いろいろな市販胃腸薬とその使い方(読み)いろいろなしはんいちょうやくとそのつかいかた

家庭医学館 の解説

いろいろなしはんいちょうやくとそのつかいかた【いろいろな市販胃腸薬とその使い方】

◎上・下部消化管に作用する薬
 薬には「医療用医薬品」と「一般用医薬品」とがあります。医療用医薬品は医師の処方なしには使用できないもので、通常、1つの薬剤に含まれる成分は1種類です。
 一般用医薬品は薬局などで誰もが購入できるもので、市販薬ともいわれます。対症治療薬、つまり「症状をやわらげるため」の薬が多く、いくつかの症状に対応するため、通常、複数の成分が含まれています。
 市販の胃腸薬もこの一般用医薬品の1つです。医師はいつでも医療用医薬品しか処方しないのではなく、適当と判断した場合には市販薬を処方することもあります。
 腹部にはいくつかの臓器があり、そこにおこる病気はたくさんあります。そして、それらの病気による症状は多種多様で、しかも人によって現われ方が一様ではありません。
 腹部の臓器には食道、胃、十二指腸(じゅうにしちょう)、小腸(しょうちょう)、大腸(だいちょう)、肝臓(かんぞう)、胆嚢(たんのう)、胆管(たんかん)、膵臓(すいぞう)、腸間膜(ちょうかんまく)、虫垂(ちゅうすい)(盲腸(もうちょう)は俗称)があります。これらのうち、食道は腹腔(ふくくう)内にはありませんが、腹部の器官として消化器科で扱われています。また、食道、胃、十二指腸は上部消化管、大腸と直腸は下部消化管と分けて呼ばれています。
 市販胃腸薬とは、おもに食道、胃、十二指腸、小腸、大腸に作用するものをいいます。
 消化器疾患に起因する症状には、腹痛、胃重感(いじゅうかん)(胃が重たい感じ)、吐(は)き気(け)、嘔吐(おうと)、胸やけ、噯気(あいき)(げっぷ)、もたれ、腹満(ふくまん)(おなかが張った感じ)、腹鳴(ふくめい)、便秘、下痢(げり)、吐血とけつ)、下血(げけつ)などがあり、もっともよくみられるのは腹痛です。
 市販の胃腸薬にはこういった腹部のいろいろな症状を軽減するためにいくつかの成分が含まれています。しかし、症状が同じでも、ときにはその原因が異なる場合があるため、服用してかえって具合の悪くなることもありえます。たとえば、尿路系の臓器(腎臓(じんぞう)、尿管、膀胱ぼうこう))や婦人科系の臓器(子宮、卵巣(らんそう)、卵管(らんかん))も腹部症状で発症するからです。
◎市販胃腸薬に含まれる成分
 市販胃腸薬に含まれる成分には、制酸剤(せいさんざい)および胃粘膜保護剤(いねんまくほござい)(胃液の分泌(ぶんぴつ)を抑え、胃粘膜を胃液の刺激から防御する)、健胃剤(けんいざい)(胃液の分泌を促し、胃壁を刺激して食欲を増進させる)、消化酵素剤(しょうかこうそざい)(食物の消化を助ける)、鎮痛(ちんつう)・鎮痙薬(ちんけいやく)(胃や腸の緊張をやわらげ、痛みを抑える)、整腸剤(せいちょうざい)(くずれた腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)=細菌の集まりを正常にもどす)、止痢薬(しりやく)(下痢を止める)、下剤(げざい)、便秘薬(便通を促す)があります。
 これらのうち、制酸剤および胃粘膜保護剤、健胃剤、消化酵素剤、鎮痛・鎮痙薬は上部消化管に、鎮痛・鎮痙薬、整腸剤、止痢薬、下剤は下部消化管にそれぞれ作用する薬剤に含まれています。
 つぎに、上部消化管と下部消化管別に市販胃腸薬をみてみましょう。
●上部消化管に対する薬
 上腹部の痛み、重たい感じ、胸やけ、吐き気、もたれなどは上部消化管の異常に基づく症状と考えられますが、原因がはっきりせず、症状も多彩なときには、いわゆる「総合胃腸薬」がよいと思われます。そのなかには前述した成分のほとんどが含まれているからです。
 しかし、どのような症状にも対応できるように、相反する作用の成分が含まれていることもあるため、服用して症状がかえって悪化したり、効果がなかったりすることもあります。このようなときは医師に相談しましょう。
 原因が暴飲暴食や刺激の強い食物によるとわかっていて、下痢や下腹部痛をともなわない場合は制酸剤および胃粘膜保護剤、健胃剤、消化酵素剤の入った薬を、下痢、下腹部痛をともなう場合は鎮痛・鎮痙薬と整腸剤を含むものを服用するのがよいでしょう。
●下部消化管に対する薬
 下部消化管に対する薬は、便秘薬と止痢薬(下痢止め)に分けられます。下痢と便秘をくり返す場合は、胃腸科専門医への受診をお勧めします。
 下痢止め 下痢止めには、腸粘膜を保護する収斂剤(しゅうれんざい)、腸内細菌叢を正常化する酪酸菌(らくさんきん)や乳酸菌製剤(整腸剤)、腸管の緊張をやわらげる鎮痙薬、殺菌作用のある殺菌剤などが含まれています。
 下痢には急性下痢と慢性下痢がありますが、急性下痢には感染性腸炎のおそれもあるので、吐き気、嘔吐、発熱をともなう場合は受診すべきです。症状が軽い場合や、原因が飲みすぎや食べすぎなどとわかっている場合は整腸剤を服用してようすをみてよいでしょう。
 慢性の下痢の場合ですが、腸が弱くて下痢しやすい人ならば整腸剤で、ストレスや緊張による場合は鎮痛・鎮痙薬を服用してようすをみてよいでしょう。ただし、原因不明の下痢や軟便が続くときは受診してください。
 便秘薬 数日に1度しか便通がなくとも、腹満などの苦痛がなく、排便がスムーズであればとくに治療する必要はありませんが、2日に1度の排便であっても、便が出きった感じがしなかったり、以前とちがって便通が悪くなってきた場合は検査を受けましょう。
 便通は日常の習慣にも左右され、またストレスなど神経性の要因にも影響されます。便秘薬には、大腸を刺激して蠕動(ぜんどう)を促し、排便へと導くもの、直腸での水分吸収を抑えて便をやわらかくするものなどがありますが、多かれ少なかれ習慣性があるため、排便習慣をつけるよう努力したうえで使用しましょう。
 なお、内服剤のほかに坐薬(ざやく)や浣腸液(かんちょうえき)もありますが、これらは苦痛が強いとき以外は使用を控えるほうがよいでしょう。
◎市販胃腸薬を使用するときの注意
 市販胃腸薬の箱には、制酸剤、鎮痙薬などの表示ではなく、含まれている成分の化学名しか記されていないことが多く、化学知識のない人にはわかりづらいものです。
 薬を買うときは、症状をお店の薬剤師によく伝え、症状に合う薬を選んでもらうのがベストです(最近、H2ブロッカーという強い制酸効果のある成分を含む胃・十二指腸潰瘍に有効な薬が市販されましたが、使用には医師の助言を得るようにしましょう)。
 また、つぎのような場合は、市販薬に頼らず、医師にかかるべきです。
①腹部の症状が出現して市販胃腸薬を3日間服用しても症状が改善しない
②定められた量で症状が改善しない(市販薬が対象とする症状や病気は、定められた用量で効果が出るはず)
③黒い便が出た(胃や十二指腸からの出血が疑われる)
④長く常用している薬(便秘薬など)が効かなくなってきた(量を増やしたり種類を変えないで受診する。大腸がんの可能性もある)
⑤腹部症状のほかに冷や汗、ふらつきがある(出血による場合がある)
⑥下痢なのにおなかが張る、または便秘なのに水様便がときに出るなど症状がおかしい
⑦服用時はよいが、やめると症状が再発する。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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