犬張子(読み)いぬはりこ

精選版 日本国語大辞典 「犬張子」の意味・読み・例文・類語

いぬ‐はりこ【犬張子】

〘名〙 犬の形状を模した紙製の置き物。邪霊や魔を祓う効能を信じて寝所に置いたので、御伽犬(おとぎいぬ)宿直犬(とのいいぬ)ともいった。御帳台(みちょうだい)獅子狛犬(こまいぬ)にならって一対とし、婚礼小児の誕生・宮参り祝儀の贈り物とされた。古くは箱形で「犬箱」とも呼ばれ、上部は蓋になっており、花嫁は、この中に化粧の道具守り札などを入れた。古くは伏した姿で立ち姿のものは、江戸中期以降作られ、顔は、はじめ小児に似せたが、近世は顔も体も犬に似せるようになった。
御湯殿上日記‐文明九年(1477)二月一四日「あすの御ほうもつ〈略〉女はうたちよりも、いぬはりこふせいまいる」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「犬張子」の意味・読み・例文・類語

いぬ‐はりこ【犬張(り)子】

犬をかたどった張り子のおもちゃ子供魔よけとして、宮参りの祝い物にもする。→犬箱

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「犬張子」の意味・わかりやすい解説

犬張子 (いぬはりこ)

犬の形姿を模した紙製の置物。古くは御伽犬(おとぎいぬ),宿直犬(とのいいぬ),犬筥(いぬばこ)ともいった。室町時代以降,公家武家の間では,出産にあたって産室に御伽犬または犬筥といって筥形の張子の犬を置いて,出産の守りとする風があった。はじめは筥形で中に守札などを入れ,顔も小児に似せたものであった。庶民の間には江戸時代後期に普及したらしく,嫁入道具の一つに加えられ,雛壇にも飾られた。犬張子を産の守りとする風は,犬が多産でお産が軽い動物と信じられ,かつ邪霊や魔をはらう呪力があると信じられたからであろう。犬張子は,穢れをはらう形代(かたしろ)の一種ともいえるであろう。東京では,初宮参りの際に親類縁者が犬張子を贈る風習がある。犬張子は今では戌(いぬ)年の縁起物や郷土玩具とされ,関西では東犬(あずまいぬ)とよんでいる。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「犬張子」の意味・わかりやすい解説

犬張子【いぬはりこ】

犬の立姿にかたどった紙製の置物。小児のそばに置いて魔除(まよけ)とし,関東では宮参りの時親類知人が贈物にする。関西では東犬(あずまいぬ)という。江戸前期までは犬の伏した姿を模した箔置(はくおき)極彩色の容器で,犬箱ともいった。安産のまじないで,犬張子にかぶせた産着を小児に着せ,箱の中には護符,畳紙(たとう),白粉(おしろい)などを入れる。
→関連項目張子細工

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

今日のキーワード

黄砂

中国のゴビ砂漠などの砂がジェット気流に乗って日本へ飛来したとみられる黄色の砂。西日本に多く,九州西岸では年間 10日ぐらい,東岸では2日ぐらい降る。大陸砂漠の砂嵐の盛んな春に多いが,まれに冬にも起る。...

黄砂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android