西洋紀聞(読み)せいようきぶん

精選版 日本国語大辞典 「西洋紀聞」の意味・読み・例文・類語

せいようきぶん セイヤウ‥【西洋紀聞】

江戸中期の外国地誌。三巻。新井白石著。正徳五年(一七一五)の識語があるが、完成は白石の最晩年とされる。伝道のため屋久島に潜入したイタリアのイエズス会宣教師シドッチを訊問した時の質疑応答の記録。西洋諸国の歴史、地理風俗天主教キリスト教)に関する記述から成る。秘本とされ、公刊されたのは明治一五年(一八八二)だが、寛政五年(一七九三幕命により献上した後は、知識人の間に広まっていた。

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デジタル大辞泉 「西洋紀聞」の意味・読み・例文・類語

せいようきぶん〔セイヤウキブン〕【西洋紀聞】

江戸中期の外国地誌。3巻。新井白石著。正徳5年(1715)ころ成立。屋久島に潜入したイタリア人宣教師シドッチを尋問したときの記録をまとめたもの。西洋諸国の歴史・地理・風俗とキリスト教の大意などを記述。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「西洋紀聞」の意味・わかりやすい解説

西洋紀聞
せいようきぶん

新井白石(あらいはくせき)の著書。1708年(宝永5)に屋久島(鹿児島県)に潜入したローマの使節、イタリア人宣教師ジョバンニ・バッティスタ・シドッチを取り調べた際、聴取したヨーロッパをはじめ海外事情とキリスト教関係事項とを書き記したもの。世界地理の記述では『采覧異言(さいらんいげん)』のほうが詳しく体系化もされているが、国文で平易に書き、キリスト教教義をも詳細に書いている(3巻のうちの下巻)点が本書の特色。もちろん儒教道徳と合理主義の立場から、キリスト教には厳しい批判を加えている。また同じ事項を、江戸にやってきたオランダ商館長らに尋ねたことから、偏見を免れたところも少なくない。スペイン継承戦争(1701~14)や北方戦争(1700~21)の記事などでも、オランダ人から聞いて不足を補っている。『采覧異言』と同じく最晩年まで増訂の筆が加えられたことが、みごとな筆跡をもつ現存自筆本によって知られる。本書は新井家に極秘のうちに伝えられたため知る人も少なく、1793年(寛政5)幕府の命令で献上されてから、やっと知識人の間でわりあい知られるようになった。キリシタン批判書であり「和魂洋才(わこんようさい)」的考え方(器械など物質面では西洋が優れ、道徳など精神面では東洋、日本が優れているとする)をしている点で、鎖国制下における本書の思想史的役割は大きく、明治以前すでにアメリカ人宣教師によって英訳もされた。自筆本は国立公文書館蔵。『新井白石全集 第4巻』、『新訂西洋紀聞』(平凡社・東洋文庫)、『日本思想大系 35 新井白石』、岩波文庫などに所収。

[宮崎道生]

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改訂新版 世界大百科事典 「西洋紀聞」の意味・わかりやすい解説

西洋紀聞 (せいようきぶん)

新井白石著。3巻。1708年(宝永5)日本にキリスト教を復活させようと屋久島に潜入して捕らえられたイタリア人宣教師シドッチを,白石が幕命により翌年江戸小石川切支丹屋敷において訊問し,聴取した内容にオランダ人への質疑を加えてまとめた記述。上巻はシドッチの潜入,取調べの様子から獄死に至る経過,中巻は五大州諸国の事情・地理など,下巻は渡来の目的とキリスト教についてのシドッチの解説と白石の解釈・批判を記す。成立は上巻末の日付によれば1715年(正徳5)であるが,白石のごく晩年かとの説もある。本書は新井家に秘蔵され,93年(寛政5)白石の玄孫成美が幕府に献上し,1882年大槻文彦がはじめて刊行した。白石はシドッチの訊問を通じ,キリスト教布教について領土的野心をいだくものではないと認めるに至った。また西洋の学術は形而下の物質的な面にはすぐれるが,思想や道徳の面では無稽であるとの認識をもったが,これはその後の多くの日本知識人の西洋文明観の先駆といいうる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「西洋紀聞」の意味・わかりやすい解説

西洋紀聞
せいようきぶん

新井白石著。上中下3巻。宝永5 (1708) 年屋久島に潜入してきたイタリア人宣教師 G.シドッチをキリシタン牢屋敷で4回にわたり訊問した結果を記したもので,上巻は将軍のシドッチ訊問の命令についてのいきさつと取調べの状況を記し,中巻は五大州の総論,海外諸国の政治,風俗,地理,歴史などの説明,下巻はシドッチ来国の詳しい説明から,デウス,キリスト,ローマ教会,教皇庁の職制などの解説と,終りに白石自身の天主教批判を載せている。成立年代は正徳5 (15) 年頃とみられるが,その性質上公にされず,明治になってから初めて刊行された。

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百科事典マイペディア 「西洋紀聞」の意味・わかりやすい解説

西洋紀聞【せいようきぶん】

新井白石の欧米事情取調書。3巻。1709年イタリアの宣教師シドッチを尋問し,その結果をまとめたもの。1715年以前に成立した。尋問の詳細,海外諸国の地理・歴史,問答中の雑話,天主教(キリスト教)の大意とその批判を含む。性質上公開はされず,刊行は1882年。白石は西洋の学術は物質的な面では優れているが,思想・道徳の面では無稽(むけい)との認識を持ったが,その後の日本知識人の西洋文明観の先駆といえる。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「西洋紀聞」の解説

西洋紀聞
せいようきぶん

西洋事情書。3巻。新井白石著。上巻末の識語によると1715年(正徳5)成立。白石の晩年とする説もある。1708年(宝永5)屋久島に潜入したイタリア人宣教師シドッティの訊問時に得た知識をもとに,江戸参府のオランダ人からの聴取内容を加味してまとめあげた。上巻はシドッティ渡来の事情と訊問から獄死に至る経緯を記す。中巻はシドッティが語った五大州の地理・歴史・風俗・物産および国内事情,下巻はキリスト教の教義と布教についてのシドッティの解説とそれへの白石の批判を記す。鎖国下の日本の海外知識受容の基本書。「岩波文庫」「新井白石全集」「日本思想大系」所収。

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旺文社日本史事典 三訂版 「西洋紀聞」の解説

西洋紀聞
せいようきぶん

江戸中期,新井白石の著した西洋研究書
1715年成立。3巻。大隅国(鹿児島県)屋久島に潜入したイタリア人宣教師シドッチを尋問して得た西洋の地理・風俗や,キリスト教の大意とその批判をまとめたもので,初め極秘に伝えられたがのち普及し,洋学勃興の端緒を開いた。

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世界大百科事典(旧版)内の西洋紀聞の言及

【シドッチ】より

…屋久島に単身上陸したが直ちに捕らえられ,長崎を経て江戸へ送られ,小石川切支丹屋敷に幽閉され5年後に没した。その間,新井白石はシドッチを尋問し,彼から得た世界情勢,天文,地理などの情報をもとに《西洋紀聞》《采覧異言(さいらんいげん)》などを執筆した。これらは鎖国下の世界知識の源となり,洋学の基となった。…

※「西洋紀聞」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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