追放(読み)ついほう

精選版 日本国語大辞典 「追放」の意味・読み・例文・類語

つい‐ほう ‥ハウ【追放】

〘名〙
① 追い払うこと。追い出すこと。追逐。追却。
御堂関白記‐寛弘八年(1011)五月一一日「上女方参中宮御、為女方致無礼云々、依是上女方等被追放者」
※今昔(1120頃か)二九「人々有て此を見て、云ふ甲斐无し。速に被追放(ついはうせられ)よと云けれども」 〔夏侯湛‐繳弾賦〕
② 罪人を一定の地域外に追いはらう刑。
(イ) 中世では流刑・斬刑とともに主要な刑罰で、罪人をその居住地、荘園、領国などから追い払った。追却。
※三代格‐一九・昌泰三年(900)四月二五日「若有犯者、主人解却見任、其無官者追放本所、永不叙用
(ロ) 江戸時代、幕府・諸藩の追放刑。罪の軽重に応じてその範囲が具体的に規定された。御構い。
浄瑠璃・八百屋お七(1731頃か)上「大それた事仕出して此比追放せられたとも」
③ 特に、寺社で宗門から追い払うこと。門徒を放つこと。
※石山本願寺日記‐証如上人日記・天文五年(1536)閏一〇月五日「丹下方へ麻生をくだし、筑前追放之儀申下候」
④ 召しあげること。没収。
※浄瑠璃・日本両武将始(1684‐88頃か)一「兄弟のため付をかるるじれうをついはうせんとは」
⑤ 在留すると危険と思われる自国人外国人、また正規によらない入国者に対して国外退去を命じること。
社会百面相(1902)〈内田魯庵〉電影「在韓日本人追放を公使館に訓令する」
※帰郷(1948)〈大仏次郎〉遅日「新聞にゐた友人が追放にかかって」

おっ‐ぱな・す【追放】

〘他サ五(四)〙 (「おっ」は接頭語)
① 追いやる。追い払う。
※天草本平家(1592)一「イチイチニ カタアシヲ キッテ voppanaitareba(ヲッパナイタレバ)、スナワチ シスル モノモ アリ
断橋(1911)〈岩野泡鳴〉六「相当に原稿を書かせて置いて、人をおっ放す様なことはすまい」
② ほおっておく。
※いつか汽笛を鳴らして(1972)〈畑山博〉三「河上さん、そのままおっ放しておいていいんよ。その子、ふだん手がつけられないわがままやろうなんだから」

おい‐はな・つ おひ‥【追放】

〘他タ四〙
① 追って他にやる。追い出す。追放する。おいはなす。
散木奇歌集(1128頃)春「山かげにやせさらぼへるいぬ桜おひはなたれてひく人もなし」
② 放して自由にする。おいはなす。
日葡辞書(1603‐04)「ケダモノヲ ヤマニ voifanatçu(ヲイハナツ)

おい‐はな・す おひ‥【追放】

〘他サ四〙
太平記(14C後)二六「石を背に負せて楚山にこそ追放(ヲヒハナサ)れけれ」
② =おいはなつ(追放)②〔日葡辞書(1603‐04)〕

おっ‐ぱな・つ【追放】

〘他タ四〙 (「おっ」は接頭語) =おっぱなす(追放)
源平盛衰記(14C前)二三「故殿の御菩提の御追善(ごついぜん)ともならせ給ひなん、追放(ヲッパナ)ち候はばや」

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デジタル大辞泉 「追放」の意味・読み・例文・類語

つい‐ほう〔‐ハウ〕【追放】

[名](スル)
不要または有害なものとして、その社会から追い払うこと。「悪書を追放する」
危険人物または不法入国者を国外に退去させること。
公職・教職などからしりぞけ、それらへの就職を禁止すること。パージ
中世・近世、罰として特定の地域から追い払い、立ち入りを禁じたこと。→重追放中追放軽追放江戸払い
[補説]作品名別項。→追放
[類語]駆逐駆除撃退放逐掃討追い出す追い立てる追い払う追っ払うたたき出すはじき出すつまみ出す追い落とす打ち払う追い散らす蹴散らす駆り立てる退ける追い返すパージレッドパージ

ついほう【追放】[作品名]

原題、〈フランスExilサンジョンペルスの詩。米国に亡命した筆者が1942年に発表した作品。別邦題「流謫るたく」。

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改訂新版 世界大百科事典 「追放」の意味・わかりやすい解説

追放 (ついほう)

法的用語としては,犯罪者を一定の地域から放逐する刑罰で,世界各地に古くからあった。日本では中世には追却とも称し,鎌倉・室町両幕府法にみえるほか,荘園領主の刑罰としても一般的であった。戦国期にも追放刑が多用され,江戸時代に受け継がれて幕府法,藩法,その他旗本など領主法上の制度として定着した。

 江戸幕府の《公事方御定書(くじかたおさだめがき)》は6段階の追放刑,すなわち重追放(おもきついほう),中(なかの)追放,軽(かるき)追放,江戸十里四方追放,江戸払(えどばらい),所払(ところばらい)を掲げ,各刑について御構場所(おかまいばしよ)(立入禁止の地域)を定めている。重追放は武蔵,相模,上野,下野,安房,上総,下総,常陸,山城,摂津,和泉,大和,肥前,東海道筋,木曾路筋,甲斐,駿河を,中追放は武蔵,山城,摂津,和泉,大和,肥前,東海道筋,木曾路筋,下野,日光道中,甲斐,駿河を,軽追放は江戸10里四方,京,大坂,東海道筋,日光,日光道中を,それぞれ住居の国および犯行の国とあわせ御構場所とする。ただし百姓,町人の場合,重・中・軽の3追放いずれも,江戸10里四方および住居の国,犯行の国のみから追放するものとし,付加刑たる闕所(けつしよ)(財産没収)の範囲だけが異なっていた。江戸十里四方追放は日本橋から四方5里のうちを,江戸払は品川,板橋,千住,四谷大木戸のうちおよび本所,深川を,それぞれ在方(ざいかた)の者については居村とともに構い,さらに所払は居町,居村からの追放であった。御構場所に立ち入った際には,刑を一等重くして追放する。刑期の定めはなく,原則として無期であるが,実際上は(しや)によって刑の量定がなされた。被追放者は従来の生活圏から切り離され,無宿となってあるいは街道筋を徘徊し,あるいは都市に流れて犯罪を重ねた。江戸時代後期にはこのような弊害が表面化し,追放刑の刑罰としての機能は著しく損われた。幕府はたびたび追放刑の制限をはかり,また人足寄場(にんそくよせば)を設けてその弊害に対処しようとしたが,徹底しなかった。
遠島 →(かまい) →流刑 →流罪
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「追放」の意味・わかりやすい解説

追放
ついほう

共同体や組織などにおいて、その内部秩序や統制を維持・強化するために、特定の者を放逐したり、資格の剥奪(はくだつ)、活動の制限を行ったりすること。追放には、大きく分けて、共同体や組織体などの当該社会・団体の全体の意志に基づくものと、当該社会・団体の権力者や統制権者によるものとがある。前者には、ギリシアのオストラキスモス(陶片追放)や日本の村八分などの共同社会からの追放と、除名や粛清などの組織からの追放がある。後者では、流刑などの刑罰としての追放、外国人の強制退去などの国外追放、破門や罷免などによる行政組織や特定関係からの追放が区別される。終戦直後のわが国でなされた公職追放やレッド・パージが、これである。

[五十嵐仁]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「追放」の意味・わかりやすい解説

追放
ついほう

ある特定の共同体,団体,結社が秩序維持を目的として,組織の規律,規範の違反者を組織外に排除すること。例としては,古代ポリスの陶片追放 (オストラシズム ) ,カトリックにおける教皇による信徒の破門,日本の村八分,政党の除名あるいは粛清,公職追放,第2次世界大戦後のレッド・パージなどをあげることができる。この追放による秩序維持という支配集団の目的が達成されれば,追放を受けた者の追放除外,名誉回復,再度入信などが行われる場合がある。戦後の日本では,占領軍の指令に基づいて戦争指導者や軍国主義者が公私の職から追放された。追放者は 20万名に達したが,対日講和条約発効時までにはそのほとんどが解除された。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「追放」の解説

追放
ついほう

追却(ついきゃく)・追出(おいだし)・擯出(ひんじゅつ)とも。ある集団から外部に放逐すること。非行者に対する制裁であるとともに,集団秩序回復のための措置でもあった。流罪との違いは,そこから追放するだけで配所を定めない点にある。中世では,主従関係にもとづく追却や,村落内部の秩序維持のための非行者追放など,追放刑に相当する処分が広く行われた。近世でも刑法のなかで重要な位置を占め,所払(ところばらい)や軽・中・重追放などが定められた。

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普及版 字通 「追放」の読み・字形・画数・意味

【追放】ついほう

放逐する。

字通「追」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の追放の言及

【闕所】より

…私的に所持する財産を官没するもので,公的な支配権の召上げは改易(かいえき)と呼び区別した。《公事方御定書》によれば,鋸挽(のこぎりびき),磔(はりつけ),獄門,火罪,斬罪,死罪,遠島および重追放の諸刑には田畑,家屋敷,家財の取上げが,中追放には田畑,家屋敷の取り上げが,軽追放には田畑の取上げがそれぞれ付加される。これを欠所と称し,武士,庶民を通じて適用したが,扶持人の軽追放においてはとくに家屋敷のみの欠所とする。…

【人足寄場】より

…仕事に出精し心底が改まったと認められたものは,商売道具を与えられるなどして出所を許される一方,逃亡その他の規律違反は死罪を含む厳罰に処せられた。1820年(文政3)には,無罪の無宿のほか,追放刑の宣告を受けた有罪者を追放せずにここに入所させることが始まり,寄場は事実上,自由刑(懲役刑)を行う場所としての性格をもつようになった。ただしこの場合,寄場から出所後も御構場所(おかまいばしよ)への立入りは禁止されたから,追放刑の執行は免除されるのではなく延期されたにすぎず,寄場は法的には最後まで保安処分の施設であった。…

【犯罪人引渡し】より

…逃亡とは,外国で犯罪を犯した者が逃亡してきたことを意味するのではなく,本来の裁判権から逃亡していることをいう。犯罪人引渡しは,追放(退去強制)とともに強制的出国の一方法である。追放が行政行為としてなされるのに対し,引渡しは,犯罪抑圧のための国際協力としてなされる刑事国際司法共助の一種である(国際共助)。…

【無宿】より

…江戸時代,百姓・町人などで人別帳から除かれ(帳外(ちようはずれ)という),居所を定めず放浪し,無頼を働く者を無宿といい,やくざ仲間や犯罪人などは生国を冠して,上州無宿何某などと呼んだ。その原因は多様であるが,貧窮による欠落(かけおち)や家出のほか,親から久離勘当されたり,博打(ばくち),窃盗,刃傷(にんじよう),失火などの罪によって軽追放,所払(ところばらい)などの刑に処せられた場合などがある。無宿には大別して,無宿野非人(のひにん)と呼ばれる乞食,物もらいのような存在と,もうひとつは長脇差を差した浪人体の者や博徒的存在の者があった。…

【村八分】より

…中世の惣村((そう))の掟にも制裁に関する条項がみられ,近世の村法(そんぽう)や明治以降の村規約の中にも多く発見できる。 制裁の種類としては,罪の軽い順で罰金,絶交,追放という三つがある。もっとも広範に現在なお行われているのは罰金であるが,その歴史は古い。…

【流刑】より

…刑罰の中でも最も古い起源をもつもので,古典に〈放〉〈逐〉〈殛(きよく)〉などとも記される。追放であって,共同体との結びつきを絶たれ,生命は全うしがたい。かのゲルマンの〈平和喪失〉といわれるのもこれと同質である。…

※「追放」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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