さまざまな事情で親が育てられない乳幼児を匿名でも受け入れる施設。日本では、ドイツでの例を参考にした熊本市の慈恵病院が「こうのとりのゆりかご」という名称で導入している。外側から扉を開けて保育室に子どもが預けられるとブザーが鳴り、職員が駆け付けて保護する仕組み。2007年の運用開始から23年度までに計179人が預けられた。親らが刑法の保護責任者遺棄罪などの法令に触れないよう、児童相談所や警察と連携して運営している。東京の医療機関でも開設に向けた動きがある。
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諸事情により親が養育できない赤ちゃん(新生児)を匿名で預かる施設の呼称。国内で初めて認可されたのは、熊本市西区にある慈恵病院が設置した施設「こうのとりのゆりかご」である。2006年(平成18)12月、慈恵病院は熊本市に赤ちゃんポストの設置を申請し、厚生労働省が「(設置を)認めない合理的な理由はない」と容認の見解を示したことから、熊本市は2007年4月設置を許可、慈恵病院は5月から「こうのとりのゆりかご」の運用を開始した。
「こうのとりのゆりかご」は、病院の外壁に扉(横60センチメートル、高さ50センチメートル)を設置し、扉の中(建物内部)に新生児収容のため保温した保育器を置く。扉が開けられるとセンサーが作動してブザーが鳴り、待機している助産師・看護師らがモニターテレビで新生児を確認したのち保育器に駆けつけ保護し、医師が健康チェックをする仕組みとなっている。親の匿名性確保のため外側に監視カメラなどは設置しないが、考え直したときに連絡をすることができるよう、保育器の中に病院の相談窓口の連絡先などを明記した親宛(あ)ての手紙を置く。病院側が新生児を保護したのち、警察署、児童相談所、市役所などに連絡すると、戸籍法に基づき市長が新生児の氏名をつけ戸籍を作成する。その後、新生児は児童相談所から乳児院へ移り2歳まで育てられ、以降は児童養護施設や里親のもとで養育されることとなる。赤ちゃんポストについては「子捨ての助長につながる」などの批判もあるが、病院側は「こうのとりのゆりかご」はあくまでも緊急避難的な措置であるとし、利用前の相談の重要性を訴え、院内の相談窓口では24時間体制で相談を受け付けている。
同様の制度は、中世ヨーロッパの修道院にも存在していたが、慈恵病院が参考にしたのは、2000年にドイツの市民団体が開設した「ベビークラッペBaby Klappe」といわれる施設である(Klappeは、郵便箱のふた、ベッドなどの意味をもつドイツ語)。日本でも、1986年(昭和61)群馬県に「天使の宿」という施設が設置されたが、活動はボランティアが中心であり、預ける場所で死亡した乳児がみつかったことなどから1992年に廃止された。
[編集部]
(原田英美 ライター / 2011年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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