〘名〙
[一] 二つのものにはさまれた部分。
① 空間的に、二つのものにはさまれた部分。物と物とのま。中間。あいま。あわい。
※万葉(8C後)一一・二四四八「白玉の間(あひだ)開(あ)けつつ貫(ぬ)ける緒も縛(くく)り寄すればまたも逢ふものを」
※平家(13C前)一一「陸(くが)と島の間」
② 時間的に、二つの部分にはさまれた時。時間の連続の切れた部分。
絶え間。間隔。
※万葉(8C後)一五・三七八五「ほととぎす安比太(アヒダ)しまし置け汝(な)が鳴けば吾が思(も)ふ心いたもすべなし」
※
滑稽本・浮世風呂(1809‐13)四「一つつきてあひだのあるは鐘撞
(かねつき)も心あり」
③ 人と人との関係。事物相互の関係。間柄。仲。
※書紀(720)神武即位前(北野本訓)「教ふるに天(きみ)人(たみ)の際(アヒタ)を以てす可からざることを見て」
※源氏(1001‐14頃)賢木「宮のあひだの事、おぼつかなくなり侍りにければ」
※駅夫日記(1907)〈
白柳秀湖〉一二「日本鉄道の曾我とは非常に懇意の間だ」
④ 人と人の間柄が悪くなった状態。紛争。
※東寺百合文書‐ハ・長祿三年(1459)八月二九日・若狭太良庄百姓申状「源権守・法一か間之少免事」
⑤ 二つ以上のもののうちの範囲を表わす。…のうち。…の中で。
※太平記(14C後)二「彼の入道父子が間(あひだ)に一人さし殺して、腹切らんずる物を」
※労働者誘拐(1918)〈江口渙〉「労働者同志の間にはほとんど何の会話も交されない」
[二] あるひとまとまりの部分。
① 空間のへだたり。距離。
※万葉(8C後)一四・三五七一「己妻(おのづま)をひとの里に置きおほほしく見つつそ来ぬる此の道の安比太(アヒダ)」
※狐の裁判(1884)〈井上勤訳〉六「少しく距離(アヒダ)の遠かりしゆゑ」
② 時間的に、限られた範囲。
(イ) 時の経過におけるある範囲。期間内。うち。ほど。
※万葉(8C後)五・七九四「年月も いまだあらねば 心ゆも 思はぬ阿比陁(アヒダ)に うち靡き 臥(こや)しぬれ」
※竹取(9C末‐10C初)「かた時のあひだとてかの国よりまうでこしかども」
※小学教授書(1873)〈文部省〉「二時の間か、又は三時の間、稽古致しますと」
(ロ) 特別の時間でない、普通の時。なんでもない時。
※滑稽本・魂胆夢輔譚(1844‐47)初「間(アヒダ)の洒落る時とは違ふ。用の咄しの時はまじめがいい」
[三] 形式名詞化して用いられる。
① (
接続助詞のように用いて) 原因、理由を示す。…によって。…が故に。…ので。
※
御堂関白記‐寛弘八年(1011)六月一三日「東宮雑事不
レ閑間、可
レ然令旨等未下」
※宇治拾遺(1221頃)一「道はせばくて、馬何かとひしめきけるあひだ、此の大童子走りそひて」
② 「この間」の形で、漠然とした時を示す。
※拾遺(1005‐07頃か)哀傷・一三二二・詞書「このあひだ病重くなりにけり」
[語誌](1)基本的には、基準となる二つのものが存在し、それにはさまれた部分をいう((一)の用法)。空間(「東京と京都の間」)・時間(「間をおかずに出発する」)どちらの場合もあり、また、そのはさまれた部分は大きなものである場合(「月と地球の間」)、すきまがない場合(「二枚の紙の間」)、抽象的なものである場合(「親子の間」)などがある。それに対し、基準となる二者を明示せずに、そのはさまれた部分を全体として一つのものとしてとらえる用法もある((二)の用法)。「
夏休みの間」「花が咲いている間」など。
(2)
現代語では(二)の用法は時間的なものに限られるが、古くは空間的用法も存在した。万葉‐七〇〇「かくしてやなほやまからむ近からぬ道の間
(あひだ)をなづみまゐ来て」など。
(3)(二)の用法では、「間」の前に用言・
助動詞の
連体形による連体修飾が来ることが多く、この用法から(三)の用法が派生した。(三)の用法は、記録資料に多く用いられ、中世以後一般化した。