精選版 日本国語大辞典 「納豆」の意味・読み・例文・類語
なっ‐とう【納豆】
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大豆を原料とした発酵食品。納豆には糸引き納豆と塩辛納豆がある。糸引き納豆は、蒸した大豆に納豆菌を作用させて発酵させたもので、特有の粘りと風味がある。塩辛納豆は、蒸した大豆と麹(こうじ)で麹豆をつくり、塩水に浸(つ)けて発酵させたあと乾燥したもので、色は黒く、みそのような風味がある。しかし、普通、単に納豆といえば糸引き納豆をさす。なお、豆菓子の甘納豆は大豆製品ではない。日本の糸引き納豆に似たものに、インドネシアのテンペ、ネパールのキネマ、タイのトアナオなどがある。
[河野友美・山口米子]
塩辛納豆は中国から伝えられたが、糸引き納豆は日本独特のものである。塩辛納豆は昔は「豉(くき)」とよばれ、奈良時代にはすでに宮中大膳職(だいぜんしき)でもつくられていた。『延喜式(えんぎしき)』(927)には「大豆一石六斗六升七合、海藻四斤八両にて豉一石を得る」とある。しかし、塩辛納豆としてその名が文献に現れるのは、平安時代後期の『新猿楽記(しんさるがくき)』あたりがもっとも古いといわれている。塩辛納豆は寺でつくることが多かったため寺納豆ともよばれた。現在よく知られている塩辛納豆として京都の大徳寺(だいとくじ)納豆、静岡の浜名納豆(浜納豆)などがある。なお、納豆の語は、寺院の納所(なっしょ)でつくられた豆の意であるともいわれている。
糸引き納豆が文献にしばしば現れるようになるのは室町時代になってからであるが、それ以前すでに東北地方ではつくられていたようである。江戸時代になると糸引き納豆は関東各地で食べられるようになり、書物、歌などにその名が多く現れている。糸引き納豆は、箸(はし)で混ぜると糸を引くように粘り気が出るところからこの名がある。また、製造時に苞(つと)に入れたため苞納豆ともいう。関東以北で好んで食べられるところから関西では東京納豆ともよんでいた。
[河野友美・山口米子]
糸引き納豆は、まず大豆を水に浸し、十分膨らんだところで蒸す。蒸し上がった大豆を別の容器に移し、培養した納豆菌を大豆と混ぜ合わせる。これを容器に包装して、40℃程度の発酵室に入れる。約16時間置いて納豆菌が繁殖したところで発酵室から出して冷却し、菌の繁殖を止める。従来の製法は、蒸した大豆を藁(わら)苞に入れ、藁についている納豆菌の自然発酵によってつくっていた。しかし、藁は衛生上好ましくないこと、製品が均一にできないことが多いなどから、現在は純粋に培養した納豆菌が用いられている。包装容器は、かつては納豆菌の利用と容器を兼ねて稲藁が用いられてきた。しかし、納豆菌の培養が行われるようになるとともに、容器も新しいものが現れ、稲藁から経木や竹皮に変わり、現代は発泡スチロール容器、紙容器にパラフィンコーティングを施したものなどが使われている。
[河野友美・山口米子]
納豆はタンパク質など大豆の栄養成分が多いが、その特徴は納豆菌により分解され、たいへん消化吸収されやすい形になっていることである。さらに、発酵によりビタミンB2も多く生成され、栄養的に優れた食品である。納豆菌によってつくられる各種の生理機能をもつ成分も注目されている。なお、納豆の粘質物は、納豆菌によってつくりだされたタンパク質の分解物によるもので、納豆ムチンとよばれる。
[河野友美・山口米子]
納豆を器にあけ、箸でよくかき混ぜて粘りを出し、刻みねぎ、削り節、溶きがらしなどを加えてしょうゆ味で食べるのが普通である。これをご飯にかけたり、餅(もち)にからめた納豆餅、すりつぶした納豆をみそ汁に加えた納豆汁、つけ汁に納豆を加えた納豆そば、てんぷらなど料理の幅も広い。
品質のよい糸引き納豆は、包装を開いたとき特有の香りがする。古くなるとアンモニア臭が出たり、褐色に変色して糸を引かなくなる。保存には冷蔵がよい。
山形県米沢(よねざわ)地方には、糸引き納豆を二次的に加工した雪割り納豆がある。これは、ひき割り納豆(大豆を炒(い)ってひき割り、これを蒸して納豆菌をつけて発酵させたもの)に、麹、食塩を加え熟成させてペースト状にしたもので、五斗納豆ともよばれる。納豆の加工品にはそのままを乾燥した干し納豆もある。
[河野友美・山口米子]
『木山芳大編著『なにかとナットウ・ブック――オール・ザット・納豆読本』(1997・勁文社)』▽『アスペクト編・刊『至宝の伝統食1 納豆』(1999)』▽『渡辺杉夫著『食品加工シリーズ5 納豆――原料大豆の選び方から販売戦略まで』(2002・農山漁村文化協会)』▽『全国納豆協同組合連合会編・刊『納豆近代五十年史』(2004)』
ダイズを原料とする加工食品。塩辛納豆と糸引納豆の2種があり,単に納豆というと,関東では後者を,関西では前者をさすことが多かった。塩辛納豆の名は平安後期の《新猿楽記》に見えているが,古く中国から伝えられ,奈良時代から宮内省の大膳職でもつくっていた〈豉(くき)〉の一種とされる。室町期になると納豆,唐(から)納豆と呼ばれ,のちには寺院でつくることが多かったため寺納豆ともいった。京都では大徳寺納豆,天竜寺納豆などの名が知られ,遠江(とおとうみ)浜名湖畔の大福寺でつくられたものは江戸初期から浜名納豆(浜納豆とも)として著名であった。現在では,柔らかく煮たダイズにショウユコウジカビを植えてこうじ豆をつくり,塩水に浸漬(しんし)して3~4ヵ月発酵させたのち,豆をとり出して乾燥する。暗黒色で,八丁みそに似た風味がある。そのまま酒のさかななどにもするが,田楽みそにすり混ぜたり,和菓子のあんに加えると特有の苦みと渋みが味を引き立てる。
糸引納豆は,蒸し,あるいは煮たダイズを納豆菌で発酵させるもので,従来は煮たダイズをわらづとに包んで室(むろ)に入れ,わらに付着している納豆菌を繁殖させてつくった。このため,つと納豆とも呼ぶ。室町中期から日記類などに名が見られるようになり,15世紀半ばのものとされる《精進魚類物語》には納豆太郎糸重という武者が活躍する。江戸前期,人見必大は《本朝食鑑》(1697)にからしであえて食べると美味だといい,貝原益軒は《大和本草》(1709)で腐って粘りが出てきたもので,こんな物を食べてはいけないといっている。京都では食べ,九州では食べる人が少なかったのかも知れない。
糸引納豆はタンパク質やビタミンB2に富み,消化吸収のよいすぐれた食品である。刻みネギを加え,からしじょうゆで味をととのえて飯にかけて食べ,あるいは,すりつぶしたものをみそ汁でのばして納豆汁にする。納豆あえは,刻んだ納豆をからしじょうゆで調味し,それでヒラメ,サヨリなどをあえる。また,つきたての餅にからませたり,固めにといた小麦粉の衣をつけててんぷらに揚げたりもする。第2次大戦前の東京では,毎朝早く納豆売が町を呼び歩いていた。関西では見られなかったが,それは昔からのことではなく,《人倫訓蒙図彙》(1690)には納豆売の姿が描かれている。ところで,東ネパール,シッキム,ブータンなどのヒマラヤ地方とジャワ島に,現在糸引納豆そっくりのダイズの無塩発酵食品が行われており,この両地方と日本とを結ぶ大三角形の地域が,照葉樹林文化の重要な一部をなす納豆文化圏であろうとする中尾佐助(1916-93)の説が注目を集めている。
執筆者:鈴木 晋一
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