麻紙(読み)まし

精選版 日本国語大辞典 「麻紙」の意味・読み・例文・類語

ま‐し【麻紙】

〘名〙 麻の皮の繊維原料としてつくった紙。上代、多く経巻などに用いた。
正倉院文書‐天平勝宝八年(756)六月二一日・東大寺献物帳「孝経一巻 麻紙、瑪瑙軸、滅紫紙、綺帯」 〔新唐書芸文志

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デジタル大辞泉 「麻紙」の意味・読み・例文・類語

ま‐し【麻紙】

麻布または麻の繊維を原料としていた紙。古代写経などに用いられた。

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改訂新版 世界大百科事典 「麻紙」の意味・わかりやすい解説

麻紙 (まし)

楮紙(こうぞがみ)(穀紙(こくし))や雁皮紙(がんぴし)(斐紙(ひし))とともに,古代の和紙の代表的な三紙の一つであった。遺跡から発掘された最古の紙は,いずれも麻紙で,タイマチョマを原料とし,なかには砕き切れずに残った麻布の切れ端が混じっているものもある。このように古い歴史をもつため,古代においては貴い高級紙とみなされ,正倉院宝物の目録(国家珍宝帳など)のような重要な文書は白麻紙に記されている。アサの繊維は強靱(きようじん)で長い繊維であるため,紙の原料とするには5mm~2cmほどの長さに切断する。また古い麻布もすりつぶして用いられていた。麻紙はじょうぶで,重々しい風格の紙であるが,紙肌が粗く,墨と筆で書くには困難がある。そこで槌で紙を打つ打紙(うちがみ)や動物のきばで磨く瑩紙(えいし)などの加工をして,書きやすくしなければならない。写経所には,その作業を行う瑩生(えいしよう)がいた。こうした原料処理の困難や書きにくさなどのため,平安時代の中期ころには,麻紙の製法は絶えたものとみられる。なお,中国における麻紙は,唐時代(618-907)までは盛んであったが,北宋(960-1127)以後は減少して,楮紙や竹紙主流となった。日本の麻紙の製紙は長く絶えていたが,大正時代越前紙(福井県越前市の旧今立町)の岩野平三郎によって復興され,現在も同家が日本画を中心とした書画用紙としてすいている。近年,高知などでも麻紙が試みられるなど,麻紙への関心が高まっている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「麻紙」の意味・わかりやすい解説

麻紙
まし

アサの繊維を原料とした紙。麻布や生(なま)のアサ繊維を使って紙を漉(す)くことは、もっとも古くから行われていた方法であるが、そのころのアサはタイマ(大麻)やマオ(苧麻)が区別されることもなく用いられていた。飛鳥(あすか)時代には唐から白(はく)麻紙、黄(おう)麻紙、緑(みどり)麻紙などとよばれる種類が輸入されたが、奈良時代にはわが国でも抄造され、当時の麻紙類が正倉院に現存している。また『延喜式(えんぎしき)』にみられる図書寮紙屋院(ずしょのりょうしおくいん)の抄紙規定では、楮紙(こうぞがみ)や斐紙(ひし)の抄造数に比べて麻紙の1日の責任量が十数枚少なくされていることから、それだけ手数を要したことがわかる。また同じく書写の規定では、麻紙に筆記する字数を楮紙などよりも年間を通して1日量につき100字少なくしている。このように麻紙は抄造においても使用上においても能率が悪くて不便なため、平安時代なかばにはまったく使用されなくなった。しかし、特別な場合には色紙や書画紙として漉かれることもあり、現代でも求めに応じ、福井県今立(いまだて)や京都府黒谷などで漉いている。

[町田誠之]

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普及版 字通 「麻紙」の読み・字形・画数・意味

【麻紙】まし

麻で作った紙。晋・王羲之〔麻紙帖〕下(ちかごろ)紙を欲せしに、(たまたま)る。

字通「麻」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「麻紙」の意味・わかりやすい解説

麻紙
あさがみ
hemp paper

麻の繊維を原料につくられた紙。「まし」とも呼称される。麻は古代の紙の主要原料の一つであり,日本においても古くから製造・利用され上麻紙,黄麻紙,色麻紙などの多くの種類があった。しかし原料調達や製法上の問題から,平安期以後はしだいに衰えた。現在製法が復元され,福井県越前市,京都府綾部市黒谷,高知県いの町などで製造されている。強度が高く耐久性に富み,もっぱら墨書に使用されている。

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世界大百科事典(旧版)内の麻紙の言及

【紙】より

… 初期の製紙には麻が主要な原料であったが,蔡倫の改良によって多くの植物繊維が使用されるようになった。唐の欧陽詢の《芸文類聚》巻五十八に三国魏の董巴の文章を引用し,〈東京(洛陽)に蔡侯紙あり,故麻を用いるものを麻紙といい,木皮を榖紙と名づけ,故漁網を網紙と名づける〉とある。このうち,原料となった木皮は榖すなわち楮であった。…

【楮紙】より

…以上のようにして,多種多様の特色をもつ各地のコウゾが多様な楮紙を生み,ひいては和紙の内容を豊富なものにしている。
[生産・用途]
 古代の和紙の代表的な紙は,楮紙・雁皮紙(がんぴし)・麻紙(まし)の3種であり,とくに麻紙は最も尊いとされたが,正倉院に残る和紙の調査によると,麻紙と称される紙にも楮紙が多いといわれる。また,当時はコウゾとガンピを混合して用いる場合が多かった。…

【料紙】より

…文書をはじめ典籍,経典等の文字を書くときに使用する紙のこと。日本で用いられた料紙は,原料によって麻紙,楮(こうぞ)紙,斐(ひ)紙,三椏(みつまた)紙等がある。麻紙は白麻,黄麻を原料とした紙で,奈良時代から平安時代初期に多く用いられ,特に写経用として珍重された。…

【和紙】より


[歴史]
 従来,中国の蔡倫(さいりん)が105年に紙を発明したとされてきた(《後漢書》)。しかし,近年,中国でそれをさかのぼる年代の紙がつぎつぎと発掘されており,すでに前漢時代(前206‐後8)には麻を原料とした紙(麻紙)があったことが明らかになっている。紙の製法を日本に伝えたのは,610年(推古18)に渡来した高句麗の僧曇徴といわれてきた(《日本書紀》)。…

※「麻紙」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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