社会移動(読み)しゃかいいどう(英語表記)social mobility

翻訳|social mobility

改訂新版 世界大百科事典 「社会移動」の意味・わかりやすい解説

社会移動 (しゃかいいどう)
social mobility

社会移動とは,個人の社会的地位の移動をいう。社会的地位には,何らかの基準によって序列づけられた人々のなかでの個人の位置を示すものであれば,すべてのものが含まれる。たとえば,職業学歴所得,資産,勢力威信,人気,家柄等々において,高低大小,多寡などの基準によって人々が序列づけられるならば,それらは個人の社会的地位を構成する要素である。このようにして序列づけられた人々の総体を,階層構造と呼ぶことができよう。したがって,社会移動とは,階層構造における人々の位置の移動であるともいえよう。

 階層構造には階梯的属性があるため,社会移動は,そうした階梯を上下したり,同じ階梯ではあるが異なった位置に移動したりする。前者垂直移動といい,下の位置から上の位置へ移動する場合は上昇移動であり,上の位置から下の位置へ移動する場合は下降移動という。同じ階梯で異なった位置に移動する場合は,水平移動と呼ぶ。

 社会移動は,大きく分けて,階層構造自体の変動によって引き起こされるものと,移動の機会が開放的になり,障壁がなくなり,個人の意志によって生ずるものとに区別される。前者は,構造的移動もしくは強制移動であり,社会革命や社会改革によって資本家階級が消滅したり,華族制度が撤廃されたりして生ずる。後者は,周流移動もしくは純粋移動と呼ばれ,個人の能力,才覚労力,または運の良し悪しで生ずるものである。

 近代社会では,人々のあいだにさまざまな序列づけがあり,その意味で不平等な社会であるが,原則として移動の機会を,構造的にそして差別的に閉ざすことは許されておらず,機会の開放された社会であるといえる。したがって社会移動の要因は,家格や財産よりも職業や学歴であり,とくに高等教育と官僚制的組織機構のもつ意義が大きい。しかし,現在においてもなおマイノリティや被差別の地域では,構造的に機会が大きく制約されている。
階層 →地位
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「社会移動」の意味・わかりやすい解説

社会移動
しゃかいいどう
social mobility

一般社会的成層のなかにおける個人の社会的地位の変化を意味する。 P.A.ソーロキンによれば,水平的移動と垂直的移動に分けられ,さらに垂直的移動は上昇的移動と下降的移動に分類される。これらの移動は,一応社会構造 (成層構造や職業構造,さらには社会体制) が一定である場合についていわれるが,現実には社会構造は常に変化しており,この構造の変化によっても移動は生じる。これを構造的移動という。移動は個人の一生の間に生じる世代内移動と,個人とその親や子との間に生じる世代間移動とに分れる。またこれらの移動経験者と経験者の生活特徴との関係の問題 (移動効果論) ,また移動と成層構造との関係の問題にも注意が向けられるようになった。

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百科事典マイペディア 「社会移動」の意味・わかりやすい解説

社会移動【しゃかいいどう】

社会成員が一定の社会的位置から他の社会的位置へ移動すること。移動の仕方は水平移動と垂直移動に分けられる。前者は同一水準にある社会的位置間の移動で,同一家格間の婚姻や職業の世襲など。後者は上下関係にある社会階層間の移動で,人の地位の上昇・下降など。社会移動は階層構造自体の変動によるものと,移動の機会の大きい社会の中での個人の意志によるものとがある。社会移動は特に近代社会に著しいとされる。

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世界大百科事典(旧版)内の社会移動の言及

【階層】より

… また社会階層は不平等の体系であるとはいえ,先進産業社会では不平等の度合は少なくなり,加えて階層構造の流動性が高まるということが重要である。階層的地位間における人員配分の流動性,すなわち人間の動きは社会移動social mobilityと呼ばれ,両者は〈社会階層と社会移動〉というように対をなす概念として用いられる。社会的資源の分配の完全な平等,すなわち無階層社会というものは,今日の社会主義諸国を含めて実現されておらず,また完全平等の実現がはたして社会正義にかなうか否か,人びとの不満をゼロにするか否かは疑問であって,必ずしも一義的にはいえないのに対して社会移動の割合が高いということは,分配そのものの平等ではないが機会の平等を保証するものであり,その意味で社会正義を実現するものとして重要性をもつ。…

【階層】より

…階級に関する諸学説のうち,多元的指標を用い階級分析に対して数量的アプローチをとる人びとが,しだいに階級social classという語よりも階層social stratification(この用語はP.A.ソローキンがその著《社会移動論》(1927)で初めて使った)という語を多用するようになったことによって,階層研究と呼ばれる分野が形成されるようになった。したがって階層論は階級論の一形態であり,階級以外に特別に階層という研究対象があると考えるのは適切でない。…

※「社会移動」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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