糸球体腎炎(読み)シキュウタイジンエン

デジタル大辞泉 「糸球体腎炎」の意味・読み・例文・類語

しきゅうたい‐じんえん〔シキウタイ‐〕【糸球体腎炎】

腎炎

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「糸球体腎炎」の意味・わかりやすい解説

糸球体腎炎
しきゅうたいじんえん

両側腎の大多数の糸球体に一様な炎症性病変を生ずる疾患で、通常は腎炎ともよばれる。主として溶連菌の感染が体内のどこかにあると、その毒素に対する抗原抗体反応として発症する。浮腫(ふしゅ)、血圧上昇、血尿、タンパク尿がみられ、急性慢性に大別される。

[加藤暎一]

急性糸球体腎炎

あらゆる年齢にみられるが、小児期に多い疾患で、10歳以降の腎炎は慢性腎炎に移行しやすい。原因は上気道感染、とくに扁桃(へんとう)炎に続発することが多く、原因菌のうち溶血性連鎖球菌(溶連菌)がもっとも多い。溶連菌感染で腎炎が発症するのは、菌が腎臓へ侵入するのではなく抗原抗体反応によるもので、菌が出す毒素によって毛細血管が侵され、腎に親和性をもつ抗原がつくられると、これに対する抗体ができて抗原‐抗体複合体をつくる。これが腎を侵して炎症をおこすものと考えられている。

 症状が現れるのは、扁桃などに感染をおこしてから小児で7~9日、成人で9~14日であることが多い。感染の強さとは関係なく、成人の場合には原感染を見逃しやすい。定型的な症例には血尿、浮腫、高血圧の三大症状がみられる。初発症状はタンパク尿と血尿であるが、尿タンパクはさほど多くはなく、血尿のほうが必至で、尿の顕微鏡検査ではつねに赤血球が認められる。尿の色が赤くなったことで腎炎に気づくこともある。尿タンパクが著しく陽性のネフローゼでは、血尿が少なく、血圧上昇も伴わないことが多い。また初期には、尿量の減少(乏尿)がみられ、乏尿が続くと浮腫を生ずる。浮腫は眼瞼(がんけん)周囲がむくむ程度で、朝起きたときに目だつ。浮腫の程度は病気の軽重とかならずしも一致しない。なお、しばしば血圧の中等度または軽度の上昇を伴うので注意する。

 診断は、小児では容易であるが、成人では慢性腎炎との鑑別がむずかしい。急性腎炎既往があるか、感染後の間隔が短くて腎機能の障害が高度であれば多くは慢性腎炎である。

 経過はいろいろで、一般には年齢が若い場合には1~3か月で全治する。成人では2~6か月かかり、80%以上は全治するが、10%前後が慢性に移行し、5%くらいが進行性で、短期間で腎不全に移行する場合がある。三大症状が消失して全治したかにみえても、少なくも3~6か月ごとに数年は尿検査をする必要がある。

 発病初期には血圧測定を何回も行い、収縮期圧140ミリメートル水銀柱、拡張期圧90ミリメートル水銀柱以上のときは血圧調整を行う。食事で水分や食塩を制限するほか、心不全の前駆症状に注意して安静を守る。乏尿および無尿が数日から数週にわたって続くこともあり、長く続くほど経過や予後が不良となる。水分、タンパク質、食塩の摂取制限を行い、高カリウム血症や酸血症に注意する。

 なお、三大症状がすこしも改善する傾向がなく、6か月から1年以内に腎不全となるものを急速進行性腎炎(亜急性腎炎)とよぶ。また、急性期の三大危険症として高血圧性脳症、心不全、乏尿および無尿があげられている。

 治療は、安静を守り保温を心がけ、食事療法を行う。安静と保温は尿タンパクがまったく陰性になるまで続けるのが原則である。食事療法は症状に応じて腎食第1度から第3度までに分けられる。発病後数日間の乏尿期には腎食第1度、すなわち無塩(1日食塩2グラム以下)、無タンパク、水分総量1日600cc以下とし、利尿がつけば第2度として食塩5グラム以下、タンパク30グラム以下とする。浮腫と高血圧がなくなれば第3度、すなわち食塩10グラム以下、タンパク50グラム以下の食事にする。

[加藤暎一]

慢性糸球体腎炎

急性から移行する場合と最初から慢性として発病する場合とがあり、病型は多彩で、軽重や進行の程度などが著しく異なるため、まず病型の分類が必要である。

 典型的なものは1日1グラム程度の尿タンパクがあり、腎機能は糸球体濾過(ろか)値および腎血漿(けっしょう)流量が正常の60%程度に減少する。浮腫および高血圧はみられない。安静を守っても好転せず、この状態が数年も続いて徐々に血圧が高くなってくるものである。このほか、尿タンパクが著しいネフローゼ症候群を伴うネフローゼ型慢性腎炎をはじめ、高血圧型慢性腎炎、血液の尿素窒素が上昇する末期慢性腎炎などの病型がある。

 治療は病型によって異なる。一般には、進行傾向のみられない場合は寒冷と感染を警戒し、なるべく休養をとるが、食事は普通食でよく、職業をかえたりする必要もない。高血圧型では減塩食にして降圧剤を用いる。ネフローゼ型は安静と保温を守り、ステロイドホルモンによる療法を試みる。末期のものは長期血液透析を行うか否かが問題となる。

[加藤暎一]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「糸球体腎炎」の意味・わかりやすい解説

糸球体腎炎
しきゅうたいじんえん
glomerulo nephritis

代表的な腎炎で,糸球体が一群となって炎症性病変を起すもの。急性,亜急性,慢性の3型に分けられる。一般に急性糸球体腎炎を急性腎炎,慢性糸球体腎炎を慢性腎炎という。

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改訂新版 世界大百科事典 「糸球体腎炎」の意味・わかりやすい解説

糸球体腎炎 (しきゅうたいじんえん)

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栄養・生化学辞典 「糸球体腎炎」の解説

糸球体腎炎

 糸球体の炎症.

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世界大百科事典(旧版)内の糸球体腎炎の言及

【基底膜】より

…年をとったり,ある種の病気にかかったりすると,厚さが増加するという。たとえば糸球体腎炎では,腎小体の毛細血管とたこ足細胞podocyteの間にある基底膜が厚くなったり断裂が起こったりする。基底膜の成分の一部を上皮細胞が作ると考えられている。…

【高血圧性脳症】より

…高血圧に伴って急激かつ一過性に脳症状の出現するものをいう。いかなる原因による高血圧でも生ずるが,悪性高血圧,糸球体腎炎および子癇などによることが多く,発症年齢は原因となる疾患のそれと同じである。脳症状としては,しだいに強くなる頭痛,嘔吐,癲癇(てんかん)様痙攣(けいれん)発作が多く,精神障害(錯乱),ついで意識障害(傾眠~昏睡)が出現する。…

【腎炎】より

…1827年ブライトRichard Bright(1789‐1858)は,タンパク尿と浮腫を腎臓の組織異常と関連づけて,ブライト病を記載し,泌尿器科的疾患とは異なった腎臓疾患があることを明らかにした。以降,ブライト病についての病理学的研究が進められ,79年には糸球体腎炎が,1905年にはネフローゼが記載された。そこで,14年フォルハルトF.Volhardらは,これらの疾患を整理・分類して,ブライト病を,尿細管の上皮の変性を主体としたネフローゼnephrose,糸球体の炎症性病変を主体とした腎炎,腎臓の動脈硬化を主体とする腎硬化scleroseの3型に分けた。…

※「糸球体腎炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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