EBM 正しい治療がわかる本 の解説
おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)
●おもな症状と経過
軽い発熱(ないときもある)や体のだるさがおこり、耳の下にある唾液腺(だえきせん)のひとつである耳下腺(じかせん)が腫(は)れたり、赤くなったりします。耳下腺は両方同時に腫れる場合と、先に片方だけ腫れたあと、もう一方が腫れる場合があり、押さえると痛みます。顎(あご)の下の唾液腺である顎下腺(がっかせん)が腫れることもあります。話をしたり食べ物をかんだり、酸(す)っぱい物を食べたりしたときに、耳下腺の痛みが増します。腫れは1~3日で最大になり、3~7日でおさまります。
子どもの場合、ほとんどは重症に至らず治ります。しかし、ときに脳や神経に炎症をおこしたり(髄膜炎(ずいまくえん)や脳炎)、耳が聞こえなくなったり(難聴(なんちょう))、膵臓(すいぞう)に炎症(膵炎(すいえん))をおこしたりすることがあります。思春期以降の男性が感染した場合、約4割が精巣炎(せいそうえん)を合併します。この精巣炎はまれに不妊の原因となります。
●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
ムンプスウイルスによっておこる病気です。感染者の鼻やのどからの分泌液によって感染するか、直接触れることで感染します。
感染してから、14~18日間で症状がでます。ウイルスが気道内で増えたあと、耳下腺に感染して、全身に炎症をおこします。発熱や頭痛がおこり、食欲がなくなってから2日程度で、耳の下にある耳下腺が腫れてきます。
感染しても症状がでない(不顕性感染(ふけんせんかんせん))人が、30~40パーセントいます。しかし、不顕性感染の患者さんも感染源となるため、予防接種をしない限り流行を抑えることはできません。耳下腺、顎下腺の腫脹(しゅちょう)が発現した後5日を経過し、かつ全身状態が良好になるまで、保育所や幼稚園、学校は出席停止となります。(1)
よく行われている治療とケアをEBMでチェック
[治療とケア]ワクチン接種によって予防する
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 1歳から1歳3カ月の間に1回目、5歳から6歳時の2回目の2回接種で、発症を予防し、合併症の発症率を低下させます。2回接種のほうが、流行時の感染のリスクをより軽減させることができます。(2)~(5)
ワクチンを接種したときに、脳や神経の炎症(無菌性髄膜炎、急性脳炎)がおこる確率は、おたふくかぜにかかったときに比べて著しく低いため、ワクチンの2回接種が強く勧められています。ワクチン接種後に、かぜのような症状や、中耳炎、下痢(げり)の副作用がでることがあります。
日本では、1歳から1歳3カ月の間に1回の接種が任意接種として推奨されており、5歳から6歳の間に2回目の接種をすることが、日本小児科学会から強く推奨されています。日本以外の先進国ではおたふくかぜの予防接種が定期接種化されており、根絶に成功した国も報告されています。(6)
[治療とケア]痛みが激しい場合はあたためる、もしくは冷やす、解熱鎮痛薬を使用する
[評価]☆☆
[評価のポイント] 専門家の意見と経験から支持されています。ただし、子どもにアスピリンを使用してはいけません。
よく使われている薬をEBMでチェック
予防のためのワクチン
[薬名]流行性耳下腺炎ワクチン(2)~(5)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 1歳から1歳3カ月の間に1回目、5歳から6歳時の2回目の2回接種で、発症を予防し、合併症の発症率を低下させます。
解熱薬
[薬名]アンヒバ/アルピニー/カロナール(アセトアミノフェン)
[評価]☆☆
[評価のポイント] アセトアミノフェンは副作用がほとんどなく、子どもにも安全に使用できる解熱鎮痛薬です。
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
ワクチン接種で予防する
この病気に対するワクチン接種の予防効果は確実であることが、信頼性の高い臨床研究によって明らかになっています。任意接種となっていますが、有効性の極めて高いワクチンであることから、1歳から1歳3カ月の間に1回目と、5歳から6歳時に2回目の、計2回のワクチン接種が推奨されています。
ウイルスを排除する治療法はない
原因となるウイルスの増殖を抑制したり、体外への排泄(はいせつ)を促したりする治療法はありません。さまざまな症状や苦痛を軽減することを目的とした処置が、経験的に行われるのが実情です。
たとえば、耳や筋肉の痛みに対して、痛みどめや湿布薬を、発熱に対して解熱薬を用います。口のなかが乾いたり皮膚粘膜に脱水がみられたりしたら、水分の摂取量を増やしたり輸液をすることなどによって水分の補給に努めます。あたたかい牛乳やおかゆ、スープなどの流動食も勧められます。
また、小児科を受診する際は、耳下腺が腫れていることを電話などで伝えましょう。ほかの患者さんにうつらないように、違う待合室を設けている施設が多いので、受付で案内してもらいましょう。
合併症がみられた場合
意識状態が変化する、けいれんやめまい、嘔吐(おうと)で水が飲めないなどの場合は入院が必要です。速やかに医療機関を受診しましょう。
感染力が強い病気
とくに、耳下腺の腫れがおこる1日前から腫れがひくまでは、ムンプスウイルスの感染力が強くなっています。耳下腺が腫れて5日が経過し、かつ全身状態がよくなるまでは保育所や幼稚園、学校は休まなくてはいけません。
(1)文部科学省. 学校において予防すべき感染症の解説. http://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/hoken/__icsFiles/afieldfile/2013/05/15/1334054_02.pdf アクセス日2015年3月28日
(2)Peltola H, Jokinen S, Paunio M, et al. Measles, mumps, and rubella in Finland: 25 years of a nationwide elimination programme.Lancet Infect Dis. 2008;8:796-803.
(3)Deeks SL, Lim GH, Simpson MA, et al.An assessment of mumps vaccine effectiveness by dose during an outbreak in Canada.CMAJ. 2011;183:1014-1020.
(4)Yung CF, Andrews N, Bukasa A, et al.Mumps complications and effects of mumps vaccination, England and Wales, 2002-2006.Emerg Infect Dis. 2011;17:661-7; quiz 766.
(5)Dayan GH, Rubin S.Mumps outbreaks in vaccinated populations: are available mumps vaccines effective enough to prevent outbreaks?Clin Infect Dis. 2008;47:1458-1467.
(6)日本小児科学会. 日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュールの主な変更点. 2014年10月1日. http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/vaccine_schedule.pdf アクセス日2015年3月23日
出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報