韻文(読み)インブン

デジタル大辞泉 「韻文」の意味・読み・例文・類語

いん‐ぶん〔ヰン‐〕【韻文】

一定の韻律をもち、形式の整った文章。漢文では句末に韻字を置いたなどをいい、和文では和歌俳句などをいう。狭義には詩と同義に用いられる。⇔散文
[類語]うた詩歌詩賦しふ吟詠ポエムバース詩編叙情詩叙事詩定型詩自由詩バラードソネット新体詩

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精選版 日本国語大辞典 「韻文」の意味・読み・例文・類語

いん‐ぶん ヰン‥【韻文】

〘名〙 韻律による表現効果を意識した、文章、詩歌などの類。中国では、音声高低主体とし、一定の韻字を句末に用いて調子を整え、日本では、短歌、俳句などのように、各語の音節数の配列にたよって構成し、西洋では、音声の長短アクセント強弱の配列などによって声調を整えるなど、言語圏によって異なる。⇔散文
青春(1905‐06)〈小栗風葉〉春「韻文でも翫味為やうと云ふ、那様(そんな)心懸の読者

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百科事典マイペディア 「韻文」の意味・わかりやすい解説

韻文【いんぶん】

韻律,形式,字数などに拘束される言語表現のこと。戯曲や物語,経典や歴史,教訓などに用いられた例も多く,作品としての〈〉とは必ずしも一致しない。古代では韻文が詩の条件であったが,叙事詩,劇詩,抒情詩の順で散文形式も許されるようになった。散文の対。→散文詩
→関連項目サテュリコン詩劇ソフロン駢文レトリックロマンス

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改訂新版 世界大百科事典 「韻文」の意味・わかりやすい解説

韻文 (いんぶん)
verse

その言語に特有の韻律の規則に従い,詩の行を形づくるように配慮して書かれた文章。この配慮のない文章を〈散文prose〉と呼ぶが,その対語としての〈韻文〉は事実上は〈詩行〉と同語である。韻律の規則を守るといっても,韻文を一読してただちにそれと認知する特徴は,韻よりもむしろ律,すなわちリズムにあると考えられる。〈韻文〉は必ずしも,作品としての〈〉の同義語ではない。戯曲や物語が韻文で書かれた例は多く,古代には経典や歴史,教訓などにもしばしば韻文を用いた。これは一つには韻文の方が散文よりも記憶しやすく,伝承による変形に対して抵抗力があるため,口承に便利だったからであるが,同時に,音韻形式上の配慮によって,その言説が非日常化され,特殊化されて,一種の聖性もしくは芸術性を保証されると考えられたからでもあるといわれる。今日でも,名文とされる散文はしばしば韻文の特徴をそなえているとされるが,他方,近代の散文詩の出現以来,韻文の非現実性を嫌ってこれを用いない詩人も多い。
韻律 →口承文芸
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「韻文」の意味・わかりやすい解説

韻文
いんぶん
verse

韻律押韻といった一定の規律に従って書かれた言語表現のことで,散文 proseと対置される。英語の verseやフランス語の versはラテン語の versus (回転) を語源とし,同じリズムの繰返し・回帰という性質を表わす。口承時代には記憶しやすいために歴史的,宗教的叙述にも韻文が用いられたが,文字が用いられるようになると,そのような規則性は主として詩に限られるようになり,詩 poetryと同義とされたこともあるが,散文詩といった言葉からもわかるとおり,詩は韻文で書かれるとはかぎらないし,韻文だからといって詩とはいえない。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「韻文」の意味・わかりやすい解説

韻文
いんぶん

一定の韻律と形式を伴った文章。漢詩文においては韻字を句末に配して声調を整え、西欧の詩では脚韻律動が活用された。わが国の韻文は短歌、俳句に代表されるが、ほかに長歌、今様(いまよう)、旋頭歌(せどうか)、和讚(わさん)、片歌(かたうた)などがあった。一般に韻文すなわち詩と考えられているが、かりに韻文で書かれていても、そこに詩精神がなければそれは詩とはいえない。たとえば、1869年(明治2)に刊行された福沢諭吉の『世界国尽(くにづくし)』は、七五調で書かれた世界地理の案内書ではあったが、詩とは無縁なものである。また、韻文は散文と対比されるが、ポール・バレリーは両者の違いを、韻文を舞踏とすれば、散文は歩行にあたると説明している。

[窪田般彌]

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世界大百科事典(旧版)内の韻文の言及

【韻律】より

…強勢と高低との関係も日本語,英語,中国語ともに同様であって,日本語は高さアクセント,英語は強さアクセントということはなく,どの国語も高さと強さの合成アクセントをもつものである。【土居 光知】
【中国詩】
 中国においては,もっぱら知識人によって作られ,本来は単に詩と呼ばれ,日本においては漢詩,現代中国においては旧詩と呼ばれている韻文のジャンルで,高度の完成された韻律が見られる。このジャンルはまた,中国におけるもっとも主要な韻文でもある。…

【詩劇】より

韻文を用いた演劇。演劇において詩的言語が散文的言語に先行したことは,歴史が証明している。…

※「韻文」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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