支持塩といわれる卑な金属の塩を混合して電解浴として電解する.電解浴には全塩化物系,全フッ化物系,塩化物-フッ化物系,およびこれらに酸化物(Al2O3)または硫化物(PbS)を溶かしたものがある.工業的にはAl,Mg,アルカリ金属などの製造に用いられているが,これらはいずれも析出金属が溶融状態で得られる.しかし,研究上興味があるのは,高融点でガスとの反応性の大きいBe,V,Ti,Zr,Nb,Ta,希土類元素の大部分,U,Thなどであって,いずれも陰極には固体状として析出してくるので,析出物と塩を後で分離する手間がかかり,大きな障害になっている.最近,溶融塩電解で合金電着を試みている例がある.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「溶融塩電解」の意味・わかりやすい解説

溶融塩電解
ようゆうえんでんかい
electrolysis of molten salt

高温で溶融状態の金属塩を電解浴とし,これに目的金属の化合物を溶かし込んで,電気分解により金属を陰極に析出させる方法。アルミニウム製錬のホール=エルー法,三層電解法が最も代表的な例。チタン,ジルコニウムは普通は塩化物の還元によるクロル法で製造されるが,フッ化カリウム塩を溶融塩電解する方法もある。マグネシウムも塩化物の溶融塩電解でつくられる。浴用塩としては氷晶石を主剤とする混合塩が最も一般的で,天然産だけでは不足なので人造されている。

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