筋性斜頸(読み)きんせいしゃけい(英語表記)Muscular torticollis

六訂版 家庭医学大全科 「筋性斜頸」の解説

筋性斜頸
きんせいしゃけい
Muscular torticollis
(運動器系の病気(外傷を含む))

どんな病気か

 筋性斜頸は、乳児に発生する先天性の奇形であり、全新生児の0.08~1.9%にみられ、骨盤位分娩(いわゆる逆子(さかご))、初産児、難産例に多いといわれています。頸部前面を斜めに走る胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとっきん)の一部が増殖するため、頸部の前の筋肉腫瘤(しゅりゅう)が発生します。通常、腫瘤は自然に小さくなって治癒していくのですが、一部が残存したり、筋肉の短縮が生じると筋性斜頸となります。そのため、子どもの頭部および顔面は悪いほうに傾き、よいほうに回旋することになります。

原因は何か

 前述のように胸鎖乳突筋の短縮が原因となります。これは分娩時の外傷により誘発されるといわれていますが、筋肉の短縮が残存するため、外傷と炎症合併胎内での圧迫、先天奇形などの諸説があります。

症状の現れ方

 新生児の時の顔の向き癖で指摘され、胸鎖乳突筋に腫瘤を確認されると筋性斜頸が指摘されます。このため、乳幼児までに診断がついていることが多く、成人以降に急に発症することはほとんどありません。頸部の側屈あるいは回旋制限によって気づくこともあります。

 右側に発症することが多く、顔は左側を向き、頭部は右側に傾き、右肩が左よりも挙上されている状態が典型的な症状です。

 これらの症状が学童期まで続くと、顔面の形状に左右非対称が現れることがあります。股関節の低形成や足の変形などの運動器の先天的異常を合併していることも多くあります。

検査と診断

 両手で胸鎖乳突筋の硬度を調べます。また、回旋制限や側屈に制限がないかを調べ、これらに制限がある場合は筋性斜頸と診断されます。超音波検査で確認する場合もあります。その他の斜頸(骨性斜頸)を除外診断するためにX線検査も行います。

治療の方法

 生後1年半までは、保存的に治療を行うのが通常です。具体的には、子どもの顔面が正面を向くように枕やタオルで工夫します。授乳や話しかけはできるだけ患側から行い、患側を向く時間が長くなるように工夫します。患部マッサージ治療は効果がないとの報告があります。

 多くの場合は自然治癒しますが、そうでない場合は3~4歳で、胸鎖乳突筋の腱切り術といわれる手術を受けることが望ましいと報告されています。

病気に気づいたらどうする

 小児専門の整形外科医が勤務する病院を受診してください。通常は、大学病院あるいはそれに準ずる病院への受診をすすめます。

筋性斜頸
きんせいしゃけい
Muscular torticollis
(子どもの病気)

どんな病気か

 筋性斜頸とは、左右の胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)のアンバランスのため、首を常に片側に傾けている状態をいいます。出生100人に対し1人前後の頻度でみられ、骨盤位分娩(こつばんいぶんべん)逆子)では頭位(とうい)分娩より高率に発生します。

原因は何か

 筋性斜頸は、新生児期、胸鎖乳突筋の分岐部に肉芽腫(にくげしゅ)が生じるために起こります。原因のひとつとして、分娩時の外傷が推定されていますが、はっきりしない部分も残っています。

症状の現れ方

 筋性斜頸の子どもは、出生直後から首を傾けています。胸鎖乳突筋を触診すると、生後1週ころ、分岐部に腫瘤(しゅりゅう)を触れます。この腫瘤は生後3週ころに最大となりますが、その後の数カ月間で、ほとんどの場合は、縮小ないし消失しますが、数%の症例では、索状(さくじょう)物として残ることもあります。右の胸鎖乳突筋に病変がある場合、患児の頭部は右に傾斜、左を向いた位置をとります。治るのが遅れた場合、顔面は右半分で縦に短縮、横に拡大し、左右非対称になります。

検査と診断

 筋性斜頸は新生児室または乳児健診で発見され、その後は整形外科医による診察を受けることになります。

治療の方法

 乳児期には無処置、経過観察が原則であり、特別の検査や治療はしません。多くの場合、1歳ころまでには症状が自然に治癒ないし軽快することが期待できるからです。しかしそれ以降も斜頸が残る場合には、幼児期(3歳前後)に手術(胸鎖乳突筋切腱術(せっけんじゅつ)など)が行われます。

病気に気づいたらどうする

 整形外科医による定期的診察を受けます。寝かせ方(枕やバスタオルの当て方)などについて指導を受けます。

水口 雅

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「筋性斜頸」の解説

きんせいしゃけい【筋性斜頸 Muscular Torticollis】

[どんな病気か]
 赤ちゃんのくびの片側の筋肉(胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん))にしこりができて、筋肉が短縮するために、くびが横に曲がる病気です。
 こうしたことがおこる原因は、よくわかっていません。
[症状]
 生後1週間目くらいに、くびの片側に指先ほどの大きさのしこりができ、それが生後3週間までに、徐々に大きくなります。それ以後、しこりは自然に小さくなって、90%は1年以内に消えてしまいます。
 しこりが残ると、赤ちゃんは顔をしこりの反対側に向け、くびをしこりのほうに傾け、それぞれ反対側には動かしにくくなります。
 この状態が長く続くと、寝ぐせがついて、片側の後頭骨(こうとうこつ)が平らになり、顔がいびつになってしまいます。
[治療]
 90%は自然に治ってしまうので、赤ちゃんの間は、とくに治療の必要はありません。
 治るまで、頭や顔がいびつにならないように、寝かせ方を工夫します。向きぐせがあるほうの反対側におもちゃや窓などがあるようにします。
 マッサージをすると、しこりと周囲の組織の間に癒着(ゆちゃく)がおこって、自然治癒(ちゆ)をさまたげることが多いので、しないようにしましょう。
 1歳以上になってもよくならないときに、初めて手術を考えます。
 手術は、緊張している筋肉を鎖骨の上で切り離して、くびに矯正用のカラーをつける方法が行なわれます。

出典 小学館家庭医学館について 情報

百科事典マイペディア 「筋性斜頸」の意味・わかりやすい解説

筋性斜頸【きんせいしゃけい】

斜頸のうち,胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)の繊(線)維化による拘縮と短縮によって起こるもの。乳児期にみられる先天性斜頸の多くはこの筋性斜頸である。ほとんどの場合は自然治癒するが,それ以外は徒手による筋切り術や,胸鎖乳突筋の切断術を行う。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

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