閉塞性動脈硬化症(読み)ヘイソクセイドウミャクコウカショウ(英語表記)Arteriosclerosis Obliterans

デジタル大辞泉 「閉塞性動脈硬化症」の意味・読み・例文・類語

へいそくせい‐どうみゃくこうかしょう〔‐ドウミヤクカウクワシヤウ〕【閉塞性動脈硬化症】

腹部大動脈・腸骨動脈・大腿だいたい動脈など四肢に血液を供給する血管で動脈硬化が進行し、血管が閉塞する病気。血流が不十分になるため、手足にしびれ・痛み・冷えを感じる。治療せずに放置すると、やがて歩行が困難になり、重症化すると手足に潰瘍かいようができ壊死えしすることもある。ASO(arteriosclerosis obliterans)。

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六訂版 家庭医学大全科 「閉塞性動脈硬化症」の解説

閉塞性動脈硬化症
へいそくせいどうみゃくこうかしょう
Arteriosclerosis obliterans
(お年寄りの病気)

高齢者における特徴

 近年は食生活などの生活習慣が欧米化し、それにより糖尿病脂質異常症(ししついじょうしょう)の増加、そして高齢化による動脈硬化性疾患が増加し、末梢性動脈疾患である閉塞性動脈硬化症についても、老年医学で取り組むべき重要な課題になっています。

 閉塞性動脈硬化症とは、動脈硬化が徐々に四肢に起こった状態をいいます。その多くは、腹部大動脈から大腿動脈までの範囲に発症します。閉塞性動脈硬化症をもつ患者さんの生命予後はよくなく、症状が重い場合の生存率は悪性新生物(がん)に匹敵する低さです。

 高齢者では加齢そのものが動脈硬化危険因子であり、心臓・脳の病変も考慮しながら、全身的な治療を進める必要があります。虚血性(きょけつせい)心疾患や慢性腎不全(じんふぜん)など多くの合併症を起こしている場合が多く、全身状態の悪化から積極的な血管再建術ができない場合も少なくありません。

 内科的、外科的なさまざまな治療ができない患者さんでは、下肢の切断を余儀なくされる場合もあります。下肢切断に伴う危険性や、切断後の著しい日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)の低下を考えると、早期からの適切な治療と管理が非常に重要です。

診断

 表7に重症度分類として有用なフォンテイン分類と、それに対応する治療法を示します。高齢者は複数の病気をもっていることが多いため、しびれ、冷感を訴える場合は糖尿病性神経障害、脳血管障害、整形外科的な病気(脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)坐骨(ざこつ)神経痛など)などを考慮に入れて原因を見分けます。

 その際、ドプラー聴診器による上・下肢血圧比(ABPI)測定が有用で、ABPI値が0.9以下の場合、血管造影検査で病変の検出感度は95%とされており、ABPI値の低下は診断には非常に重要です。ただし、透析(とうせき)患者など動脈硬化が進んでいる患者さんでは、動脈壁の石灰化のため、見かけ上高値を示したり、測定不能(動脈音が消えない)になる場合もあります。最近は、CTを用いたMDCTにより血管像を見ることも容易になってきています。

治療とケアのポイント

●フォンテイン分類Ⅰ、Ⅱ度

 この段階では、基本的には薬物治療が主体になります。まず、高血圧糖尿病、高コレステロール血症を適切な指導と薬剤で十分にコントロールします。とくに禁煙は絶対に守ってください。

 薬剤は、抗血小板薬の投与、抗血小板作用と血管拡張作用を併せもつプロスタグランジン製剤の投与が中心です。高血圧の患者さんでは、カルシウム拮抗薬アンジオテンシン変換酵素ACE)阻害薬、α(アルファ)遮断薬など下肢の血管拡張の効果も期待できる降圧薬を用いますが、末梢血管を収縮させるβ(ベータ)遮断薬は基本的に禁忌(きんき)で、やむをえない場合にはαβ遮断薬を用います。

 重度の間欠性跛行(かんけつせいはこう)があり、薬物治療が十分にできない患者さんや、日常の活動性の高い患者さんの場合は、血管形成術、外科的治療も検討します。間欠性跛行とは、歩くと脚が痛み、しばらく休むと痛みがなくなるという状態です。また、糖尿病の悪化、外傷、感染を契機に容易に虚血性潰瘍(きょけつせいかいよう)に陥ることがあるので注意してください。

●フォンテイン分類Ⅲ、Ⅳ度

 この段階の血行不良が進んだ重症虚血肢では、薬物治療を継続しながら積極的に血管内治療、バイパス手術を考慮します。

 重症虚血肢では、痛みのコントロールも極めて重要なポイントです。非ステロイド性抗炎症薬では効果がみられない場合は、麻薬や痛みの神経を遮断する硬膜外(こうまくがい)ブロックを行う場合もあります。血液循環が著しく低下した虚血部位が比較的末梢に限られる場合は、交感神経ブロックも有効です。

 しかし、血行再建術ができない時や非成功例で、その痛みが非常に強い場合は、下肢切断をせざるをえないのが現状です。TASCに掲載されている重症虚血肢治療のフローチャート図10に示します。

 現在の治療では治りにくい重症虚血肢の患者さんに対しては、血管新生因子を用いた閉塞性動脈硬化症に対する多くの遺伝子治療(再生治療)が、すでに欧米を中心に臨床治験として実施されています。

 患部血管付近への内皮細胞増殖因子VEGF、FGFの遺伝子導入による血管新生療法(血管再生療法)ではその効果も報告され、日本でも血管新生因子HGF遺伝子を用いた血管新生療法の臨床研究が行われています。また、骨髄液(こつずいえき)から抽出した単核球(たんかくきゅう)細胞((かん)細胞)移植による血管新生療法も行われており、臨床研究では内皮前駆細胞による血管新生の効果が報告されています。

 今後、このような先進医療が重症虚血肢の新しい治療法のひとつとなる可能性も出てきており、体への負担が少ない治療法として、とくに高齢者への応用が期待されています。

島本 和明


閉塞性動脈硬化症
へいそくせいどうみゃくこうかしょう
Arteriosclerosis obliterans (ASO)
(循環器の病気)

どんな病気か

 動脈硬化が原因で、四肢(主に下肢)の血流障害を来すものを閉塞性動脈硬化症といいます。主に50~60歳以降の男性に発症します。

 閉塞性動脈硬化症のある人は、下肢の動脈だけでなく、全身の血管にも動脈硬化を来している場合が少なくありません。冠動脈疾患の合併が3割の人で、脳血管障害の合併が2割の人で認められます。

原因は何か

 糖尿病高血圧脂質異常症、喫煙などの動脈硬化の危険因子をもっている人がかかりやすくなります。食生活やライフスタイルの欧米化により、動脈硬化を基盤とする閉塞性動脈硬化症が急速に増えています。

症状の現れ方

 初期の症状は、下肢の冷感やしびれです。進行すると、ある一定の距離を歩くとふくらはぎや太ももが重くなってきたり、痛みを感じるようになります。ひと休みするとおさまり、再び歩くことができます(間欠性跛行(かんけつせいはこう))。

 さらに、安静時にも痛みが現れるようになり、靴ずれなどがきっかけで足に潰瘍ができ、時には壊死(えし)に至ります。

検査と診断

 ふさがった部位より先の動脈の拍動が触れなくなります。四肢の血圧から足関節/上腕血圧比を測ることにより、さらに詳しく下肢の虚血(きょけつ)を診断できます。確定診断にはCT、MRIや血管造影検査が必要になります。

治療の方法

 まずは、動脈硬化の危険因子である糖尿病高血圧脂質異常症の治療を行うことです。また、禁煙はとくに重要です。歩くことにより側副血行路(そくふくけっこうろ)が発達し血行が改善するため、足の症状が出るまでは、休みながらも繰り返し歩くように心がけます。

 寒冷刺激は足の血管をさらに収縮させ、血液の循環を悪くさせます。そのため、靴下、毛布などを使って保温に努めます。入浴も血行の改善に役立ちます。足はいつも清潔にしておきます。爪を切る際は深爪をしないようにし、靴も足先のきつくないものを選ぶようにします。

 初期の冷感やしびれに対しては、血管を拡げる薬(血管拡張薬)や血液を固まりにくくする薬(抗血小板薬)を用います。足の痛みが強い場合には、バイパス手術や狭くなった動脈に風船やステント付きのカテーテルを挿入してふくらませる治療を行います。さらに重症になり壊死が進行した場合は、足の切断が必要になることがあります。

病気に気づいたらどうする

 閉塞性動脈硬化症のある人は、下肢の動脈同様、心臓や脳の動脈も狭くなったり詰まっている可能性が大きく、全身の健康管理が必要になります。

池田 宇一

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「閉塞性動脈硬化症」の解説

へいそくせいどうみゃくこうかしょう【閉塞性動脈硬化症 Arteriosclerosis Obliterans】

[どんな病気か]
 動脈硬化(どうみゃくこうか)によって動脈の内腔(ないくう)が細くなり、その動脈がうけもっている領域の血流が悪化するものです。
 障害される場所は通常、腹部大動脈(ふくぶだいどうみゃく)とそれに続く下肢(かし)の動脈(どうみゃく)です。動脈硬化のなかでも粥状硬化(じゅくじょうこうか)といわれる変化がおこり、動脈が慢性に狭細化していきます。
 50~70歳の男性に好発し、女性は、この病気全体の8~10%を占めるにすぎません。また、ヘビースモーカーや糖尿病のある人に好発します。下肢の血流が障害されるため、症状は足に出ますが、3年経過すると、約半数の人が状態を悪化させます。
 細くなる動脈の範囲は、通常短く、一部で動脈内径が大きくなり、動脈瘤(どうみゃくりゅう)を併発する場合もみられます。
 この病気の基本は動脈硬化なので、他の動脈硬化性の病気をしばしば併発します。心臓の動脈硬化では狭心症(きょうしんしょう)・心筋梗塞(しんきんこうそく)を、脳の動脈硬化では脳梗塞(のうこうそく)を、腹部大動脈の動脈硬化では腹部大動脈瘤(ふくぶだいどうみゃくりゅう)をおこします。それぞれ重度かつ致命的な病気です。
 閉塞性動脈硬化症は、しばしば以上のような疾患を合併します。硬化症自体も難治性、進行性で患者さんを苦しめることが多く、最終的には合併症によって死亡してしまいます。60歳以下で発病した場合、5年生存する率は73%といわれています。
[症状]
 下肢、とくに足先の冷たい感じやしびれが最初におこります。足先を触れると冷たく、その皮膚の色は蒼白(そうはく)または紫色で、足背の脈が弱くなったり、脈が触れないこともあります。左右の足に同時におこることはありませんから、両足を比べると、その差がはっきりわかります。
 症状はゆっくり進行し、そのうち下肢の筋肉が血行障害で痛むようになります。とくに筋肉を使うと血行障害がおこりやすくなるため、歩行中に下肢が痛み、歩けなくなることもあります。立ち止まって休むと血行障害が改善されて痛みがとれて歩けるようになりますが、しばらく歩くと再び痛みだします。この症状を間欠性跛行(かんけつせいはこう)といい、この病気の特徴の1つです(ただし、背骨や下肢の神経障害でも似た状態になります。受診して区別してもらう必要があります)。動脈の狭細化が進むとさらに血行障害の程度が増し、歩ける距離も短くなっていきます。
 血液循環が悪くなり、足先の皮膚が傷つくことが多くなると、皮膚が破れ、黒くて深い傷となり、潰瘍(かいよう)に発展することがあります。こうなると、激しい痛みがあるうえ、きわめて治りにくくなり、傷も趾先(しせん)(足の指先)から足部、下肢(かし)へと拡大します。ときには皮下組織や筋肉まで脱落し、骨が露出することもあります。この状態が下肢壊疽(かしえそ)です。
 壊疽になると、強い痛みが続き、発熱します。放置しておくと全身が衰弱して死に至ります。
 この病気の症状の程度は、フォンテインの分類によって分けられています(表「閉塞性動脈硬化症の重症度分類(フォンテイン分類)」)。
[検査と診断]
 ①下肢の血行障害があること、②動脈硬化による動脈狭細化の部位と程度が明らかであること、③動脈硬化を促進するような因子や動脈硬化に基づく他の臓器の合併症があるかどうかで、つきます。進行性の病気ですから、早期に診断して早く対策をたてることがたいせつです。
 なお、下肢の血行障害は、足先の冷感、皮膚の変色、下腿の脈拍微弱、下肢血圧の低下などで判定されます。
 検査は、脈波計で障害肢の脈拍の高さ(低くなる)と皮膚サーモグラフィーで下肢の皮膚温(他の部位と比べ低下する)を調べます。動脈硬化の部位と動脈狭細化の程度についてはCTやMRI、さらにDSAや血管造影によって動脈を撮影し、下肢動脈を詳しく調べて判定されます。
 合併症の診断は、心臓や脳などにおけるそれぞれの疾患についての診断と同時に行なわれます。ただし、足が痛むために心臓の運動負荷試験はできませんから、薬剤による反応試験を行なって判定します。
[治療]
 3通りの治療法があります。第1は薬で血行を改善する内科治療法、第2は人工血管を使用してバイパス(迂回路(うかいろ))をつくり、動脈狭細化部位の前後の血行を再建する方法、第3は、壊疽の強い場合、下肢を切断してしまう外科治療法です。
 内科治療は、症状がフォンテイン分類でⅠ度と軽く、しばらく薬物治療で経過観察できるゆとりのある場合と、動脈硬化が下腿の細い動脈でおこっており、バイパス手術が適当でない場合とにかぎられます。このときは足先の保温や保護がたいせつで、皮膚に傷をつけないよう細心の注意を払います。
 薬はアルプロスタジル剤を注射や飲み薬で使用し、血管を拡張し血行を促進します。また動脈の細い部分で血栓(けっせん)が発生し、動脈を閉じないように、血栓予防薬を併用します。
 手術が可能であれば、積極的に動脈バイパス術(迂回路形成術(うかいろけいせいじゅつ))を行ないます。フォンテイン分類でⅡ度またはⅢ度の状態が対象となります。
 外科治療は、リスクが少ないうえに下肢の血行障害に対する効果が大きく、症状の改善や進行の停止が期待できます。ただし、虚血性心疾患(きょけつせいしんしっかん)や大動脈瘤の合併がある場合は、通常これらの治療を先に行ないます。
 下肢壊疽が進行し、フォンテイン分類がⅣ度になると、全身状態を悪化させないため、やむを得ず下肢切断(かしせつだん)が行なわれます。ただし最近は、動脈硬化した部分を削り取るアテレクトミーや、血管内で風船をふくらませ、細くなった部位を拡張する経皮的血管拡張術(けいひてきけっかんかくちょうじゅつ)も行なわれるようになっています。

出典 小学館家庭医学館について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「閉塞性動脈硬化症」の意味・わかりやすい解説

閉塞性動脈硬化症
へいそくせいどうみゃくこうかしょう

主として四肢の主幹動脈に粥(じゅく)状硬化性変化をおこし、狭窄(きょうさく)あるいは閉塞を生じて末梢(まっしょう)部に種々の虚血症状がみられる疾患で、ASO(arteriosclerosis obliterans)と略称される。虚血症状は、蒼白(そうはく)、冷感、しびれ(フォンテインFontaine重症度分類第Ⅰ期)に始まり、間欠性跛行(はこう)(同第Ⅱ期)、安静時痛、潰瘍(かいよう)(同第Ⅲ期)、壊死(えし)(同第Ⅳ期)に至るものまで種々の程度のものがある。全身の動脈硬化症の一つの現れであるとされている。

 治療は、動脈硬化症の一般治療のほかに、薬物療法として抗凝固療法(ワルファリン、ヘパリンなど)や抗血小板療法(アスピリンなど)、血管拡張剤(プロスタグランジンE1など)の投与が行われる。また、外科療法としてバイパス移植などの血行再建術、交感神経節切除術、四肢切断術などがより積極的な治療として行われることもある。

[木村和文]

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世界大百科事典(旧版)内の閉塞性動脈硬化症の言及

【血管雑音】より

…また,大きな動脈瘤の場合には,拡張期にも雑音を聴取できることがある。閉塞性動脈硬化症や大動脈炎症候群(高安病)でも,血管に限局的な狭窄がある場合,その部位で収縮期雑音が聴取される。前者では,頸動脈,大腿動脈,腸骨動脈などが好発部位で,大動脈で聴取されることもある。…

※「閉塞性動脈硬化症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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