退化(読み)たいか

精選版 日本国語大辞典 「退化」の意味・読み・例文・類語

たい‐か ‥クヮ【退化】

〘名〙
個体発生系統発生の過程で、生物体の器官・組織などが縮小・衰退すること。
※筆まかせ(1884‐92)〈正岡子規〉一「また反対に人間が猿に退化せぬこともなかるべし」
② 一旦進歩していたものが、またもとのおくれた状態にもどること。
※それから(1909)〈夏目漱石〉二「進化裏面を見ると、何時でも退化(タイクヮ)であるのは、古今を通じて悲しむべき現象だが」
[語誌]明治時代に「進化」の対義語として作られた。「進化」は、最初から訳語として西周によって考案されたが、「退化」は、まず「進化」の対義語として使用されて、その後、degeneration の訳語として採用された。

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デジタル大辞泉 「退化」の意味・読み・例文・類語

たい‐か〔‐クワ〕【退化】

[名](スル)
進歩が止まって以前の状態に逆戻りすること。また、衰えたり規模が小さくなったりすること。「記憶力退化する」⇔進化
生物の個体発生または系統発生の過程において、器官・組織などが縮小・衰退、あるいは消失すること。人間の虫垂尾骨などはその例。退行
[類語]退歩悪化後戻り冷えるこうずる進行昂進こうしん激化する

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「退化」の意味・わかりやすい解説

退化
たいか

生物の全体の体制や器官の単純化、縮小、消失をいう。一般には系統発生(進化)の過程での退行的変化について用いられる。この場合、退化も進化の一環として理解すべきであるとの観点から、退行的進化ということも多い。個体発生の過程での退行的変化、たとえばオタマジャクシからカエルへの変態に際して尾が消失することなどについても退化ということばを用いることがある。進化における退化の例としては、体内寄生虫消化器官や感覚器官の退化、洞穴など暗黒条件で暮らす動物の目や体表色素の退化などがよく知られている。これらの例でわかるように、一般に、新しい環境のもとで不用になった器官や、それが存在するとかえって不都合になる器官について退化がみられる。

 しかし、暗黒条件下で目は不用に違いないが、かならずしもあって不都合というわけではなく、退行的進化の説明は、体制の複雑化の説明より困難なことが多い。ただ、生物が自分自身をつくりあげるために使うことのできる物質やエネルギーに限度があれば、その範囲内で効率のよい体をつくる必要があり、不用な器官を残しておくことは不利になるということがあるかもしれない。寄生虫で生殖器官が異常に発達していることも、消化器官などの退化によって可能なのだともいえる。全体としての適応を高めるために、体の小部分の退化がおこるということも多くみられる。進化に伴いウマの足指が減少することは一つの例である。これは、指としてみれば明らかに退化であるが、肢(あし)全体としてみれば、走ることにより適応したものになっている。部分的な退化はむしろ普通であって、それなくしては、全体としての適応的進化もありえないとさえいえよう。

[上田哲行]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「退化」の意味・わかりやすい解説

退化
たいか
degeneration

生物の発生において,形態が小型になったり,単純化したり,活動力が減退したりする退行的変化をいう。個体発生ではおたまじゃくしの尾の退化などは,正常の発生過程の一部分として経過するものであるが,病的な器官の萎縮,消失もある。系統発生では洞窟動物の眼の退化,ウマの進化につれて足指が1本のみを残して次第に退化していった例などがあげられ,これらの場合,退化も,進化的変化の一部とみなされる。痕跡器官は退化の結果生じたものである。

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世界大百科事典(旧版)内の退化の言及

【痕跡器官】より

…生物体において,進化または飼育栽培の過程で十分発育しなくなり,同時に機能を失って,なごりをとどめるだけとなった器官。ある器官が進化的に発達しつつあるものか,退化しつつあるものかは,類縁の近い他種の生物のもつ相同器官と対比することによって間接的に知ることができる。 成体において無用化している痕跡器官には,動物ではヒトの尾椎,盲腸の虫垂,耳を動かす筋肉,ウシの犬歯,ウマの第3指以外の中足骨,モグラや洞穴性両生類の目,ウズラの前肢第1指のつめなど,植物ではキク科植物の花の中心部の花弁,雌雄異株植物の雄花にあるめしべなど,さまざまな次元で多数の例がある。…

【進化】より

…進歩を何を尺度として測るかは問題だが,実際には進歩的進化もあるし進歩的でない進化もある。例えば生物ではさまざまな器官を退化させて寄生虫になってきた進化があった。 この世界とその構成員については,古代から不変観と変化観の対立があり,後者には輪廻観と進化観がこれも古代からあった。…

※「退化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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