風力発電(読み)ふうりょくはつでん

精選版 日本国語大辞典 「風力発電」の意味・読み・例文・類語

ふうりょく‐はつでん【風力発電】

〘名〙 風のエネルギーを利用し、風車を回転させて電力を起こす発電方式。

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デジタル大辞泉 「風力発電」の意味・読み・例文・類語

ふうりょく‐はつでん【風力発電】

風のエネルギーを利用して得た動力で発電機を駆動する方式の発電。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「風力発電」の意味・わかりやすい解説

風力発電
ふうりょくはつでん

風のエネルギーを風車によって機械エネルギーに変換し、発電機を回して発電する方式をいう。

原理

風の起源は太陽からの放射熱である。放射熱が大気や地表の状況の異なりによって分布が乱れ、温度差が生じて風が発生する。この風による風力エネルギーは、大気圏に入ってくる太陽エネルギーの約2%が変換されるといわれ、地球全体としてはきわめて大きなエネルギーとなる。風力発電の原理は、風の運動エネルギーを風車の回転運動に変換して取り出すものである。いま風のあたる受風面積をAρを空気の密度、vを風速とすれば、単位時間あたりの運動エネルギー、すなわちパワーはWAρv3/2で表される。つまり風力エネルギーは受風面積に比例して、風速の3乗に比例することとなる。このエネルギーのうち風車のタービンによって回転エネルギーに変換できるのは理論的に約60%が限界で、実際の風車エネルギーは空気の粘性、その他の影響などから約45%以下となる。つまり、受風面積半径1メートル、風速10メートル毎秒では約1キロワットの回転エネルギーが得られる。

[道上 勉・嶋田隆一]

風車の種類と発電システム

風車の種類は水平軸風車と垂直軸風車に分けられ、前者の代表が高速タイプのプロペラ型で、減速比(風車と発電機の回転数比)を小さくできるので風力発電の用途に適している。風はその強さと向きを絶えず変化させるので、風力制御としてはこの変動する風を効率よく捕獲し、安定な出力を得るため、出力、回転速度を制御するピッチ制御と風向制御をつかさどるヨー制御が用いられている。

 後者の垂直軸型は、ダリウス型が代表で風向きによらず発電できるためヨー制御は不要で、中心軸が避雷設備を兼ねるなど小型風車には適している。しかし回転速度が遅く、始動時のトルクが低いので弱風では始動しにくいなどの欠点がある。

 プロペラ型風力発電の代表で1.5メガワットのシステムは、ローター(回転翼)の直径が66メートル、回転軸の高さ60メートルでジャンボジェット機を立てたような巨大な構造物である。風車が大きいほど高さが高いほど、能力が大きくなりワット当りコストが安くなるが、日本では陸上輸送の制限から2.5メガワットが限界であろう。輸送制限のない洋上風力発電では3メガワット、5メガワット機の導入が計画されている。

 風力発電の先進国はドイツデンマークオランダである。とくにオランダの風車は観光資源としても有名であるが、これらの国は北海からの強い西風に恵まれている。これらの国では1975年ごろから始まる石油の高騰、原子力の衰退、地球温暖化に後押しされ、近代風力発電の開発に成功し、電力の30%を風力に頼るようになっている。ヨーロッパ全体では2020年に全電力の20%、2050年には50%を再生可能エネルギーでまかなうことを目標にしているが、そのほとんどは風力発電である。北海沿いの国では、暖房する冬に電力需要のピークがあり、北海からの強風は風力発電に都合がよく、政府主導による買い取り制度や、買い取り義務目標によって急速に進展している。世界の累積導入量は、1999年には14ギガワットだったものが、5年後の2004年には48ギガワットになって、10年後の2009年にはさらに160ギガワットと目覚ましい伸びを示している。これからは浅い北海にさらに大きな、1機5メガワットクラスの風車を数百機建設する洋上風力発電群の建設が計画されている。

 発電システムとしては、羽の回転を、ギアを介さず、強力な磁石式の直径の大きな多極同期発電機で発電する方式が効率的である。多極ギアレス磁石式同期発電方式は半導体スイッチによるコンバーターで全電力を直流電力に変換し、インバーター電力系統配電線に接続する一方、ギア付き発電機方式は増速ギアを使って従来の発電機回転速度にして同期発電機を用いるか、または可変速交流界磁による巻線形誘導発電機を用いる。保守が困難で稼働率が重要な洋上風力発電では、コストが安く堅牢(けんろう)な、かご形誘導発電機方式も検討されている。

[嶋田隆一]

日本の風力発電

日本における風力発電の開発は海外での風力エネルギー利用の研究開発が活発化し始めた1975年(昭和50)ごろから開始され、環境保全上の重要なクリーンなエネルギーとして国のサンシャイン計画のなかで100キロワット級風力発電プラントの開発が取り上げられた。1980年始めは出力50キロワット機が主力であったが、1995年(平成7)時点で500キロ~800キロワット機が主力となり、1996年以降には1000キロ~1500キロワット機が登場した。現在は輸送制限の関係で最大の2500キロワット機が普及段階に達している。設備容量の現状は2007年(平成19)時点で、世界全体で100ギガワットのうち、日本が1.5ギガワット、アメリカ約16ギガワット、ドイツ22ギガワット、スペイン15ギガワット、イギリス2.4ギガワットとなっておりヨーロッパを中心に多く建設されている。2007年からはドイツが伸び悩む一方、インド、中国での風力発電の普及は目覚ましい。日本では地域の電力会社が発電と送配電を独占してきたので買電だけの運営はなじみがなく、民間、NPO(民間非営利組織)、地方自治体が風力発電設備をつくっても電力会社が電気を買い取ってくれない状況があった。グリーン電力として2012年までに3ギガワット(300万キロワット)の導入を義務化して目標としたが(電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法=RPS法といわれた)、結局、国内全体で目標は達せられなかった。本格的普及は東日本大震災とそれに伴う福島第一原子力発電所事故のあと、その必要性が議論されている電力事業の構造改革がなされてからと思われる。大規模な開発例としては2008年青森県六ヶ所(ろっかしょ)村に1500キロワット機が34台、全体で51メガワットが完成している。単機容量の最大は、北海道根室(ねむろ)市の昆布盛(こんぶもり)にある風力発電所の2.5メガワット機である。日本はヨーロッパのように平野が広くなく山岳が多いため、建設が困難でこの容量が最大であるが、今後は洋上にさらに大型機を多数配置する洋上風力発電群の開発が期待されている。

 日本では、発生電力の電力会社への卸売りに関して、2003年よりRPS法による買い取り量の目標と義務化を行い、さらに2012年7月1日より「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」で買い取り価格の保証制度などが実施され、このことが引き金となり急速に普及が進んでいる。

[嶋田隆一]


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知恵蔵 「風力発電」の解説

風力発電

風のエネルギーを利用し、風車を回すなどして発電機を駆動し電力を得る発電方式。環境問題についての世界的な関心の高まりのなか、核事故や放射性物質による汚染がなく発電原理上は温室効果ガスも排出しない、再生可能な自然エネルギーを利用する発電方式として注目され、世界各地で導入が急速に進められている。
エネルギー源としての長所・短所としては次のようなものが挙げられる。環境負荷が小さいこと以外に、外国に依存することなく得られる自然エネルギーなので、エネルギー自給率を高め、エネルギーセキュリティーが確保できる。再生可能エネルギーの中では、技術の確立が進んでおり発電効率が高く、設備費用が安価で設置・点検に要する工期も短いことなどからコスト面では有利。小型のものから、定格出力が1基数千キロワット程度の大型のものまで、設備の選択の幅が広い。また、太陽光発電のような時間的制約がなく、風が常時吹くという前提で昼夜を問わず発電が可能である。ただし、常時安定した風が得られる地域は限定されるため、風速によって出力が一定しない。また、ブレードの風切り音や低周波音などを伴うことから、大型のものについては人家の近くには設置できない。火力・原子力などと比較すると1基当たりの出力が小さく、商用発電のためには多数の風車を配列することになり自然景観を著しく損なう。この他に、ブレードに鳥が巻き込まれることなども問題視されている。
2000年を前後して各国で風力発電導入が大きく進み、10年には中国、米国ともに4千万キロワットを超えるようになった。EU諸国ではデンマークやスペインのように、国内電力需要の2割前後を賄う国も出てきている。日本政府は「新エネルギー」対策として02年に「地球温暖化対策推進大綱」を定め、10年度には総設備容量300万キロワットを目指したが、実績は230万キロワット程度にとどまった。日本は政策的に原子力発電を強力に推進してきており、電力会社が風力発電等の電力買い取りに消極的であることや、常時一定の風が吹く適地が得にくいこと、台風、落雷などに耐える設備を設置するとコスト高になることなどが風力発電の普及を阻んできた。しかし、陸上の適地は少ないが、北海道や、北東北、九州などの沿岸部を中心に海上の風況には恵まれている。陸海合わせ、面積からの単純計算では現在の日本の全発電設備容量の4~9倍のポテンシャルがあるという。風力発電の出力変動についても、設置地域が拡大分散化すればある程度は平準化が可能である。実際の運用・設置では、水深50メートルを超える海域で必要になる浮体式風力発電設備の技術開発や、送電方法の問題など様々な課題はあるが、「新エネルギー」の核として、また東日本大震災の復興事業の柱としても大きな関心が寄せられている。

(金谷俊秀  ライター / 2011年)

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改訂新版 世界大百科事典 「風力発電」の意味・わかりやすい解説

風力発電 (ふうりょくはつでん)
wind power generation

風のエネルギーを用いた発電。風車を用いて発電機を駆動するのがふつうであるが,風力でイオンを運ぶ直接発電も考えられる。風車としては水平軸形のプロペラ形風車と垂直軸形のダリウス形風車がよく用いられる。大規模で電力系統に接続されるものから,離島や山間僻地などの独立小電源まで幅広い利用範囲がある。風の条件に恵まれた場所に多数の風車をおいて発電する方式をウィンドファームと呼ぶが,アメリカ,カリフォルニア州に多い。大規模なものではプロペラの直径99m,出力3200kWがハワイのオアフ島に建設された。垂直軸のダリウス形ではカナダで直径64m,高さ56m,出力4000kWの例がある。またヨーロッパでも数多くの実施例や開発計画がある。例えばデンマークでは1997年現在風車4300基,総発電量の約5%をまかなっているという。日本では東北電力が青森県竜飛岬に建設した300kW,275kW各5基が代表例である。

 風力は時間的変動が大きいので,とくに独立電源として用いる場合は蓄電池を充電するなどの貯蔵,あるいは他の発電方式と組み合わせるなどのくふうが必要になる。
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百科事典マイペディア 「風力発電」の意味・わかりやすい解説

風力発電【ふうりょくはつでん】

風車で発電機を回転させる発電方式。風車はプロペラ形(水平軸式)とダリウス形(垂直軸式)がある。風力の変動に対応して,発生した電力は電池にたくわえられてから出力されるのが普通である。多数の風車を設置して発電を行う場所をウィンドファームと呼び,アメリカ・カリフォルニア州で発達。事業化が容易なため,大規模に実用化され世界全体の設備容量は5932万kW(2005年末)である。日本では924基,約93万kW(2004年度)で,青森県,北海道,秋田県などに多い。クリーンなエネルギーであるが,高コストの克服が課題。なお,風力発電量が多い国はドイツ,アメリカ,デンマーク,スペイン,インドなどである。
→関連項目クリーンエネルギー新エネルギー発電

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「風力発電」の意味・わかりやすい解説

風力発電
ふうりょくはつでん
wind power generation

風力によって発電機を回して発電する方法。風力は時々刻々大きく変化するので,発電機出力を一定にするために,風胴を用いたり,風速に応じて風車のピッチを変化させるなど工夫が必要である。風車の回転軸の方向によって水平軸形と垂直軸形に分類することができる。翼に風を当てると,翼には揚力と抗力が働く。主として揚力によって回転トルクを発生させる方式を揚力形,抗力による方式を抗力形という。風車はクリーンなエネルギーを利用する電力として,日本各地に広まりつつある。

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世界大百科事典(旧版)内の風力発電の言及

【エネルギー資源】より

…しかし,原子力発電の安全性についての不信感がぬぐいきれないことや,環境問題への関心の高まりを背景として,再生可能エネルギーへの期待は急速に高まっている。風車の技術進歩によるコストダウンが進んだ結果,アメリカの太平洋岸やデンマークなどの北欧諸国では風の条件のよい所で風力発電の建設が積極的に進められており,世界エネルギー会議の調査では1993年には,世界の風力発電設備能力は約320万kWに達している。また,太陽光発電については,大量生産によるコストダウンをねらって,各国が補助政策による需要の拡大を図っている。…

【風】より

…以下に例をあげてみよう。
[風車,風力発電]
 風車は古くはインドや中国などで,脱穀や製塩のために水を引き入れる道具として使われていた。ヨーロッパには12世紀ごろイスラム教徒によって伝えられ,14,15世紀ごろまで主として粉ひきの動力源として用いられていた。…

※「風力発電」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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