直腸ポリープ(読み)ちょくちょうポリープ(英語表記)Rectal polyp

六訂版 家庭医学大全科 「直腸ポリープ」の解説

直腸ポリープ
ちょくちょうポリープ
Rectal polyp
(直腸・肛門の病気)

どんな病気か

 直腸粘膜上皮(ちょくちょうねんまくじょうひ)に生じた限局性の隆起病変であり、きのこ状の(くき)のある有茎性(ゆうけいせい)のものと無茎性(むけいせい)のものとがあります。病理組織的分類が重要で、腫瘍性のものと非腫瘍性のものに分類されます。

 腫瘍性のなかでも、腺腫(せんしゅ)良性であり、腺管(せんかん)腺腫、腺管絨毛(じゅうもう)腺腫、絨毛腺腫があります。腺がん悪性であり、分化がんとより悪性度の高い未分化がんとがあります。

 非腫瘍性のなかでは、化生性(かせいせい)慢性炎症などが原因で起こる粘膜の過形成)、炎症性、過誤腫性(かごしゅせい)(ポイツ・イェガース症候群、若年性ポリープ)などがあります。とくに重要なことは腺がんを見落とさないことです。

原因は何か

 大腸がん直腸がんの発生と同じく、動物性脂肪や蛋白質の消費と関係があるといわれていますが、原因についてはわかっていません。

症状の現れ方

 肛門に近い部位では、不快感、脱出が認められる場合がありますが、ほとんどの場合、症状はありません。最近は大腸肛門内視鏡検査を行うことが多く、大腸肛門外来を訪れる患者さんの約5~10%に認められます。

 腺腫性ポリープの場合、腺腫の直径が20㎜以上の時は悪性化を来している可能性が高く、また絨毛腺腫は、腺腫より悪性化を来している頻度が高くみられます。また腫瘍が大きい場合やがん化している場合は血便を伴うことが多く、潰瘍の形成が認められた場合は悪性化の可能性が高いことがわかっています。

検査と診断

 肛門に近い場所では、大腸肛門外来での診察で多く発見されます。詳しく調べるには、硬性(こうせい)直腸鏡、S状結腸(けっちょう)内視鏡検査、または全大腸内視鏡検査が必要です。必要に応じて粘膜の一部を採取して調べる生検を行います。良性か悪性かの区別が重要です。

治療の方法

 最も一般的な治療法は、診断と治療を兼ねて、すべてのポリープを取ることです。最近では拡大内視鏡を用いることにより、または熟練した内視鏡医であれば、ポリープ表面のピットパターンをみることにより、ポリープを取る前にある程度の悪性度の判断がつくため、すべてのポリープを取る必要はありません。

 ポリープの種類により、きのこ状の茎のあるポリープは比較的たやすく切除できますが、絨毯(じゅうたん)状の(平べったい)ポリープでは熟練を要します。絨毛状または大きなポリープは取り残し、出血、穿孔(せんこう)(あな)があく)などの危険性が増えるため、危険性が高い場合は、肛門から器具を使い切除する経肛門的直腸ポリープ切除術を選択します。

 最近は、より肛門から遠い直腸でもポリープが確実に切除できるような器具(TES(経肛門的内視鏡下手術)やMITAS(低侵襲性経肛門的手術)などを行う器具)が開発されています。また、内視鏡治療処置具の進歩がめざましく、ごく最近では、大腸粘膜にとどまるものであれば、大きなポリープでも内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)という新しい内視鏡治療が可能となりました。粘膜下層に広がる、より悪性度の高いものでは、開腹手術が必要になります。

病気に気づいたらどうする

 直腸ポリープに気づいた場合、またはその疑いがある場合は、迷わず肛門科の医師か、大腸肛門病専門の病院を受診し、正しい診断をしてもらうことが大切です。熟練した医師であれば、内視鏡および手術においても、生体を傷つけることのより少ない確実な方法を選択することができるからです。

 ポリープ症の患者さんは、新たな腺腫およびがんの発生頻度が高いため、施設によっては、1~3年後に全大腸内視鏡検査を行っていますが、その間隔はそれぞれ危険因子により決定されています。ポリープ症の患者さんは追跡検査が大切です。

梅枝 覚

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「直腸ポリープ」の解説

ちょくちょうぽりーぷ【直腸ポリープ Rectal Polyp】

[どんな病気か]
 ポリープとは、粘膜(ねんまく)がある場所で隆起(りゅうき)した(こぶ状に盛り上がった)病変の総称です。直腸にできた隆起を直腸ポリープといいます。
 ポリープとは形態を指す呼び方で、ふつうは良性のものだけをいい、悪性のがんや肉腫(にくしゅ)は含みません。ポリープを分類する場合、一般にがんになる危険があるものとないもの、すなわち腫瘍性(しゅようせい)と非腫瘍性(ひしゅようせい)に分けます。直腸ポリープのうち、もっとも多いのは腫瘍性の腺腫(せんしゅ)と呼ばれるものです。
 腺腫はがん化しやすく、ポリープの大きさが1cm以下の場合のがん化率は十数%以下ですが、2cm以上になると50%以上となります。なかでも、表面がカリフラワー状の絨毛腺腫(じゅうもうせんしゅ)はがん化傾向が強く、1cm以下でも10%、2cm以上になると60%以上のがん化率です。
 直腸の非腫瘍性ポリープには、若年性(じゃくねんせい)および化生性(かせいせい)ポリープがあります。若年性ポリープは2~3歳から学童期までの子どもにみられるもので、しばしば排便時に肛門(こうもん)から脱出します。また、血便(けつべん)の原因にもなります。
 化生性ポリープは高齢者によくみられる直腸粘膜の過形成(かけいせい)ですが、がん化傾向はありません。
[症状]
 ポリープが小さいときにはほとんど症状はありませんが、茎(けい)があるポリープやサイズの大きいポリープがあると、残便感(ざんべんかん)や異物感、排便時の違和感があることがあります。
 また、がん化すると少量の出血がおこり、便に血がまじりますが肉眼ではわかりません。進行すると、検便の便潜血検査(べんせんけつけんさ)が陽性を示して発見されます。
[検査と診断]
 便潜血検査の陽性率は低いため、指で直腸を触診(しょくしん)する検査(直腸指診法(ちょくちょうししんほう))、X線注腸造影検査(ちゅうちょうぞうえいけんさ)、大腸内視鏡検査(だいちょうないしきょうけんさ)などで検査されます。直腸は肛門のすぐ上部にあるため、簡単な準備で楽に内視鏡検査ができるので、直腸ポリープの発見には現在、内視鏡検査がいちばん便利です。
[治療]
 ポリープが小さかったり、大きくても茎があるものでは、内視鏡を使ってポリープの根元にスネアと呼ばれるワイヤーをかけ、これに高周波電流を流して焼き切る方法(内視鏡下ポリープ切除術)があります。
 ポリープの一部ががん化している場合でもこの方法で根治しますが、がんが切除した部分の断端に残っていたり、進行の早い種類のがんの場合は、直腸ごと切除する必要があります。
 絨毛腺腫や根元が広いポリープの場合は、内視鏡で切除しようとすると直腸に孔(あな)があく(穿孔(せんこう))危険があるため、肛門からとどく範囲は肛門側から切除をしますが、とどかないところは開腹して直腸を切除します。
 最近は技術の進歩によって、腹腔鏡(ふくくうきょう)を利用して切除ができるようになり、手術侵襲(しゅじゅつしんしゅう)(手術によるからだへの負担)が軽くてすむようになりました。これは、おなかの中にカメラを挿入し、モニターを見ながら手術を行なう方法で、これからますます発達するでしょう。

出典 小学館家庭医学館について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「直腸ポリープ」の意味・わかりやすい解説

直腸ポリープ
ちょくちょうぽりーぷ

直腸の粘膜上皮が増殖して直腸内腔(ないくう)に突出した病変。あらゆる年齢層にみられるが、高齢になるほど多くなる。無症状のものもあるが、多くは出血、粘血便、残便感、しぶり腹などをきたしたり、肛門(こうもん)からポリープが脱出することもある。直腸鏡検査や下部消化管内視鏡検査などで発見される。ポリープが大きくなると、直腸狭窄(きょうさく)や直腸脱などを誘発することもある。

 治療は多くの場合、内視鏡下での切除術が行われるが、径が大きい場合や穿孔(せんこう)の危険があると判断される場合には腹腔鏡や開腹による手術によって治療がなされる。

[渡邊清高 2019年8月20日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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