デジタル大辞泉
「生憎」の意味・読み・例文・類語
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
あや‐にく【生憎】
[1] 〘形動〙
気持や予想に反して、困ったこと、好ましくないことが起こるさま。また、思うようにならず、残念に思うさま。「の」を伴っても用いられる。
①
予期に反してまが悪いさま。おりあしく不都合だ。〔
新撰字鏡(898‐901頃)〕
※
蜻蛉(974頃)上「出でんとするに、
時雨(しぐれ)といふばかりにもあらず、あやにくにあるに、なほいでんとす」
② 予期に反して思うにまかせないさま。思いどおりにならないで困る。
※
源氏(1001‐14頃)宿木「さらに見ではえあるまじくおぼえ給ふも、かへすがへすあやにくなる心なりや」
※長享二年正月二十二日水無瀬三吟百韻(1488)「むかしよりただあやにくの恋の道〈
肖柏〉 わすられがたき世さへうらめし〈
宗長〉」
③ 予期に反して
程度のはなはだしいさま、はげしいさま。
※枕(10C終)八四「さらに知らぬ
よしを申ししに、あやにくにしひ給ひし」
④ 状態ややり方が思いのほかであるさま。意地悪いさま。
※
落窪(10C後)一「『さらば人にけしき見せで、この御文奉るわざし給へ』といへば『いで』とて、取りて、あやにくに、かの部屋にいきて『これあけん、これあけん、いかでいかで』といへば」
[2] 〘副〙 (「と」を伴っても用いる) 具合の悪いことに。おりあしく。あいにく。〔
日葡辞書(1603‐04)〕
[
語誌](1)感動詞「あや」と形容詞「にくし」の語幹から成るとするのが
通説であるが、
副詞「あやに」との関係を考えるべきだとする説もある。
(2)「新撰字鏡」に「憎也」とあるように、「にく」が「にくし(憎し)」に通ずるという理解は平安時代にあるが、「生憎」の表記は「
盧照鄰‐長安古意詩」に見られるから漢籍にもとづくものか。
(3)「観智院本名義抄」では「咄」(意外な事態に驚いて発する声)の字が当てられているところから、一語の感動詞のように用いられ、やがて形容動詞に進んだとも見られる。
(4)近世末から明治にかけ「あいにく」が併用されるようになり、大正以後は「あいにく」が一般化する。
あい‐にく【生憎】
(「あやにく」の変化した語)
[1] 〘形動〙 予想と違ったり、目的と合わなかったりして、都合の悪いさま。
※漢書列伝竺桃抄(1458‐60)張馮汲鄭第二〇「驕子はあいにくの子のやうにせらるるぞ」
※彼岸過迄(1912)〈夏目漱石〉須永の話「生憎(アイニク)な天気なので」
[2] 〘副〙 (「と」を伴っても用いる) 具合の悪いことに。おりあしく。あやにく。
※洒落本・二筋道後篇廓の癖(1799)一「ひとつうたがわしくおもひなんすと、あいにくいふ程する程の事がうたがわしくおもひひすは」
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉二「生憎(アイニク)故障も無かったと見えて」
[語誌](1)「あやにく」の音変化した語であろうが、副詞「あやに」が語の根幹であるとする説もある。近代には副詞の用法が多い。
(2)(一)に挙げたように、古く抄物にも使われており、ヘボンの「和英語林集成(初版)」には口語の旨の注記があり、話しことばで多用している例の多いことなどから、口頭語として伝えられてきたと考えられる。→「
あやにく(生憎)」の語誌
あや‐にく・し【生憎】
〘形ク〙 (「あやにく(生憎)」を形容詞に活用させたもの) 思うようにならないでぐあいが悪い。
※宇津保(970‐999頃)楼上下「『さもあやにくきめを見るかな』と、をかしき声してよみかけておはしぬ」
※俳諧・若みどり(1691)「腰簑に脛あや憎し蜑乙女」
なま‐にく・し【生憎】
〘形ク〙 (「なま」は接頭語) いやに憎い。なんだかうとましい。少しもかわいげがない。
※源氏(1001‐14頃)横笛「かやうに夜ふかし給ふもなまにくくて」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
普及版 字通
「生憎」の読み・字形・画数・意味
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報