護符(読み)ごふ

精選版 日本国語大辞典 「護符」の意味・読み・例文・類語

ご‐ふ【護符】

〘名〙
① 神仏の加護がこもっているという札。紙片にまじないや神仏の名前、像などがしるしてあり、身につけたり、飲みこんだり、家の内外にはり付けたりする。お札(ふだ)。おまもり。まもり札。護身符護摩札。ごふう。
※禅竹伝書‐稲荷山参記(1467)「一七日可祈念由にて、彼天の御符を飲」
② (①のように肌身離さず持ち運ぶところから) 密書
日暮硯(1761頃)「唯今まで悪しかりし事、遠慮なしに護符に相認め、よく封じて差出すべし」

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デジタル大辞泉 「護符」の意味・読み・例文・類語

ご‐ふ【護符/御符】

神仏の名や形像、種子しゅじ、真言などを記した札。身につけたり壁にはったりして神仏の加護や除災を願う。お守り。ごふう。呪符じゅふ
[類語]お札お守り守り札お祓い

ご‐ふう【護符/御符】

ごふ(護符)」の音変化。
「お守よ、―よと、御恩をうけた祐弁様」〈浄・万年草

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改訂新版 世界大百科事典 「護符」の意味・わかりやすい解説

護符 (ごふ)

各種の災厄をよけ,幸運をもたらすと信じられている物体のことで,呪符ともいう。現代の日本でみられる例には,自動車や身につける交通安全や学業成就などの〈御守(おまもり)〉や家の柱・門などにはり付ける〈御札(おふだ)〉,客商売の家や店に置く〈招き猫〉などがある。災いを未然に避ける予防的な護符amuletと,すでに被っている災厄を除き福を招く積極的な呪符talismanを区別する学者もいるが,両者の区別は必ずしも明確でなく,両者の意味をともに含むものも多い。護符や呪符は,なんらかの形でほとんどすべての社会にみられる。護符(呪符)は神などの超自然的存在の力を形象化したものであるが,用いられる物体は,石や宝石,刃,矢じり,貝殻,植物の根・種子・枝・葉,動物の角・歯・爪・足,聖者の遺品,聖像,人形,聖地の砂や水,墓の破片,聖句や呪文の書かれた紙,貨幣などさまざまである。使われ方も,身につけるもの,家の中や門口に置くもの,服用するもの,あるいは川に流したり焼いたりするものなど,まちまちであって,これら多種多様なものを,文化の違いを問わず,護符としてひとまとめにすることにためらいを覚えるほどである。また,同じ呪力をもつものでも,邪術師が人を害するために用いるときは護符とは呼ばれず,邪術に対抗するために用いるときにはたとえ邪術師を逆に死に至らせるものであっても護符とみなされるというように,邪術の道具か護符かという区別は流動的であり,人々から正当性を社会的に承認されてはじめて護符となる。一方,正当な霊力をもつが,共同で拝む御神体のようなものも,あまり護符とは呼ばれず,個々の家や個人が自分たちのために持つものを護符という。つまり,広義の護符は,個人的に用いられ,正当であると認められた,超自然的な力を形象化した物体である。

 日本における狭い意味での護符は,神仏の名や像,経文,呪句などが書かれた紙片のことで,それらは仏教,道教,陰陽道の信仰によって正当性を得ている。しかし,それら以外でも,節分などに妖怪よけとして庭に掲げられた〈オニカゴ〉などと呼ばれる目の粗い籠や,死者の枕元に置かれる剃刀(かみそり)などの刃物も,季節の境や死といった特別な状況における護符の一種といえる。また,日本に限らず,護符が次々と新しく流行する社会も少なくない。邪術sorcery・妖術witchcraft信仰の盛んな西アフリカの諸地方では,これらに対抗する木の枝などで作られた護符を家に置くが,他の地域から伝来したとか,今まで知られていなかった神の顕現と称される新しい護符が次々に流行して商業的なものとなっている。たとえば,ガーナではコートジボアールから伝えられたと称する護符がはやる一方で,コートジボアールでガーナから持ってきたといわれる新しい護符が登場する。このように多種多様な護符の意味を理解するには,その社会で災厄と結びつけられる力や対処法に関する世界観の中で考えることが重要である。
呪術
執筆者:

現代中国語でも,御札・御守のことを護符hù fúまたは護身符というが,中国の文語では符の一字を用いるのが普通である。1949年に中華人民共和国が成立して以来,社会主義体制のもとで護符は呪術的な迷信として表向きには重んじられないが,台湾やホンコンをはじめ,各地の華僑社会で現に見られるように,もともと中国人は護符を大いに珍重し,その種類や形式もきわめて多い。魔よけ厄よけのため,あるいは幸運を招くために,彼らは護符を身につけたり,家屋や門にはったり,飲み下したりもする。また正月に用いられる門神像のように,邪鬼を退治する神としての鍾馗(しようき)をはじめ,さまざまな神々の像を印刷したものや,なかば図像化された神秘的な文字をしるしたものなどがあり,それらはたいせつに扱われるが,反対に,奇怪な姿の悪鬼や貧乏神を描いたものは,これを焼却することによって悪鬼退散と厄よけが祈願される。

 また中国では古来,邪気を払いのける力が桃に宿っていると信じられてきたので,厄よけの符も桃の木で作られることが多い。これを桃符(とうふ)といい,桃の木片に厄よけの文字を書いて門にかけたのが,門聯(もんれん)のはじまりだといわれる。しかし,紙に書かれた護符の中では,道教の本山ともいうべき張天師が発行した符は中華人民共和国以前の長江揚子江流域では最も威力があると信じられていた。張天師は革命によって台湾に亡命したが,台湾の道士たちは今でも護符を作るのに,精神を集中し,筆先に息を吹きかけて一気に書きあげている。このようにして書かなければ霊力がないとされるのである。このような符は,道士が民間の巫師や一般の人々に頒布するものであるが,道教ではもともと符をきわめて重視し,道士自身が師から秘法を伝授される儀式において,経典とともに符を授与された。これは符籙(ふろく)ともいわれ,道士にとっては免状にあたるもので,彼らはこれをたいせつに封印し,御守としてつねに身につける。

 符がこのような霊力をもつとされるのは,符に割符(わりふ)の意味があるのと関係するだろう。割符は権威あるものから特許された権利を保証するもので,もともと竹や木のふだを半分に割り,与えるものと与えられるものとが半分ずつをもって,必要なときに照合するものであった。両者がぴたりと一致するのを符合というが,符合によって符に備わっていた権威が明示される。天の神がだれかを天子にしようとするときに現すめでたいしるしとしての符瑞(ふずい)や符命(ふめい)には,天帝の権威の保証があるとされるのであり,そのような予言としての符讖(ふしん)あるいは讖緯(しんい)が流行していたころ,張陵が太上老君という道教の最高神からはじめて天師の位を授けられたとの伝承が生まれた。それは一種の符讖であって,その子孫たる張天師が授ける符籙や護符は,遠くはそのような権威の分与につながるであろう。
執筆者:

古来災難や病気は星宿(せいしゆく)や厄病神がもたらすものと考えられていたため,これらを遠ざけとりつかれないようにするために護符が用いられた。護符には道教,仏教,神道など古代より日本に伝わったり発生したすべての宗教の要素が習合(しゆうごう)して混在し,星宿神や厄病神中の最高神が好んで護符に用いられた。その中でも代表的なものが行厄神牛頭天王(ごずてんのう)や北斗星(天罡星(てんこうせい)),天刑星(てんけいせい)などであり,これらの神や仏に加えて道教に起源をもつ不可解な文字や数字,仏教に源をもつ梵字(種子(しゆじ))や真言(しんごん),名号,題目,経文の偈(げ)を書き加えたり神仏の絵姿を描きあらわしている。これらの護符を携行するのはもとより,住居の入口などにはり付けたり,病気のときには紙札を服用し諸神の力を借りて災厄神や病魔を防いだり追い払おうとした。
御札 →御守
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「護符」の意味・わかりやすい解説

護符
ごふ

ごふうともいう。御符(ごふ)、神符(しんぷ)、御守(おまも)り、御札(おふだ)などという。多く紙片に神仏の名号や形像、呪文(じゅもん)、経文、密教の種子(しゅじ)、真言、神使(しんし)とされている動物などを書いた御札をいう。これを所持しておれば神仏の加護が得られ、災禍を避けることができるという。家の中の神棚に掲げたり、家の入口に貼(は)ったりする。牛王(ごおう)宝印などのごとくこれを飲んだりもする。護符は本来神仏に参詣(さんけい)していただいてくるものであるが、だんだんと社人(しゃにん)、御師(おし)、僧侶(そうりょ)などが御札配りといって民家に配布することが行われるようになった。文字の知識が一般庶民の間に普及しなかった時代には呪文や呪符が、とくにその威力が信じられた。今日では、全国の社寺などで出されている護符は千差万別である。有名な社寺の護符はあらゆる災難を防止することができると信じられているが、一社寺でいろいろな効能をもった護符を出している例もある。東京の浅草観音(かんのん)には12通りの守り札があるという。特別の災難除(よ)けの守り札を若干あげると、遠州秋葉神社の火難除け、讃岐(さぬき)の金毘羅(こんぴら)さんの航海守護、水天宮の水難除け、安産守護等があり、また関東榛名山(はるなさん)の雹(ひょう)除けは、養蚕家の桑の雹害に対する警戒から信じられている。秩父(ちちぶ)の三峯(みつみね)神社の守り札は、お使いの狼(おおかみ)の絵がよく知られていて、家の戸口に貼る盗難除けの守り札として広く信じられている。東北地方の北部3県などでは、12月の御大師講(おだいしこう)に、角大師(つのだいし)という角のあるやせた真っ黒な坐像(ざぞう)の絵札を掲げる。農業の神として祀(まつ)られているようである。

 護符は本来神仏に対する信仰に基づくものであったろうが、時代が変わるにつれてこの世における災害も新たに発生するようになった。その代表的なものは交通安全に対する護符である。電車や自動車などに交通安全の護符をみかけるようになった。また神仏の守護を求める信仰から離れて、鎮西八郎為朝(ちんぜいはちろうためとも)御宿の札を出して風邪(かぜ)の神を退散させようとする呪符(じゅふ)と称すべきものが行われるようになった。

[大藤時彦]

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百科事典マイペディア 「護符」の意味・わかりやすい解説

護符【ごふ】

災厄を防ぐ神秘的な力があるとされる印標。聖句や宝印(牛王(ごおう)宝印)のほか動物・植物・鉱物の小物体を用い,秘符,呪(じゅ)符,霊符ともいう。日本では陰陽(おんみょう)師,仏僧,後には神職が作製配付した。多くは紙や板片に神名や呪文を記すのでお守札,お札,神札といい,柱や壁にはり,また神棚に供える。お守りは護符と同義だが,特に小型でお守袋などに入れ肌身(はだみ)につけるもので,昔竹筒に入れ両端はふたをし紐(ひも)をつけた筒守,首にかける懸守(かけまもり),幼児の背に結びつける背守などがある。護符には急々如律令などの不可解な呪文が多く,また角大師(つのだいし),オオカミの姿の大口真神(おおくちのまがみ)などの怪奇な画像が描かれた。
→関連項目犬張子邪視蘇民将来フェティシズム

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「護符」の意味・わかりやすい解説

護符
ごふ
amulet

将来生じるかもしれない災厄を予防するために,呪力を帯びたものとして身に着けられる小さな物。ひとたび呪力が与えられれば,普段は祈願されたり,特別視されたりすることはほとんどなく,したがってその働きは自動的であるので,しばしば呪符と区別されることがあるが,現実にはそれほど厳密な差異はみられない。先史時代から現在まですべての民族にみられるもので,爪,髪,骨,金,石,布,毛皮,紙などが護符としてよく用いられる。

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普及版 字通 「護符」の読み・字形・画数・意味

【護符】ごふ

お守り。

字通「護」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の護符の言及

【御札】より

…神符(《運歩色葉集》),御守(《神道名目類聚抄》),守札,札守などとも呼ばれる。護符の一種。《神道名目類聚抄》に〈御札ハ某社ノ神号守護ノ由ヲ書ス〉とあるように,木または紙に各社寺の神名,仏名あるいは本地仏の種子(しゆじ)や図などを筆書または印刷し,これを配布した。…

【邪視】より

…また家畜や作物もしばしば被害を受ける。邪視を防ぐ護符もさまざまある。たとえば中東ではヒツジの目,コヤスガイ(子安貝),鏡などが用いられる。…

【マスコット】より

…身近に置いたり身につけていれば幸運をもたらすと信じられているものをいう。この意味で護符の多くがマスコットと呼ばれうるが,物品に限らず人物や動物をも指して用いられるところに護符との違いがある。英語圏には,フランスの作曲家オードランEdmond Audran(1840‐1901)のオペラ《La Mascotte》の公演(1880)を機に知られるところとなった語で,プロバンス語のmasco(〈魔女〉〈妖術使い〉の意)に由来するという。…

【山】より

…山それぞれに入山の日が決まっており,もし日を取り違えると山神のたたりがあると考えられた。また,あらかじめ数日間の斎戒を行ったうえ,〈入山符〉と呼ばれる護符を帯につけ,鏡を背にかけて入山しなければならなかった。山神の妖怪も鏡に姿をうつされると正体を現し,危害を加えることができないと信ぜられたからである。…

【厭勝銭】より

…中国において,流通を目的としてではなく,魔よけ・まじないを目的として作られた私銭をいう。銭の形をした護符と考えればよい。俗に〈えんしょうせん〉と呼び慣わしている。…

※「護符」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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