神経因性膀胱(読み)しんけいいんせいぼうこう

六訂版 家庭医学大全科 「神経因性膀胱」の解説

神経因性膀胱
しんけいいんせいぼうこう
Neurogenic bladder
(腎臓と尿路の病気)

どんな病気か

 膀胱が尿で充満すると、それを感知して大脳に信号が送られ尿意を感じます。それから、がまんしたり排尿を行います。大脳から膀胱や骨盤内の筋肉に指令を出しますが、この膀胱から大脳に至る神経の一部の障害によって起こる排尿障害を、神経因性膀胱といいます。

原因は何か

 排尿をコントロールする大脳、脊髄、末梢神経が障害されることによって起こってきます。

 大脳の障害としては、さまざまな原因による認知症(にんちしょう)パーキンソン病脳卒中脳出血脳梗塞(のうこうそく)など)、髄膜炎(のうずいまくえん)頭部外傷などがあげられます。

 脳と脊髄の障害としては、多発性硬化症(たはつせいこうかしょう)脊髄小脳変性症(せきずいしょうのうへんせいしょう)などがあげられ、障害の部位によって症状の現れ方が異なります。

 脊髄の障害としては、脊髄損傷頸椎症(けいついしょう)二分脊椎(にぶんせきつい)脊椎腫瘍(せきついしゅよう)、脊椎の血管障害、脊椎炎などがあげられます。

 末梢神経の障害としては、糖尿病性神経症、腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニア腰椎分離症子宮がん直腸がんなどの骨盤腔内手術などがあげられます。

症状の現れ方

 頻尿(ひんにょう)、尿失禁、排尿困難(尿が出にくい)、時には尿閉(膀胱内に尿はあるが、出すことができない)などの症状があります。原因となる病気によって排尿障害の症状や程度はさまざまで、無症状のこともあります。

 また、排尿をコントロールする神経は排便や性機能にも関与しているため、排便の異常や性機能障害(インポテンツ)を伴う場合もあります。排尿障害から膀胱炎腎盂腎炎(じんうじんえん)などの尿路感染症を起こし、それが原因で腎機能障害を来すこともあります。

検査と診断

 頻尿、尿失禁、排尿困難などの症状は神経因性膀胱以外の病気でもみられますし、神経因性膀胱はさまざまな原因によって起こってくるので、その原因を調べ、治療の選択を決定するためにはさまざまな検査が必要です。

 神経因性膀胱では、症状から排尿をコントロールする神経の障害部位が推定できます。頻尿、尿失禁、排尿障害のほか、排便の異常や性機能障害についての情報も診断に有用です。

 膀胱炎などの尿路感染症の有無や原因を調べる目的で、尿検査が行われます。画像検査としては、X線や造影、超音波、MRI、膀胱鏡などの検査が行われます。

 排尿の状態を調べる目的で、膀胱内の圧力と尿流量などを調べる検査を行ったり、残尿の有無を確認するために排尿後に超音波検査や導尿を行い、膀胱内に尿が残っていないかどうかを調べたりします。

 また、前述のように大脳や脊髄、末梢神経の病変が原因となることもあるため、頭部や脊髄のMRI、髄液検査などが行われることもあります。

治療の方法

 まず原因に対する治療が行われます。それによってよくなることもありますが、原因が明らかになっても神経因性膀胱そのものは、なかなか改善しない場合もあります。

 排尿障害に対しては、下腹部を圧迫したり叩いたりして膀胱を刺激することで排尿を試みます。それでも無効な例では、患者さん自身で1日4~5回導尿する「間欠的自己導尿法(かんけつてきじこどうにょうほう)」が行われます。

 この方法は、膀胱機能の回復や、膀胱炎など持続的導尿の合併症予防に有効であるともいわれており、病院で指導を受けて修得します。

 間欠的自己導尿法ができない場合には尿道カテーテルという管を留置しますが、その場合は尿路感染症、尿路結石などの合併症の可能性があります。

 薬物療法も行われ、塩酸オキシブチニン(ポラキス)、塩酸プロピベリン(バップフォー)、塩酸イミプラミン(トフラニール)、臭化ジスチグミン(ウブレチド)、ウラピジル(エブランチル)などを用います。

 手術療法が考慮される場合もあり、膀胱拡大術、尿道周囲コラーゲン注入術・スリング手術、経尿道的手術などが行われます。

病気に気づいたらどうする

 神経因性膀胱はさまざまな原因や病態により起こります。また、頻尿、尿失禁、排尿障害などの症状は神経因性膀胱以外の病気でもみられるものです。泌尿器科を受診し、正しく対処するようにしてください。

西野 友哉, 古巣 朗, 河野 茂

神経因性膀胱
しんけいいんせいぼうこう
Neurogenic bladder
(お年寄りの病気)

 排尿を司っている神経は、仙髄(せんずい)を中枢として膀胱を支配している末梢神経系と、仙髄より上位の神経系である脳と脊髄(せきずい)からなる中枢神経系の2系統に大きく分けることができます(図6)。したがって、これら神経系のどこかが障害を受けると排尿障害が起こります。この状態を神経因性膀胱といいます。

末梢神経の障害

 一般に、子宮がん、直腸がんなどでの骨盤内の大きな手術、糖尿病脊椎二分症(せきついにぶんしょう)などにより末梢神経が損傷されると、膀胱は弛緩(しかん)し、排尿筋の収縮が不十分になります。そのため尿の出が悪く、排尿後でも膀胱内に尿が残ること(残尿)が多く、しばしば膀胱炎を繰り返す状態になります。これを弛緩性(低緊張性)神経因性膀胱といいます。

 治療としては、糖尿病などの基礎疾患があれば、その治療が第一です。

 排尿については、十分時間をかけることで残尿を少なくします。排尿筋に力をつける薬剤(ウブレチドなど)を投与することもあります。

 残尿が極度に多い場合には、尿が膀胱から尿管へ逆流し、腎臓の機能を障害することもあるので、予防策として1日に1~2回、清潔なカテーテルを自分で膀胱内に挿入し、尿を排出させる方法(自己導尿法(じこどうにょうほう))も行われます。

中枢神経の障害

 脳卒中(のうそっちゅう)、腫瘍、外傷、原因不明で神経が病的に変化する疾患(筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)などの神経の変性疾患)、脊椎二分症などの先天性疾患等によることがあります。

 中枢神経系が侵された場合は、末梢神経系だけがはたらき、排尿筋は意思と関係なく勝手に収縮し、尿もれの状態になるはずです(無抑制性(むよくせいせい)神経因性膀胱)。しかし、障害の場所・程度によっては、必ずしも尿もれの状態とならず、かえって尿が出にくい状態になることもあります。

診断にあたって

 排尿筋の収縮の程度、外尿道括約筋(がいにょうどうかつやくきん)と排尿筋の連携の問題など、排尿についての複雑な要因が関連し、さまざまな排尿状態が起こってくるといえます。

 したがって、まず根底にある病気(原因疾患)が何であるかをはっきりさせるとともに、排尿についての日誌(排尿感覚の有無、意識して排尿した時刻・量、残尿感、意識して排尿した以外の尿もれの有無と量)をきちんと記録して、排尿状態を把握します。そのうえで、必要に応じて膀胱内圧測定などを行い、どのタイプの神経因性膀胱かを診断します。

治療とケアのポイント

 原因疾患の治療が必要なことはいうまでもありませんが、神経因性膀胱については意識的に一定間隔で排尿させ、尿もれがなく、残尿を少なくすることを目標として、個々の場合に応じた治療方針を立てます。

 一般的に治療が難しいことが多いのですが、排尿日誌をつけて、排尿状態をきちんと観察することにより、はじめて診断、治療が円滑に行われます。患者さんと介護側、医療側の熱意と努力により、治療結果が左右されることが多いといえます。


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「神経因性膀胱」の解説

神経因性膀胱(その他の腎・尿路疾患)

定義・概念
 神経因性膀胱とは,排尿機能を調節している神経排尿反射回路(脳・脊髄・末梢神経)のいずれかの部位に異常・障害・疾病が起きることで排尿機能障害が生じている病態をいう.
分類・病因
 排尿をつかさどる脳,脊髄,末梢神経に病変を有する疾患は神経因性膀胱の原因となりうる.おもな疾患として,脳血管障害,神経変性疾患,脊髄損傷,子宮癌や直腸癌などの骨盤腔内手術後,および糖尿病がある.神経障害の部位により①脳幹部より上位中枢の障害(脳血管障害,脳腫瘍など),②脳幹部病変(Parkinson 病,多発性硬化症など),③仙髄より上位の脊髄障害(外傷性脊髄損傷,脊髄腫瘍,多発性硬化症など),④仙髄または末梢神経障害(骨盤腔内手術後,糖尿病,脊髄髄膜瘤など)の4群に大別する分類があり,それぞれの障害部位に典型的な下部尿路障害の症状をきたす.
臨床症状
 症状は蓄尿時と排尿時に区別され,尿をためることや尿を出すことがスムースにいかず,それぞれ蓄尿障害,排出障害といった症状が現れる.蓄尿障害を示す症状としては,頻尿,夜間頻尿,尿意切迫感,尿失禁などがあり,さらに尿失禁は,腹圧性尿失禁,切迫性尿失禁,混合性尿失禁,遺尿,夜間遺尿などに分けられる.神経因性膀胱で起きる尿失禁では,蓄尿相において不随膀胱収縮をきたす排尿筋過活動や尿道括約筋の弛緩した尿道不全によって生じることが多い.排出障害を示す症状としては尿勢低下,尿線断裂,尿線中断,排尿開始遅延,いきみなどの腹圧排尿,排尿終末時尿滴下に分けられる.原因として糖尿病などにより膀胱収縮力の低下した排尿筋低活動や尿道括約筋が弛緩しない尿道過活動によって生じる.排尿筋括約筋協調不全など両者を合併する場合もある.個々の症状は,神経障害の部位および病変の程度によりさまざまで,排尿障害と蓄尿障害が混在する場合もある.
合併症
 膀胱炎などの再発性尿路感染,尿路結石,萎縮膀胱膀胱憩室の形成などの合併症がみられる.高度の排尿機能障害があると,膀胱尿管逆流症を伴う水腎症がみられ,重症例では腎後性腎不全となるため,的確な診断が重要となる.
診断
 病歴により,脳血管障害や脊椎疾患,神経変性疾患などの有無,手術歴の有無を確認する.一般の診療では,下部尿路症状のていねいな問診と排尿記録やエコー下の残尿測定は簡便かつ有用で,鑑別診断のみならず,治療経過観察でも得られる情報が多い.身体的,神経学的所見では,直腸診を行い,肛門括約筋反射や球海綿体筋反射の有無や前立腺肥大症の有無を確認し,二分脊椎や骨盤の変形などにも留意する.形態検査(腎・膀胱形態)として,DIPなどの排泄性尿路造影,腹部超音波検査,MRI検査,膀胱造影検査などが行われる.膀胱造影検査法は,膀胱容量の評価と逆流の検出を行うことができる.最終的には尿流量動態検査が必要で泌尿器科専門医により,尿流量測定,残尿測定,膀胱内圧測定,尿道括約筋筋電図,pressure-flow study,尿道内圧測定,video-urodynamicsなどを患者の適応にあわせて行う.治療につながる重要なポイントは前述した下部尿路機能障害のタイプを正確に診断することである.また,近年,蓄尿機能障害のなかでも特に尿意切迫感を呈する状態を,過活動性膀胱(overactive bladder:OAB)という症状症候群として別に定義することになった.
治療
 原因疾患の治療とともに,まず排尿障害を蓄尿障害と排出障害の2つに分け,それぞれの治療を行う.しかし,神経因性膀胱では排尿障害と蓄尿障害が合併している場合も多い.十分な膀胱容量(排尿間隔2時間以上)があり,残尿率20%以下(100 mL以下)で,失禁がない状態を目指す.重症例では,腎機能の保持,尿路感染などの合併症を回避することを目標とした尿路管理を行う.
1)蓄尿障害に対する治療法:
排尿のリハビリテーションを目的として,肥満,喫煙,多飲などを改善させる生活指導や排尿筋過活動に対する訓練療法として排尿を我慢させる膀胱訓練,骨盤底筋体操などの理学療法を指導する.薬物療法としては,排尿筋過活動に対する薬物療法としてオキシブチニン,プロピベリン,イミダフェナシン,ソルフェナジンやトルテロジンなどの抗コリン薬で膀胱の過剰な収縮を抑制する.副作用として,口渇,便秘,頻脈などがあり,閉塞隅角緑内障には禁忌である.また,高齢者では記銘力の低下に注意を要する.最近,過活動膀胱に対してβ3作動薬であるミラベグロンが認可された.重度の障害に対しては,オキシブチニンなどの膀胱内薬物注入療法,電気刺激療法,腸管を利用した膀胱拡大術などの手術療法が行われる.
2)排出障害に対する治療法:
排出障害の治療目的は膀胱の収縮力を増加させ,尿道の抵抗を減弱させる治療となる.排尿筋低活動に対する行動療法として,腹圧を上昇させたり,手で圧迫して排尿を誘導する方法を用いる.残尿が多く,排尿困難が強度で,尿路感染や高圧排尿の期間がある場合,間欠導尿を指導する.薬物療法としては,ベサネコールやジスチグミンなどのコリン作動薬にて排尿筋収縮を増強させる.副作用として腹痛,下痢があるが,発汗や縮瞳,呼吸困難などのコリン作動性クリーゼを認めた場合には硫酸アトロピンと投与するなど緊急の処置を要する.尿道抵抗を減弱させるために塩酸タムスロシンやナフトピジルなどのα受容体遮断薬を用いる.排尿管理の最終手段として,尿道カテーテル留置が選択されるが,尿路感染や萎縮膀胱,特に男性では尿道瘻の合併症などをきたすため,膀胱瘻造設術が望ましい.[井手久満・堀江重郎]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

家庭医学館 「神経因性膀胱」の解説

しんけいいんせいぼうこう【神経因性膀胱 Neurogenic Bladder】

[どんな病気か]
 膀胱は、十分な尿を蓄えることができ、がまんができて、もらすことがないという蓄尿(ちくにょう)と、意識すればいつでもスムーズに排尿(はいにょう)できて、膀胱に残る尿(残尿(ざんにょう))がないという、相反するはたらきをもっています。
 この2つのはたらきは、膀胱を収縮させる筋肉(膀胱排尿筋(ぼうこうはいにょうきん))や、尿道(にょうどう)をしめる筋肉(尿道括約筋(にょうどうかつやくきん))などの利尿筋群(りにょうきんぐん)が協調してはたらくことでコントロールされています。
 このような、膀胱の正常な排尿のしくみ(蓄尿と排尿)は、完全に神経の支配を受け、ふつうは円滑に行なわれています。
 この神経系の中枢(ちゅうすう)は、大脳皮質(だいのうひしつ)にあって、脳幹部(のうかんぶ)を通り、脊髄(せきずい)の中にある腰(よう)・仙髄(せんずい)の中継基地を経て、末梢神経(まっしょうしんけい)となって膀胱や尿道の利尿筋群につながっています。
 膀胱に尿がたまると、そのことが大脳皮質に伝えられ、この神経系の作用によって利尿筋群がはたらき、排尿がおこります。
 ですから、この神経系のどこかに形態的または機能的病変がおこると、利尿筋群の協調性が失われ、スムーズに排尿できなくなります。この状態を、神経因性膀胱といいます。
[症状]
 自覚されるのは、今まで意識することなく行なっていた排尿が、自分の思うようにできないという排尿異常です。大脳、脳幹、脊髄、末梢神経のどこに障害を受けたのか、また、その障害の程度や、発病からどのくらいたったのかによって、排尿障害の状態はさまざまです。
 排尿が困難なために、残尿が多くなり、その結果、尿路感染や尿路結石(にょうろけっせき)がおこって、膀胱尿管逆流(ぼうこうにょうかんぎゃくりゅう)(「膀胱尿管逆流」)などが長期におよぶと、腎臓(じんぞう)の機能低下をまねくおそれがあります。
[原因]
 原因でもっとも多いのは、外傷性脊髄損傷です。そのほか、脳血管障害、脳腫瘍(のうしゅよう)(「脳腫瘍とは」)、糖尿病性神経障害、多発性硬化症(たはつせいこうかしょう)(「多発性硬化症」)、パーキンソン病(「パーキンソン病(特発性パーキンソニズム)」)などによっておこることがあります。これらの病気については、それぞれの項目を参照してください。
 また、骨盤内(こつばんない)手術(子宮・直腸広汎摘出術(こうはんてきしゅつじゅつ)など)による末梢神経の損傷でもおこります。
[検査と診断]
 まず問診で、医師から排尿障害のようすや随伴症状の有無、病気の既往(きおう)、薬を服用しているかどうかなどをたずねられます。
 ついで、各種の検査を行ない、四肢(しし)の運動障害、不随意(ふずいい)運動、知能障害、言語障害などがあるかどうかを調べるとともに、各種の神経反射の異常がないか調べます。残尿の有無、残尿量のチェックは必須の検査です。
 排尿に関係する神経のはたらき具合を詳しく調べるには、尿流動態検査(尿流量測定、膀胱内圧測定、尿道内圧測定、外尿道括約筋筋電図(きんでんず)など)が重要です。
[治療]
 障害された神経の場所、障害の程度、発病(損傷)後の経過によって、治療法がちがいます。
 原因となった病気によって、診察を受ける科もちがいますが、それぞれの専門医にまかせると同時に、泌尿器科医(ひにょうきかい)にも相談しましょう。
 一般的には、膀胱内圧が低く、尿が出ない場合は、下腹部を圧迫する排尿訓練(クレーデ法)があります。
 また、尿道内圧を下げるために経尿道的電気切除術(けいにょうどうてきでんきせつじょじゅつ)や薬物治療が行なわれたりします。
 無活動性膀胱(むかつどうせいぼうこう)だったり、排尿筋・尿道括約筋協調不全などで残尿が多い場合は、1日3~4回尿がたまったころに、自分で管を入れて尿を出す間欠的自己導尿法が勧められます。
 薬物療法では、排尿筋の活動が強すぎる場合に、副交感神経節を遮断する作用のある臭化(しゅうか)メタンテリン、臭化プロパンテリンを使ったり、その筋肉に直接作用してゆるめる塩酸フラボキサート、塩酸オキシブチニン、塩酸プロピベリンを使用したりします。
 また逆に、排尿筋の反射が失われている場合は、神経をにぶくするコリンエステラーゼを抑える臭化ジスチグミンが用いられます。
 尿道括約筋の緊張が強い場合はα遮断薬(アルファしゃだんやく)が有効です。
 神経障害で尿道外括約筋がゆるんでしまうケースでは、尿道括約筋の張力を高める薬として、エフェドリンを配合した塩酸メチルエフェドリン、前駆物質である麻黄(まおう)を含んだ葛根湯(かっこんとう)などが有効です。
 そのほかに三環系抗うつ薬である塩酸イミプラミン、塩酸アミトリプチリンが最近よく使われます。β(ベータ)刺激薬である塩酸クレンブテロールなどが有効な場合もあります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「神経因性膀胱」の意味・わかりやすい解説

神経因性膀胱
しんけいいんせいぼうこう

排尿に関与する中枢および末梢(まっしょう)神経の障害によっておこる排尿障害を総称する。原因として神経系の先天性および後天性の疾患がある。成人では脊髄(せきずい)外傷が代表例で、小児では先天性脊髄椎(つい)奇形に伴う脊髄形成不全が大部分を占める。また脳卒中や脳腫瘍(しゅよう)など脳障害によっておこる排尿異常も神経因性膀胱に入るが、狭義には脳膀胱とよばれる場合もある。

 排尿障害としては排尿しようと思っても尿が出ない排尿困難や、尿が無意識に排出する尿失禁などが代表的である。診断には、膀胱へ徐々に水を注入しながら膀胱内圧の変化を記録する膀胱内圧測定が行われる。神経因性膀胱の病型は複雑で、種々の分類が提案されている。このうち一般的なものとして、尿意を感ずるとがまんできずに漏らしてしまう無抑制膀胱、尿意が欠如し一定量の尿が膀胱にたまると排尿反射のおこる反射性膀胱、膀胱充満感や尿意がなく膀胱収縮もおこらない自律性膀胱、および膀胱知覚の欠如のため多量の尿が膀胱にたまってしまう無緊張性膀胱などに分類されている。

 直接生命を脅かす因子は、これら排尿障害を基盤としておこる尿路感染症、尿路結石、膀胱尿管逆流、水腎(じん)水尿管および腎機能障害である。放置すれば重篤な尿路感染症などを繰り返し、腎機能の廃絶に至る。

[土田正義]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の神経因性膀胱の言及

【神経因性膀胱機能障害】より

…膀胱の運動や知覚を支配している神経が障害され,排尿などの正常な膀胱の機能がそこなわれている状態をいう。単に神経因性膀胱ともいう。排尿をつかさどる中枢は脳と仙髄(脊髄の下部)の2ヵ所にあり,この中枢とそれぞれを結ぶ神経のどこかに障害が起こると本症が発生する。…

※「神経因性膀胱」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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