長与善郎(読み)ながよよしろう

精選版 日本国語大辞典 「長与善郎」の意味・読み・例文・類語

ながよ‐よしろう【長与善郎】

小説家戯曲家。東京出身。東京帝大英文科中退。専斎の末子。「白樺」同人。戯曲「項羽と劉邦」などにより人道主義的作家として認められる。「白樺」廃刊後は、武者小路実篤、志賀直哉らと「不二」を創刊し、独自の思想小説「竹沢先生と云ふ人」を連載した。著「青銅基督」「わが心の遍歴」など。明治二一~昭和三六年(一八八八‐一九六一

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デジタル大辞泉 「長与善郎」の意味・読み・例文・類語

ながよ‐よしろう〔‐よしラウ〕【長与善郎】

[1888~1961]小説家・劇作家。東京の生まれ。専斎の五男。「白樺」同人。個性の葛藤を描いた作品が多い。小説「青銅の基督」「竹沢先生と云ふ人」、戯曲「項羽こうう劉邦りゅうほう」、自伝「わが心の遍歴」など。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「長与善郎」の意味・わかりやすい解説

長与善郎
ながよよしろう
(1888―1961)

小説家、劇作家。明治21年8月6日、東京・麻布(あざぶ)に生まれる。医学者専斎(せんさい)の五男で末子。又郎の弟。東京帝国大学英文科中退。学習院高等科のころから思想書・文学書に接し、武者小路実篤(むしゃのこうじさねあつ)の勧めで1911年(明治44)『白樺(しらかば)』同人に加わり、小説・戯曲・感想を発表。文学に芸術性より思想性を多く求める傾向から、実篤にもっとも近づき、また岸田劉生(りゅうせい)、千家元麿(せんげもとまろ)とも親交を結ぶ。恋愛体験に即した『盲目の川』(1914)、結婚の経緯を描いた『彼等の運命』(1915~16)などの自伝小説、英雄の劇的運命を扱った長編戯曲『項羽(こうう)と劉邦(りゅうほう)』(1916~17)により文壇・劇壇に注目され、『陸奥(むつ)直二郎』(1918)、『青銅の基督(キリスト)』(1923)などの諸作を書くほか、白樺演劇社(1919)の活動に携わったりしたが、『白樺』廃刊後『不二(ふじ)』を創刊(1924)、同誌に思想小説『竹沢先生と云(い)ふ人』(1924~25)を連載、広く世に迎えられた。大正末、病を得、数年創作から離れた間に『論語』『老子』などを再読、さらに満鉄嘱託として満州(中国東北部)、中国に旅行、東洋の思想・美術への関心を深め、『大帝康煕(こうき)』『文化の問題』(ともに1938)、『東洋の道と美』(1943)、『東洋芸術の諸相』(1944)などを刊行

 第二次世界大戦後は日本の文化再建を目ざす知識人の集まりである同心会・生成(せいせい)会の一員となり文化立国に努めるとともに、『野性の誘惑』(1947)、『その夜』(1948~51)、『押し花帖(ちょう)』(1954)などの長短編、自伝『わが心の遍歴』(1957~59)に旺盛(おうせい)な筆力を示した。1948年(昭和23)芸術院会員。昭和36年10月29日没。

[遠藤 祐]

『『筑摩現代文学大系23 長与善郎他集』(1977・筑摩書房)』『田中栄一著『長与善郎の思想と文学』(『日本文学研究資料叢書 大正の文学』所収・1981・有精堂出版)』

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改訂新版 世界大百科事典 「長与善郎」の意味・わかりやすい解説

長与善郎 (ながよよしろう)
生没年:1888-1961(明治21-昭和36)

小説家,劇作家,評論家。東京生れ。医学者長与専斎の五男。又郎は兄。学習院高等科をへて東大英文科中退。1911年《白樺》に参加。武者小路実篤に近い思想家的色彩の強い作家といえる。自らの失恋と恋愛結婚を描いた《盲目の川》(1914),《彼等の運命》(1915-16)の長編小説によって作家としての自己を確立し,次いで強烈な個性どうしの葛藤を描いた戯曲《項羽と劉邦》(1916-17)によって劇作家として認められ,人道主義作家として文壇で活躍する。その後,大正期後半の代表作としては短編小説《青銅の基督》(1923)と長編の教養小説《竹沢先生と云ふ人》(1924-25)がある。前者は,みごとなキリスト像をつくったがゆえに処刑される青年鋳物師の苦悩を描き,後者は,作者の東洋哲学風の人生観,自然観などを全面的に展開したものである。戦後には,戦時中の自己および他者のあり方を批判した《一夢想家の告白》(1946)や,上流の血縁の人々や友人たちとからませながら自らの精神史を描いた《わが心の遍歴》(1957-59)などがある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「長与善郎」の意味・わかりやすい解説

長与善郎
ながよよしろう

[生]1888.8.6. 東京
[没]1961.10.29. 東京
小説家,劇作家。長与専斎の子。 1913年東京大学中退。 11年『白樺』同人に参加。長編『盲目の川』 (1914) ,『彼等の運命』 (15~16) を書いたのち代表作の戯曲『項羽と劉邦』 (16~17) で英雄悲劇に真価を発揮。戯曲『夜の戯曲』 (20) ,小説『青銅の基督 (キリスト) 』 (23) などを経て,思想小説『竹沢先生と云ふ人』で東洋的心境に沈潜する調和的世界を完成。晩年の自伝的大作に『わが心の遍歴』 (57~59) がある。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「長与善郎」の解説

長与善郎 ながよ-よしろう

1888-1961 大正-昭和時代の小説家,劇作家。
明治21年8月6日生まれ。長与専斎の5男。明治44年「白樺(しらかば)」同人となる。戯曲「項羽と劉邦(りゅうほう)」,小説「青銅の基督(キリスト)」などで知られる。「白樺」廃刊後は「不二」を主宰した。昭和35年自伝「わが心の遍歴」で読売文学賞。芸術院会員。昭和36年10月29日死去。73歳。東京出身。東京帝大中退。筆名ははじめ平沢仲次。
【格言など】驕(おご)るものは心ではなく,小さな頭脳である(「ハートについて」)

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百科事典マイペディア 「長与善郎」の意味・わかりやすい解説

長与善郎【ながよよしろう】

小説家,劇作家。医学者長与専斎の子。東京生れ。東大英文科中退。雑誌《白樺》同人。長編《盲目の川》《彼等の運命》に続いて戯曲《項羽と劉邦》で認められ,運命的な悲劇を多く描いた。また,白樺派の論客として人道主義擁護の論陣を張った。《青銅の基督》《竹沢先生と云ふ人》のほか,自伝《わが心の遍歴》がある。

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