おんぶ

改訂新版 世界大百科事典 「おんぶ」の意味・わかりやすい解説

おんぶ

赤ん坊を背負う習慣は,広くアジア諸国,アフリカ,南太平洋諸島,アメリカ・インディアンの諸部族等に見られるが,欧米にはない。背負い方は,地域および部族によって異なる。例えば,アフリカのある部族は母親のしりに乗せ,アメリカ・インディアンは額から背に背負子(しよいこ)をつるし,これに赤ん坊を後向きにくくりつける。日本では,すでに縄文中期の土器,古墳時代の人物埴輪,平安後期の《年中行事絵巻》にも子どもを背負ったものが見られる。江戸時代以前の背負い方は今日とは異なり,母親の着物の中に赤ん坊を入れる。さらに着物の上から赤ん坊のおしりの部分に〈タナ〉(反縄(たんなわ)の略)と呼ばれる幅広の布をかけ,前で結ぶ場合もある。また来日した欧米人(L.フロイス,E.S. モース等)は,幼い少女が赤ん坊を背中にひもでくくりつけていることを報告している。こうして赤ん坊は年長の子どもの遊びに加わり,また大人たちの生活と文化とを学んだ。しかも赤ん坊は,母や祖母の肌のぬくもりに触れることによって情緒的満足を得られ,母親は赤ん坊を満足させつつ家事や仕事ができた。明治以降,西欧式育児法が移入され,おんぶは乳幼児心身発達に害があるという疑問が出され,おんぶは胸と腹を圧迫し,手足血液循環をさまたげ,運動不足になるという報告(1944)も出された。しかし昭和40年代以降,自閉症児の発生などから西欧式育児法一般に対する反省おこり在来の育児法が見直される中で,おんぶは赤ん坊を運搬する安全な方法として,家事とスキンシップとを両立させる方法として,長時間でなければよいとされるようになった。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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