脳動静脈奇形(読み)のうどうじょうみゃくきけい(英語表記)Cerebral Arteriovenous Malformation

六訂版 家庭医学大全科 「脳動静脈奇形」の解説

脳動静脈奇形
のうどうじょうみゃくきけい
Arteriovenous malformations (AVM)
(脳・神経・筋の病気)

どんな病気か

 異常な動脈静脈がひと(かたまり)になっていて、そこへの流入動脈から多量の血液が流れ込み、流出静脈から流れ出ます。一種の血管の奇形で、脳の内部、脳の表面、硬膜などいろいろな場所に起こります。自然に破れて、くも膜下出血(まくかしゅっけつ)脳内出血を起こしたり、てんかんを起こしたりします。

原因は何か

 年齢とともに次第に大きくなっていくようですが、いつできるのか、原因は何かということはわかっていません。

症状の現れ方

 最も多い症状は脳内出血で、侵された脳の部位に応じて、片麻痺(かたまひ)、言語障害、視野障害、感覚障害などが起こります。自覚症状として、頭痛吐き気嘔吐なども起こります。

 次に多いのはてんかん発作です。片側上肢または下肢に起こる焦点性のけいれん発作、あるいはそれが全般に広がる二次性全般発作などが典型的です。

 くも膜下出血で発症する場合には、突然に強い頭痛が起こり、それが続きます。同時に、吐き気、嘔吐が起こることがあります。出血の量が多い場合には意識が障害されます。ただし、脳動脈瘤破裂(のうどうみゃくりゅうはれつ)によるくも膜下出血よりは軽い症状ですむことが多いようです。

 慢性的な頭痛が起こることもあります。

検査と診断

 造影剤を使った頭部CT、あるいは頭部MRIで診断できます。手術をするには、脳血管撮影(図13)で流入動脈、流出静脈を詳しく調べる必要があります。てんかん発作がある人には、脳波検査を行います。

治療の方法

 脳内出血やくも膜下出血を起こしたら、入院して安静にし、状態が安定するのを待ちます。てんかん発作を起こした人に対しては、抗てんかん薬を投与します。

 治療の原則は外科手術による動静脈奇形の全摘出です。実際には年齢、性別、動静脈奇形の部位、大きさ、合併症などによって手術をするかどうか決めます。手術が困難であるような患者さんには、血管内治療による塞栓術や、ガンマナイフによる放射線治療も行われています。

病気に気づいたらどうする

 頭痛の時でも、てんかん発作の場合でも診断のためには検査が必要です。同じような症状を起こす病気と区別する必要があるので、神経内科、脳神経外科の専門医の診察を受けてください。

関連項目

 くも膜下出血脳出血てんかん

髙木 繁治


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「脳動静脈奇形」の解説

のうどうじょうみゃくきけい【脳動静脈奇形 Cerebral Arteriovenous Malformation】

[どんな病気か]
 脳の一部で、異常な血管を介して動脈と静脈がつながっている病気です。
 動脈の血液は、毛細血管(もうさいけっかん)を経て静脈へと流れますが、この病気では、毛細血管を経由せずに、異常血管を介して圧の高い動脈の血液が静脈へ流れ込むために、静脈内の圧が高まり、破裂(はれつ)して出血します。また、動脈血が異常血管を介してよその部位に流れてしまうために、異常血管の先の脳に十分な血液が流れず、そこが酸素不足におちいって、けいれんをおこしたりします。
[症状]
 脳内出血(のうないしゅっけつ)や脳室内出血(のうしつないしゅっけつ)をおこすことが多く、このときは、突然の頭痛、嘔吐(おうと)、意識障害、からだの片側のまひ、失語症(しつごしょう)(コラム「失語症とは」)などが現われます。また、けいれん発作がおこり、精密検査で脳動静脈奇形が発見されることもあります。
 これらの発作は、20~40歳代におこることが多いものです。
[原因]
 先天性の血管の異常です。胎生期(たいせいき)の脳の毛細血管の発生のしかたに異常があるため、動脈と静脈とをつなぐ異常血管が発生するのです。
[検査と診断]
 CTやMRIで脳の中を撮影すると、出血や異常血管が映ります。
 より詳しい状況を知るためには、脳の動脈に造影剤を注入してX線撮影する脳血管撮影や、MRIによる脳血管撮影が必要です。これによって、異常血管のかたまりや、動脈から静脈へ直接、血液が流れるようすを把握することができます。けいれんをおこした場合は、脳波検査も必要です。
[治療]
 破裂して出血をおこしたときや、薬でけいれんを抑えられないときは、手術をして異常血管を摘出します。最近では、異常血管を人工的につまらせる血管内手術、放射線を照射して異常血管を破壊するガンマナイフなどを組み合わせて、治療が行なわれます。
[日常生活の注意]
 治療で異常血管が消え、手や足に力が入らないなどの神経脱落症状(しんけいだつらくしょうじょう)が現われなければ、1か月前後で退院でき、通学、通勤などはふつうにできるようになります。しかし、長期間の抗けいれん薬の服用が必要なことが多く、この場合は、自動車の運転などはひかえなければなりません。
 からだの片側のまひ、失語症などの後遺症がおこった場合は、数か月間のリハビリテーションが必要です。
 脳動静脈奇形が残った場合は、激しい運動の禁止などの日常生活の注意が必要になります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「脳動静脈奇形」の意味・わかりやすい解説

脳動静脈奇形
のうどうじょうみゃくきけい
intracranial arteriovenous malformation

毛細血管の先天的な発育障害によって,脳の動脈と静脈が直接連絡する状態。動脈血が壁の弱い静脈中に直接入って脈圧が加わるため,血流量が増加し,血管腔が次第に拡大し,管も延長するため,蛇行したり,からみ合った糸玉のような塊をつくったりする。加齢とともに増大する傾向があり,多くは青少年期に出血,けいれん,手足の麻痺,頭痛などの症状が現れて,脳血管撮影,CTスキャンなどで発見される。手術による摘出が不可能なものもあり,これらに対して血管腔を人工的に閉塞させる方法が研究されている。

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世界大百科事典(旧版)内の脳動静脈奇形の言及

【くも膜下出血(蜘蛛膜下出血)】より

…くも膜下腔は髄液で満たされているので,この場合出血は局所にとどまらず,脳・脊髄の髄液全体に拡散する。くも膜下出血の原因としては,頭部外傷,脳動脈瘤,脳動静脈奇形などがある。全脳血管障害の8%をくも膜下出血が占め,その約70%が脳動脈瘤の破裂によるものである。…

※「脳動静脈奇形」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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